第64話 ニューヨークの新婚さん


久々に隼人と素世さんの登場です。


―――――


ニューヨークにて


俺達は、ここニューヨークに来て一ヶ月と少しが経った。まだ生活には慣れていないが、なんとか過ごしている。


俺はともかく素世さんも言葉に困らないのが良かった。でもニューヨーク訛は最初戸惑ったらしい。


2LDKのアパート(日本で言うマンション)はコロンビア大学の側に借りた。寮も有ったが、新婚で寮は無いだろうというブライアン・ブルー教授の伝手で不動産屋を紹介して貰って借りた。


マンハッタンという事も有り、少し高いが俺の収入で何とかなる。日本の2LDKとは広さが全く違う。


それに運が良かったことも有った。コロンビア大学のすぐ側に日本の有名な保険会社の寄付によって設立された病院が有り、日本人スタッフが多く居て日本人向けに診療を行っている。


 こちらに着いてから無理を承知でバイトの職が無いか尋ねた所、素世さんの経歴を見た職員が直ぐにでも医療事務として正社員で雇いたいと言ってくれたのだ。


 これには二人共驚いたが、俺は素世さんが多国籍人種のるつぼであるこの地で、一人知らない所で仕事するよりはるかに安心出来る職場が見つかった事が嬉しかった。アパートからも近いし、大学は通りを挟んで反対側だ。

それに、これで生活に余裕も出来る。



 俺が正式に仕事が決まってから婚姻届けを代理人を通じて出す予定だったが、素世さんが婚姻届けは二人で出したいと言う事で、渡米する直前に区役所に二人で出しに行った。何故か区役所の人がニコニコしていた記憶がある。



ニューヨークの八月はとても暑かった。もっと気温が低いと聞いていたがそんな事は無い。東京の様な酷いジメジメ感は無いが、大して変わらないかも知れない。日差しが熱いように感じる。体が慣れていないからだろうか。


 まだ二人とも仕事をしていないので、今日も慣れを目的として大学の周りを散歩していた。この辺は文教地区なのでコロンビア大学の他にも有名なロースクールやビジネススクール、音楽学校等もある。治安は東京ほどではないが安全な方だ。但し昼間だけ。




「隼人、日本の実家から連絡が有ったわ」

「いつ?」

「昨日」

「昨日?俺がいない時?でもずっと居たよね」

「隼人が、大学に用事があると言って一時間位出て行ったじゃない。あの時」

「ああ、あの時か。教授に呼ばれて行った時だ。電話の内容は?」

「なんか、日本で面倒な事が起きたみたいで一度帰ってこないかって」

「ふーん。面倒な事って何」


「また、跡継ぎ問題でトラブっている見たい」

「えっ、金田君が婿入りする事で平和に解決したんじゃなかったっけ」

「私もそう思っていたわ。だから話を聞いた時、驚いちゃった」



それから、私は隼人に望月君と星世の事、金田君の事、そして望月君と婚約者との間に起きた事を話した。


「ふーん、それは大変だったね。でも俺達と何か関係あるの」

「もう隼人の頭の中は平和何だから」

「スミマセン」



「星世と結婚して婿に入る予定だった望月君が腰に負った傷で車椅子になったらしいの。それでは医院長としての務めは出来ないわ」

「でも、金田君の時と同じ様に妹さんが、医院長になればいいんだろう」

「御父様は、望月君の事で夢を見てしまったのよ。医者が婿入りして自分の後を継いでくれるという夢を。でもそれが叶わなくなった。

その上、今回の件で望月君が継ぐ事が出来ないと本人からも言って来て。当人は実家の病院に転院するらしいわ」


「妹さんはどうするの?」

「それよ。既に金田君に酷い事をしてしまった手前、今更星世と復縁してくれなんて言えないし」


「それって」

「その通りよ。隼人の研究の区切りがついたところで私達二人に帰国して貰って、私を医院長として病院をついでくれと。もちろん隼人は日本で続けられる研究をして貰えれば良いって」


「それ、いくらなんでも素人さん発想でしょ。素世さんだって分かるよね」

「だから帰国は断ったわ。行ったらこちらに帰れなさそうな気もするし」

「それ、正解だよ」


「じゃあ、この話はここまでね。でも星世大丈夫かな。あの子精神的に弱いし、耐えれるかしら」




「…………。一か月後には、研究が始まる。帰国は基本無いと思ってくれ」

「ふふっ、隼人、あなた。分かっています。隼人の思いのままに。私はあなたに付いて行くわ」

「素世。ありがとう」


「えっ、あっもう一度言って」

「えっ、素世さん」

「違う、さっきのもう一度言って」

「なんだっけ」

「もう♡」




柏木さんの心配


 金田君と会って星世の過去の事を金田君に教えたけど、あの時の彼の顔はショックを隠し切れない事が良く分かった。

 二杯目を飲んだ後、どうするのかなと思っていたが、簡単に別れた。別に良いんだけど…………。


あれからもう一ヶ月と少し経つ。大丈夫かな。連絡してみようかしら。でも私関係ないし。でも…………。




 俺は、柏木さんから星世の事を聞いてから自分の心の中をとにかく落ち着かせ、冷静に物事を考えられるように努力した。短時間であまりにも多くの事が身の回りに起こってしまった。


 もうすぐ研修期間も終わる。九月になれば正式に大和研究所で好きな課題に取り組むことが出来る。その為にも自分を取り戻しておくことが必要だ。

 

 あれから一ヶ月が経った。まだ、心の奥に魚の腐った様な気持ちの悪い重い気持ちが残っている。早く忘れた方が良いが最後の最後でそれを吹き飛ばす方法が見つからなかった。


あればそれにあの金を全て使ってしまえばいい。彼女のお母さんが言っていた心の整理の為の金だと思えばいい。


スマホが震えた。あっ、柏木さんだ。あれ以来だ。

『金田です。ちょっと待って下さい』

そう言うと俺はスマホを持って廊下に出た。

『済みません。今廊下に出た所です』

『金田君。あの、近く会えないかな』

『えっ、良いですけど』


『いつが都合が良い』

『いつでも良いですよ。今時間あるし』

『じゃあ、今日会おうか。また一階の受付フロアで、午後六時でどうかな』

『了解です。じゃあ後で』

『はい』


いきなり柏木さんに誘われた。少し相談してみるかな。何かいい方法を知っているかもしれない。


―――――


隼人と素世さん、アメリカでの新婚生活、順調にスタートしたみたいですね。

ところで金田君、柏木さんに相談するって…………。はて?



次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると 投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る