第61話 金田の気持ちそして如月家
今、俺は如月病院を出て駅に向かっている。怒り狂って良いはずなのに、何故か頭の中は冷静だった。
俺は、星世が妊娠した事を知った時、自分の子供とばかり思っていた。責任は取って当たり前。
だけど彼女の口から出て来た言葉は、望月とかいう男から暴行されたという事だった。知った事もショックだったが、二か月半もその事を隠されていた方がショックだった。
もし妊娠していなかったら、俺は星世が暴行を受けた事も知らずに彼女と結婚していただろうから。
俺と知り合う前に何が有ったかなんて興味はない。だが付き合い始めた後に起こった事、特に今度の様な事は直ぐに教えて欲しかった。
俺は翌日、星世を暴行した望月という男に有って、責任を取らせることにした。実際に有ってみると男のあまりにも横柄な態度についかっとなって殴ってしまった。
しかし本音を言えば、星世に堕胎させた後の事は、考えが纏まっていなかった。都合が良い事に誰にも知られずに処置できる実家の病院を選んだのは良かったが、俺だけ別にされ星世の母親から受けた説明は、今後の事をどうするか決めていなかった俺には決定的だった。
『星世を望月と結婚させてこの病院を継がせます。GWに来て頂いた時にお話した事は全て忘れて下さい。…………。
娘と結婚しても今回の事はずっとあなたの頭に残るわ。これから先、娘と平気な顔して元の様に過ごせますか。出来ないでしょう。
娘と結婚するより、他の女性を選んだ方が良くってよ。勝手な事で申し訳ないですが、娘と別れて下さい。
失礼とは思いますが、ここに百万円有ります。手切れ金というより金田さんの心の整理の為の費用という事で受け取って下さい』
その通りだった。もし、ここで堕胎させ望月に相応の責任を取らせたとしても星世に対する猜疑心は付いて回る。今後も同じことが有った時、黙っているのだろうか。何か重要な事が起きても俺に相談なしに決めてしまうんではないだろうか。
そう思うと星世に対する思いが覚めて行った。俺は目の前の百万円が入った封筒を受け取ると直ぐに如月病院を後にした。
今東京行きの電車に乗っている。そして俺の胸の中に湧き上がって来るのは自分がした事への後悔ばかりだった。
…………あれだけ好きだった星世に何も言わずに出て来てしまった。
…………星世は俺が初めてじゃない。今回の事だって、もしかしたら二人の心の中から消すことが出来たのではないか。
…………もっと星世と話すべきじゃなかったのか。
…………金欲しさに星世を捨てたんじゃないか。
俺はやっぱり付いていないもてない男なのか。段々目の前が曇って来た。
東京駅に着いたのは、午後五時半だった。夏のこの時間はまだ明るい。仕事は二日も休んでしまったが、明日からは出ないといけない。研修期間中に不適合として採用を取消されてしまうかもしれない。
ここからアパートまで約一時間。とても長く感じた。
今日はシャワーを浴びて寝よう。スマホに目もくれずに眠りに入った。
如月病院の医院長室で
いくら電話しても一郎さんが出ない。何故?もう会わないと言うの。
…………私はこの時、これからの茶番に付き合わずに例え間に合わなくても一郎さんを追いかけるべきだったんだ。後でこの後悔ばかりが頭に残った。
私の目の前には、お父様、お母様。そして私の隣にはあいつ(望月)が座っていた。
「望月君。君の父上とは話合い中だが、私は星世を君の実家に行かせる気はない。君はどうなんだね。もう選択肢はあまり残されていないと思うが」
…………。
厳しいな、ここで答えろと言うのか。
「私は如月さん…いえ星世さんの意思に従おうと思っています。俺の実家の病院に来るのも、ここに来るのも」
「なるほど、ところでどちらにしろ教授の娘さんとは別れて貰う事になるが君一人で大丈夫かね」
「私一人で大丈夫です」
「そうか。ところで星世。お前はどうしたいんだ」
「どちらも嫌です。一郎さんとよりを戻したいと考えています。ここで処置出来ないなら東京の病院でして貰います。望月さん、堕胎同意書にサインすることは問題ないですよね。しなければ警察に届けます」
「星世さん。良いんですか」
「あなたは今の若さで父親になりたいんですか」
「いや、…………」
「なら、決まりです。お父様聞いた通りです。お腹の子は一刻も早く処置します。そしてどちらの病院も継ぎません。
GWで話した事は反故にして下さい。そのきっかけを作ったのはお父様、お母様貴方達です。自分の子供を物にしか考えない親の元で住みたくは有りません。
でも大学は出させてください。お願いします。お金を返せと言うなら働いて返します」
「星世…………」
お母様が泣きそうな顔をしている。
「星世、落ち着きなさい。望月君。もし堕胎にサインしたら親として君を訴える。訴訟に勝てなくても君とご両親と病院に傷がつくのは覚悟する事だ」
「…………」
逃げ道はないのか。ここまで来て今までの事を水の泡にする事は出来ない。一時でも稼げれば…………。
「分かりました。星世さんと結婚します。病院はこちらにします。但し、これはお願いですが、星世さんのお腹の子は堕胎して頂けないでしょうか。
彼女はまだ大学が三年あります。私の妻になるにしても卒業までして頂いた方が病院の為にも良いと思います」
お父様が腕を組んでこいつ(望月)を正面から見ている。目は全く離していない。こいつはチラチラと視線を時々外している。お父様はどう判断するのだろう。
「望月君。誓約書を書いて貰えるかな。娘が大学を卒業したら結婚して、ここに勤めると言う事を書面にしたい。こういう事はしたくないが、私も娘の将来と病院の将来がかかっているのでね。法的に正式な文書として作成する。その上でお腹の子を堕胎させよう」
「分かりました」
「お父様、私はまだこの人と結婚する気はありません」
「星世、子供はどうする」
「この人にサインして貰います」
「今の話を聞いただろう。お腹の子を堕胎させるなら結婚するしかない。望月君、娘の心のフォローも君の重要な仕事だよ。忘れないでくれたまえ」
「分かっています」
「ふざけないで下さい!」
結局私はお父様の手で堕胎して貰った…………。
あいつ(望月)は翌日に、私は一週間後、東京に戻った。
―――――
金田君の気持ち分からないでもない。でもねー。
星世さんが自分の意思とは関係ない方向の運命に翻弄される。こういう星の元に生まれた人っているんですね。どうすればいいのかな。
ところでこの二人どうなるのかね?
今日まで六一日連続更新でしたが、体調不良と私用で更新が遅れます。出来る時は連日更新しますが、基本二、三日に一度程度の更新になります。体調戻りましたら、毎日更新に戻りたいと思います。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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