第62話 嵐の後


何とか、復活しました。余韻はまだありますが。


―――――


金田一郎の場合


 目覚ましが鳴っている。うっすらと戻って来た意識の中で、机の上に有る目覚ましを手に取ると時間を確認した。


まだ、六時半か。昨日は午後九時前には寝ている。充分に睡眠は取っているが、心の中が鉛の様に重かった。昨日の事は本当だったのか。


少しだけ信じられない、信じたくない気持ちで目覚ましを机に戻した時、机の上に無造作に置かれた厚い封筒が目に入った。昨日の出来事が現実だった事を理解した。


「星世…………」


もう会う事は無いだろう女性の名前を口にしながらゆっくりと起きた。自分の感情とは関係なく、腹が減っていた。



何故か無性に腹立たしくなって来た。

半年間の付き合いは何だったんだろう。星世に告白して、付き合う様になって彼女の可愛さ素敵さ優しさを知り、彼女を深く愛するようになった。


そして彼女の運命に従って婿にも入る事を納得して、両親にも理解して貰った。

それが星世と俺の運命だと思って彼女とそれまで以上に真剣に付き合った。将来の事も話した。

 でもそれが、目の前の封筒で全て消されている。消しゴムじゃないんだ。封筒を手に思い切り床に投げつけたかった。


封筒を手に取って思い切り握り締めると札束の感触が直に伝わって来た。

くそっ! 投げつける事が出来なかった。


「もう考えても仕方ないんだ。この金を全て捨てる様に使ってやる」

「早めに出て会社の近くの喫茶店でモーニングでも食べるか」


急いで出勤する支度をすると誰もいない部屋で独り言を言ってドアを閉めた。




いつもより人の少ない通勤電車の中でスマホを開くと彼女から何回もコールが有った。でもメッセージは残っていない。


 メッセージがない事に寂しさと面倒への入り口がない事に安心するとスマホを閉じた。


星世のアドレスはブロック出来なかった。自分の優柔不断さと半年間の深い思いがそれをさせてくれなかった。



ふと思い付いた。柏木さんどうしているんだろう。気晴らしになるかも知れない。変な気持ちは心の奥に仕舞ってメールした。会えないかと…………。




スマホが震えた。あっ、金田君。そろそろ家を出て会社に行こうと思った矢先にきたメールだ。メールを開けると

『金田です。お久しぶりです。もし時間あれば夕食でも一緒にしませんか』


えっ、夕食の誘い。…………。彼は、星世と付き合っていると言っていた。どう言う事?

私は疑問をそのままメッセージにした。

『金田君、星世と付き合っているんでしょ。どう言う事?』

『それも含めて少し話がしたくて』



何か有ったんだ。今日は退社後予定も無い。

『いきなりだけど今日だったら空いている』

『今日何時なら会えますか』

『受付フロアで、十八時でどうかな』

『了解しました。十八時に受付フロアで待っています』


少し目立つところだが、業者も多い。気にすることは無いと思い受付フロアで待つことにした。




当日十八時五分前、箱崎オフィスの一階受付フロアで、俺は柏木さんを待った。

ここは、業者との待合せ場所でもある。この時間は色々な意味で業者が多い。俺達が待合わせしても目立つことは無かった。


エレベータの手前に設置されているオフィスゲートを見ていると、軽く手を振る女性がいた。直ぐに誰だか分かった。


「金田君待たせたね」

「いえ、まだ十八時前だし」

「柏木さん、外で話しましょうか」

「ええ、その予定でしょ」


十九時に会社から五つ離れた街の小綺麗なレストランに柏木さんを案内した。彼女から今日会える約束をしてから予約した所だ。星世といつも来る店は止めておいた。


「金田君、珍しいわね。私を誘うなんて。星世に怒られないの」

「はい、その事も有って今日誘いました。実は」

「…………」


俺は、素直に去年の暮に星世に告白した事。それからの事、婿養子になる事。如月家でそれを反故にされた事等、今までの一連の事を掻い摘んで話した。


「信じられない」

「俺もです」


「金田君、お店変えない」

「良いですよ」



店を変えた後、

「柏木さん教えてください。立花と星世の間に過去何が有ったんですか。なぜ彼女は一年遅れて大学に入って来たんですか。彼女の学力なら一浪する理由が見当たらない」


モスコミュールの二杯目をお代わりした所で私は話し始めた。中学からの隼人と星世の関係を。もちろん高田という男の事も。

 金田君は、目を丸くして口を一文字にして黙っていた。



俺は何を考えていいか全く頭の中で整理出来なくなっていた。酒の酔いも有ったのかもしれない。


 俺は高校での立花と高田という男、そして星世との関係を聞いた時、頭の中にデジャブが現れた。そっくりだ。今起きていた事とそっくりだ。


腕時計を見るともう十時を回っていた。


「柏木さん。ありがとうございました。今は頭の中が一杯で何も言えません。もし頭の中が落ち着いたら、また話し相手をして下さい」


「いいですよ。いつでも声を掛けて下さい」


この時は柏木さんとそのまま別れた。

帰宅の時間の中で俺は如月星世という女性を見つめた。


運命に翻弄された女性。綺麗で知的だが、意思が弱く、強く自分を主張出来ない、か弱い女性。誰かが保護してあげないと彼女の人生はそのまま奈落の底へ落ちていく。運命に翻弄されながら自分では抗うだけの力が無い、か弱い女性。

 

 今日の朝まであった、彼女への一方的な呆れにも近い感情。如月家からされた星世との強制的な別れ。望月と彼女の今後。どれもが如月星世という女性に取って理不尽でしかない運命だった。


 俺は十分寝る必要がありそうだ。そしてそれから考えよう。



―――――


うん? 何々、金田君。君は何を考え、何をしようとしているのかね。


済みません。投稿は二日に一度位になります。

ご理解お願いします。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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