第60話 思いとは別の方向に
如月病院の医院長室にて
娘からとんでもない連絡を受けた。暴行されて妊娠させられた。堕胎したいからその男と来ると、その上、金田君も一緒とは。
「母さん、どうしようかな。この件」
「考えているんでしょ。相手は東都大学医学部卒業、今附属病院に居る男。ふふふっ、魅力的ですわね」
「そうなんだよ。金田君も優しくていい男だが、医者ではない。だが、今星世の体には医者のそれも優秀な医者になる資質を持つ男の子供がいるんだ。これを見逃す手はない」
「星世の体にも要らぬ負担を掛ける必要有りませんしね。その方向で進めましょう。金田君はいかかがしますか」
「手切れ金で百も渡せばいいだろう。ごねるなら倍出してやっていい」
「分かりました。星世についてはどうします。あの子に取っては、酷い仕打の様に感じるでしょう」
「ゆっくりと納得して貰うしかない。娘を暴行した相手がどんな輩か知らないが、医師免許を取って附属病院で働ける男だ。馬鹿ではなかろう」
もうすぐ、三人が来院する。直ぐに金田君は妻に任せて二人と話す事にしよう。この病院の将来の宝がやって来るんだ。
「お父様、ただいま」
「お帰り星世。そいつが可愛い私の娘に狼藉を働いた男か」
優しく言っているが、今にも殴りそうな雰囲気だ。目で望月を射貫く様に見ている。お父様は体が大きい。望月より体がしっかりしている。
「あなた、入って貰ったら。外は暑いわ」
「そうだな。取敢えず手続きが有るから星世とその男一緒に来なさい。金田君は妻が用事があるそうだ。少し相手してやってくれ」
星世のお父さんから言われては、聞くしかない。俺も一緒にいきたいのだが。
「分かりました」
「金田さん、こちらへ」
「お父様、ここ医院長室ですよね。処置室ではないわ」
「それをする前に少し二人に話が有ってな。望月葵陵君か。お父上は地元の中核病院を経営なさっているそうじゃないか」
「はい」
何を言い始めるんだ。
「御覧の通り私も病院経営をしている。病床数は同じ位だ。ここの方が少し多いがな」
「お父様、何を言い始めるんですか」
「星世は黙っていなさい」
「…………」
「望月君、私は君を警察に突き出すとかしたくない。君の今の立場も無くなるだろう。そして経営者の跡取りが罪を犯したのであれば、ご両親もそして地元病院の信頼も落ちる。
君をそれから救い上げたいのだよ。同じ医者としてね。どうだね。望月君率直に言おう。星世に子供はそのまま産んでもらう。そして星世と結婚して婿としてこの病院に来てくれないか。
もちろん君は私の跡継ぎとなる。悪い話ではないだろう。犯罪者の立場か病院医院長の椅子か、比較することも必要ないと思うがね」
俺にとって開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
怒鳴り散らされ、殴られても仕方ないと思ってここに来たが、何を言い出すかと思えば、如月さんと結婚して婿に入れと。そして病院長になれというのか。
悪い話じゃない。実家の病院よりも大きい。美鈴なんか比較にならない程可愛い女性が俺の妻となる。婿に入る事なんて問題ない。親の事は何とかすればいい。
だが、金田はどうするんだ。あの様子じゃ、如月さんと将来を決めているんじゃないか。
まあ、直ぐに返事をする必要はないんじゃないか。
「済みません。いきなりの事で。時間を頂けませんか」
「時間などある訳無いのは、君も医者の端くれなら分かるだろう。星世のお腹の子をどうするんだ。時間が経てば堕胎できなくなるぞ。その時は、犯罪者としての立場が確定するだけだ」
「そんな………」
「お父様、待って下さい。何を言っているんですか。私は一郎さんと結婚します。お腹の子は可愛そうですが堕胎します。
それに私を暴行した男と結婚しろなんて、お父様はお気が確かですか。あなたは自分の子供を何だと思っているのです。ふざけないで下さい。一郎さんの所に行きます」
「星世。金田君にはもうお母さんから話をして貰っている。彼も理解してくれるはずだ」
積んでいるからな。
「そんなはずない。私一郎さんの所に行く」
「待ちなさい。もう金田君は帰っているはずだ」
そんな事あるはずない。私は医院長室を出て急いでお母様の所に走って行った。
「望月君、君はどうなんだ。自分が遊びで手を付けた子と結婚しろと言われているんだぞ。出来るのか。それに娘の気持ちを支えなければならない。君に出来るかね」
「出来なければ?」
「犯罪者となるだけだよ」
「…………。俺には親が決めた人(女性)が居ます。それを破棄しなければいけません。その人は、大学の教授で附属病院の医師でもあります。その話を断るとなると俺としてもそれなりの覚悟が必要です」
「君は、決まった人が居る上で私の娘に手を出した、いや暴行した。何もなく済むと思っていたのかね。人間己がした事には相応の責任がある。責任を取り給え。犯罪者か医院長の椅子か。選ぶんだな」
「…………」
「お母様、一郎さんは?」
「金田さんはもうお帰りになりましたよ」
「そんな」
なんていう事なの。子供は堕胎しない。一郎さんとは結婚出来ない。私を襲った男と結婚しろなんて。ありえない。
「星世、理解しなさい。あなたの立場を。今お腹の子を堕胎させたとしても金田君と今まで通りに過ごせると思うの」
「そんな事ない。一郎さんは言ってくれた。私のお腹のゴミを排除して私と結婚するって」
「一時の気の迷いよ。それが証拠に彼は手切れ金百万を持って帰って行ったわ。もし星世の言っている事が本当なら、手切れ金なんか貰わずに医院長室に行ったんじゃないかしら」
私は、膝がくずれ、ソファに体を預けるしかなかった。絶望という檻の中に入れられた様に。
お父様は、直ぐにあいつ(望月)の父親に電話をした。だが話は簡単ではなかった。
自分の息子が孕ませた子がいるなら、そしてその子が東都大学医学部の学生なら葵陵の嫁に貰い病院を継がせる。これなら世間体も立つというのだ。
しかし、お父様は、自分の娘はそちらの病院に行く気はない。行かせる気もない。望月君は婿に入って貰うと言って引き下がらなかった。
―――――
大変な事になってきました。
如月家は家の為に可愛い娘を犠牲にするのも厭わないという事ですかね。私には信じられません。
しかし、金田君。気持ちは分かるけどね。…………。
まだ続きます。落ち着く先は何処なんでしょうか。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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