第69話 立花夫婦の帰国
金田一郎と如月星世が双方の両親から結婚の許可貰う事が出来たのは良いが星世はまだ、大学四年生。
医学生は六年間であるが、星世が卒業するまで待てないと言う本人達や双方の両親の考えの元に、星世が五年生になる前の春休みに式を挙げる事になった。
「隼人、星世が結婚するらしいわ」
「でも今度五年でしょ」
「うん、だから派手な式は挙げないらしいの。内輪ではやろうと言う事で、お父様から一時帰国出来ないかって、連絡があったわ」
「そうか、確か妹さんは金田と復活したんだったよね」
「ええ、その通りよ」
「そうか、行き辛いな」
「そうね。でも正式に身内になる訳だし、これから避けて通れないでしょ。ここで会っておけば」
「うーん。素世一人じゃダメ」
「それは無理よ。私は立花素世よ。外に嫁いだ女だから、夫も一緒で無いと不味いわ」
「良く分からない理屈だけど」
あの二人には会い辛いな。金田は大学の知合いで俺と星世との事も知っている。その二人が結婚すると言う事は、うーん、何とも言えない。
「隼人、何考えているの。確かに星世は元カノで金田君は大学の知合いだけど、いずれどこかで会う事になるのよ。問題は先延ばしして良い事何も無いわ」
うっ、素世読心術でも出来るのか。
「分かったよ。仕事の都合付けないといけないから早く式の日取りを聞いてくれ」
「決まっている。三月最後の週末」
「教授と相談してみるよ」
「相談は良いけど出席する方向で話してね」
「分かった」
分かってはいたが、ブルー教授はそんな大事な事に勝る事等ないと言って出席するようむしろ勧められた。
素世は、医療事務という事も有り、問題なく休みが取れた。
そして俺達は、九ヶ月ぶりに帰国した。今は、羽田-ニューヨーク間に直行便が有るので非常に便利だ。
羽田から如月家に向かった。
素世は、昨年のGW以来だが、俺は、一昨年の年末に結婚を許されて以来だから、大分来ていない。
やはり緊張する。素世が玄関でインターフォンを押すとお義母さんが玄関のドアを開けた。
「素世、立花さん。お帰りなさい。お久しぶりね」
「はい、お久しぶりです。ご無沙汰しております」
「寒いから中に入って」
「隼人、早く入ろう」
玄関の上がり口には、お義父さんと星世がいた。
「お父様、ただいま」
「素世、お帰り。久しぶりだね。立花君もいらっしゃい」
「お義父さん、お久しぶりです。ご無沙汰しています」
「さっ、上がりなさい」
「ありがとうございます」
星世と目が合った。
彼女は、輝いていた。結婚式を前にして女性は輝くと言うが本当の様だ。俺の目から見ても美しく輝きがある。
「はや…立花さん。お久しぶりです」
「星世さん。お久しぶりです。おめでとうございます」
「隼人、挨拶はその位にして、私の部屋に行きましょう。お母さん、荷物届いているよね」
「届いているわ。素世の部屋に入れてある」
「ありがとう。隼人。洋服着替えよう。外着のままでは、家の中暑いから」
「うん」
素世の部屋で着替えてから洗面所で手を洗いリビングに行くと
「隼人君、随分久しぶりだな」
「ご無沙汰をしております」
「どうだね、アメリカでの生活は?」
「生活には慣れました。素世さんも大学のすぐ側にある病院で医療事務として働くことが出来ているので、安心です。研究の方は一進一退ですが」
「そうか、そうか。後でゆっくり向こうの生活の話を聞かせてくれ」
「分かりました」
「ところで素世、子供の方はどうだ」
「誰の?」
「お前達に決まっているじゃないか」
素世さんが顔を赤くして下を向きながら
「まだに決まっています。何を言っているのですか」
「あなた、まだ籍を入れて十ヶ月ですよ。何を言っているの」
「でも早い方が」
「隼人の研究がめどを着くまでだめよ」
「めど着くと言ってもずっと続くんだろう」
「星世の子供が出来てからでいいじゃない」
「お姉さん」
今度は星世が顔を赤くして下を向いた。
「ところで式の事、細かく聞いていないのだけど」
「お姉さん、式はこの街にあるホテルで挙げます。あそこは結婚式も挙げられますから。お姉さん達も一緒にどうですか。式挙げていないでしょう」
「私達は良いわよ。もうそんな時期過ぎてしまったし」
「星世良い考えだな。どうだ、私服でも構わないだろう。どうせ、親族には紹介しなければいけないんだ」
「いやよ。するならきちんとしたいわ。ところで星世、結婚後の住まいは何処にするの」
「私の今のマンションに二人で住みます。広さは十分なので。彼の会社までは一時間近くかかりますが、それは納得してくれています」
「そうなの。私達が大学や病院まで車で二十分だから随分遠く感じるわね」
「お姉さん、私達は東京に住んでいます。一時間の通勤時間は普通です。ニューヨークと比較しないで下さい」
「…………」
何か星世変わったな。こんなにはっきりものを言う子では無かった。何か心の中に変化が有ったのかな。後で素世に聞いてみるか。
結局、俺達の式はしないが、式の当日の宿泊はホテルに部屋を取って貰う事になった。確かに素世さんの部屋のベッドでは狭いし、客間に二人で寝るのもちょっとということになった。
翌々日、金田一郎と如月星世の結婚式は慎ましくとも華やかに行われ、如月姉妹の綺麗さは、ホテルの中では一段と人目を引いた。籍は昨日入れて有った様で金田は晴れて如月一郎になった。
ただ、俺は金田に祝辞は言えたが、学生時代と違い、彼と素直に話すのは出来なかった。当たり前か。まあ時間を掛ければいい。しかし、同じ年齢でお兄さんになるのは少し恥ずかしい。
一通りの式を終え、俺は素世さんとラウンジでコーヒーを飲んでいるとスマホが震えた。
金田、いや如月か。通話をオンにすると
「立花か、まだこのスマホ生きていたんだな」
「ああ、日本の人とはこれでやり取りしているからな」
「そうか、少し話をしたい。今から二人で会えないか」
「今からか?!ちょっと待ってくれ」
「素世、金田、いや如月が今から俺と二人で話したいと言っている。いいかな」
「いまから、もう四時よね。どこで」
「彼らの部屋」
「でも星世がいるんじゃない」
「星世は素世と会うから良いと言っている」
「なにそれ、一方的ね。まあ良いわ」
「素世、ちょっと行って来る」
「分かった。部屋で待っているわ。星世には部屋に来るように言っておく」
「それが良いね」
俺は、一郎達の部屋に行った。スイートルームだ。初めてだなこういう所。
「立花悪いな」
「そっちこそ、いいのか」
「ああ、問題ない」
「話とは」
「立花、お前は、日本に戻ってくる気有るのか」
「ない」
「それでは、素世さんとお前の間に出来た子に俺達の子をサポートさせるという話はどうなるんだ」
「先の話だ。お互い生きているかも分からない。その時が来たら決めるよ。俺は向こうに永住するつもりだ」
「そうか。素世さんはそれでいいのか」
「彼女はいずれ向こうで医師免許を取る。それで仕事をする。子供の話など先の事だ」
「…………そうか、立花。如月病院は星世さんと俺が守る。お前はもう戻ってこないでくれ」
「どう言う意味だ。それにお前は医者じゃないだろう」
「それは、お前には関係ない」
「そうか。しかし、素世のお義父さんとの約束がある。それは無視できない」
「大丈夫だ。俺が説得する」
「なぜ、そんな事を言う」
「俺の妻に嫌な思い出を晒しておきたくないんだ。立花隼人という人間を。お前を見る度に彼女はお前との時を思い出すだろう。俺も俺の妻を裏切った男など目の前にいるだけでも嫌だ」
「俺が裏切っただと」
「そうだ。高田幸助の事等関係ない。お前が高田に言われようが、お前が星世を守ればよかった。だがお前は逃げた。ほんの些細な一つの事で」
「些細な一つだと」
「そうだ。本当に大事な人(女性)なら、高田を殴り倒して警察にでも連れて行けば良かったんだ。お前はそれをしなかった。結果的に妻は最悪の形に進んだ。全てお前が悪い。
だから、もう俺達の目の前から消えてくれ。言いたいのはこれだけだ」
「お前に何が分かる。あの時の俺の気持ちの何が分かるんだ」
「そんな事今となってはどうでもいい。結果だけが今ここに有る」
「…………。俺一人の気持ちで決める事等出来ない。如月院長とはもう一度きちんと話す。それに妻の素世は性が立花に変わったとはいえ如月家の人間だ。お前の指図は受けない」
…………。
「立花、俺は言う事は言った。お前が俺の言った事を履行してするかしないかはお前次第だ。だが、もし妻が悲しい思いをするなら実力でお前を如月家から叩き出す。これだけだ」
最後の言葉を捨てる様に言うと如月一郎は、俺を部屋から出て行く様に言った。
何とも後味の悪い話だ。如月一郎の一方的な言い分はそのまま飲み込める訳じゃない。星世の心情を考え、夫としてあのように言うしかなかったのかも知れない。
いずれにしろ素世とも相談するしかない。お義父さんとも素世を入れて話す事が必要だ。
部屋に戻ると星世がいた。和やかな雰囲気だったので安心した。やはり姉妹だな。話が終わったことを星世に伝えると
「夫の言った事を実行して下さい」
それだけ俺に向けて言うと部屋を出て行った。
「隼人、どう言う事」
「あいつの夫との話の事だ」
俺は、素世に如月一郎から言われた事をそのまま話した。
「そんな事言われたの。失礼ね。如月家を自分のものにしたいだけじゃないの。私が許さない。お父様に話すわ」
「素世、ちょっと待って。今お義父さんに話せばせっかくあの二人が挙げた結婚式に水を差すことになる。日にちを置いて再度、時間を設けよう。ご両親も今は幸せな気持ちだろう」
「……。そうね。分かったわ」
俺達はそのままホテルに泊まり、翌日の便でニューヨークに戻った。
―――――
金田君と星世さん結婚できたのは良いけど、如月の姓になった一郎の発言。気持ちは分かるけど一辺倒過ぎる感じかな。
素世さん怒って当然ですね。
次回で終わり…………の予定ですが。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると 投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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