第68話 金田一郎の決心


えーっ、もう少し金田君と柏木さんです。後、大事な事も


―――――


 金田君と同室かあ。まさかなあ。

私は、彼に私には手を出さない事を約束させてからお風呂に来ている。もちろん温泉。

とても滑らかで肌触りの良い温泉だ。湯につかりながら考えていた。


 何となく流れで一緒に旅行に来てしまったけど、まだ彼の事は詳しくは分からない。今まで会った限りでは、優しくて人が良い感じ。だけど本当に大丈夫なんだろうか。まだ、私あっちの経験ないし。付き合ってもいない人と…………。

出来ないわよね。汗が額にじっくりとかいて来た。そろそろ出ようかな。


女湯のドアをガラガラと開けると待合に金田君が座って待っていた。


「お待たせ。金田君。気持ち良かったわ」

「はい、気持ち良かったです」

柏木さん、何かいい匂いがしている。頬がほんのり赤くて、髪の毛をアップしている。うなじが素敵だ。そそられるな。でも約束したから。


部屋に戻るともうすぐ六時。食事の時間だ。

「柏木さん、食事行きましょうか」

「もうそんな時間か。結構温泉に入っていたのね。行きましょう」


食事は小上がりの座敷でテーブルに二人用にお膳が整えられていた。他のテーブルも全て準備されている。


「本当に満室みたいですね」

「そうね」


俺達が座ると仲居さんが、飲み物を聞いて来た。二人でビールを頼む。あまり飲まない様にしないと。


食事はとても美味しく、二人で少し多めに飲んでしまった。部屋に戻ると二人分のお布団が敷かれていた。

うっ、理性を保たないと。柏木さんに指一本触れないと約束しているし。


うわーっ、これは!結構インパクトあるな。本当に二人で寝るんだ。

座るところは窓の所の籐の椅子しかないわね。私は、布団を迂回して窓際の椅子に座った。彼も自然と一緒に向かい合って座る。


「金田君。どうですか気分は」

「とても気持ちいいです。来て良かったです」

「心のもやもや消えそう」

「まだ分からないです。温泉に浸かっている時考えました。本当にこれで良いのかって」

「えっ」


「俺は、星世さんのお母さんにお金を貰ってそのまま帰ってしまいました。彼女からの電話も全て無視して。

 半年間も一緒に過ごして将来の事も話していたのに、星世さんがあんなことになっても何も出来なくて。そして手の平を返す様に僕はお金貰って彼女の元から消えたというか遠のいた訳です。彼女の口から何も聞いていないのに。最低な男ですよね。俺って」

「…………」


「これって、星世さんに対する裏切りじゃないのかって思う様になって。…………。分からないんです。

自分の取った行動がどうしても俺の心の中では、お前が星世さんを裏切っただけじゃないのか。星世さんはまだ俺の事思っているんじゃないかって。

貰ったお金は彼女への裏切りじゃないのかって。済みません。全然すっきりしていないですね」

「…………。そうなんだ」



この旅行、返って彼の悩みを増長させてしまったみたい。ちょっと悪かったかな。変にストレス溜めて襲ってこなければいいんだけど。大丈夫かな。



「済みません。話を変えましょうか。これじゃあ、何のために柏木さんと温泉に旅行に来たのか分からないから」

「そうね。他の話しましょうか」


自然と自販機からお酒を買ってきて二人で飲んでしまった。柏木さん、顔が少し赤くて浴衣が乱れている。不味いな。目の毒。

「金田君、眠くなった。私寝るね」

「あっ、はい。俺も寝ます」


お布団並べて隣に男の人が寝ているなんて、私何しているの。でもなんで胸がドキドキしている。もし、もし彼が来たら…………。そんな事無いよね。私何も期待していないよね。そっと彼の方を見ると。


あれ、金田君寝ちゃった。もう。


翌日は、金田君と一緒に近くの名所を回った。レンタカーを借りていたので、少し遠くまでも出かける事が出来た。

 彼は、明るく振舞っているけど、昨日の夜の事が心に残っているのが手に取る様に分かった。

 旅行に行こうと言ったのは返って彼の心の中の傷を深くしたのではないかと思ってしまう。

 

 二日目の夜も彼は、私に手を出すどころか、前日と同じようにお酒を飲んで先に寝てしまった。


 私は、もしかしたらという思いも心の片隅に有ったが、彼の心の中に居る人(女性)がしっかりとその場所を動かないでいるのだと分かった。


 そうよね。社内恋愛はしないって自分で彼に言ったじゃない。私っておかしいのかな。



柏木さんとの素敵な?温泉旅行から帰って来た俺は、はっきりと自分の心が何処に有るのか理解出来た。


柏木さんには、別れる時思い切りお礼を言ったけど、俺手出してないから命差し出さずに済むよねと言ったら、彼女なんか複雑な顔していたな。

 まあ、いいや。アパートに戻ったら電話してみるか。




スマホが震えている。バッグの中からスマホを取り出して画面を見た。

えっ、金田君…………。何故。彼は連絡しない事を約束させられたはず。いいや出よ。


「はい、如月です」

「星世さんですか。金田です。お会い出来ませせんか」

「えっ、でも。金田君は…………」

「星世さんのお母さんから預かったお金は一円も手を付けていません。全て返すつもりです」

「え、ええ、ど、どういう」

「会って頂けませんか!」

金田君、凄く語気が強い。どうしよう。


「星世さん。お願いします!」



「は、はい。分かりました」

「いつ会えますか」

「明日なら何時でも」

「分かりました。明日、十時に星世さんのマンションに行っていいですか」

「は、はい。待っています」

 金田君何なのかな。凄く強い口調で言って来た。明日来れば分かるかな。


翌日、俺は星世さんのマンション、かつて通い慣れた所へ来ていた。

リビングのソファで星世さんの向かいに座っている。


「金田君、どうしたの。いきなり」

「星世さん、聞きたい事があります」

「は、はい」


「星世さんは、今でも望月の妻として如月病院に残るつもりですか」

「えっ、あ、あのどう言う意味ですか」

「言っている通りです」


「…………。望月、あの男は如月家には入りません。附属病院の外科部長の娘に腰を刺され、車椅子の状態です。まだ、附属病院にはいますが、いずれ教授の娘と実家の病院に戻るはずです」

「…………」


「大学を出て就職なさってしまったから分からなかったのですね」

「しかし、それでは星世さんのお父さんが黙っていないのでは」

「お父様は、使い物にならなくなった以上、必要ない。と言ってあの男を切り捨てました。病院は、私が継ぎます」

「でも、それでは」


「いいんです。これだけ汚れた体です。相応の夫を迎えるつもりです」




「…………。星世さん。その夫、俺にして下さい。柏木さんから高校時代の時からの話、聞きました。立花の事、高田幸助という男の事、そして望月の事も全部飲み込んでいます」

「…………。で、でも、私は」


「いいんです。俺は知っています。星世さんは優しくて、相手の事を気遣う思いやりが有って、料理が上手くて、綺麗で、ちょっとおっちょこちょいだけどとても可愛い人(女性)だって知っています。俺は星世さんの過去は見ません。星世さんのこれからを見ていきます。だから俺と一緒に歩いて下さい」

「で、でも…………。私なんか」

「良いと言っています」

「でも両親には何と言えば」


「星世さんはあの病院を継ぐつもりですか」

「仕方ありません」


「では最初の話に戻して貰いましょう。土下座でも何でもします。どうしてもだめだったら、駆け落ちしましょう。

っていうか、俺達もう大人です。自分たちの意思で結婚できます。星世さんの人生を勝手にしようとしたご両親です。世間体も何もなくあの家を出て俺の所に来て下さい」


私は、もう涙で彼(金田君)の顔が見えなかった。ただ、頷くしかできなかった。

そして思い切り彼に抱き着いた。


「今の言葉信じていいんだよね」

「はい、星世さんもこれからは絶対、どんな事でもどんなに小さなことでも、俺に隠さず話してください。これからは二人で考えましょう」

私は頷くと大声で泣いてしまった。




その週末、俺は星世さんと一緒に如月家に行き、結婚させてくれるなら、婿として此処に入る。させてくれないなら、今すぐ二人で如月家を出て東京に戻り、地元の区役所に結婚届をだす。証人は俺の友人がなってくれると言って両親に迫った。


もちろんあの時のお金は、あの封筒のままそっくり星世のお母さんに返した。土下座なんか絶対にしなかった。


 最初強気で出たご両親だったが、星世さんの人が変わった様な強い言い方に引き下がり、結局俺達の結婚を認めた。

 俺は婿として入る事にはなったけど。家の親にもう一度説明しないと。




帰りの特急で

「ふふふっ、また一郎さんって呼んでいいんだよね」

「うん、いいよ星世」


星世が思い切りキスをして来た。


―――――


えーっと、この作品の主人公って、あれ誰だっけ?

確か立花隼人だよね。金田一郎ではないですから!

星世さん良かったね。


もう少し続きます。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると 投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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