第57話 姉と妹


 私と妹は五月の連休に実家に帰る事にした。隼人は、内緒で連れて行く。近くのホテルに泊まらせて、話が終わったら二人で京都へ旅行に行こうという事にしてある。

 妹は、病院の跡継ぎの話なのに、金田君を連れて来るという。意図は何となく分かるけど、金田君が可哀そうだ。


「お父様、ただいま」

「お帰り、素世。彼来ないのか」

「はい、連れて来る場ではないと思っているので」

「そうか。私の息子になる子だ。少し話したいと思っていたのだがな」

それは残念だけど、今はいい。


「星世は?」

「さっき帰って来ている。男を連れて来たんだ」

「そうなんですか」

知らない振りをしておこう。


「手洗いとうがいをしたら、自分の部屋に荷物を置いてリビングに来なさい」

「分かりました」


私は、お父様の言う通りにした後、リビングに行った。

お父様とお母様が並んで座り、反対側に星世と金田君が座っている。私は両親の方へ座った。


「お父様、話をする前に先に紹介します。私の隣に座るのは、金田一郎さん。私とお付き合いをしています」

「金田一郎と言います。星世さんとお付き合いさせて頂いています。宜しくお願いします」

「星世、金田君とお付き合いしているのは良いが、今日の話と彼は関係あるのか」

「はい、あります」

「どういう事だ」




「星世、ちょっと待って。如月家の話に金田君を同席させるのは彼に申し訳ないわ。一度席を外して貰って家族での話が終わってから、もう一度こちらにお呼びしたら。

 金田君も我が家の話を側にいて、聞いているのも気不味いわよね」


彼は星世の顔を見て

「星世さん、一度席を外します。外で待っています」


「いや、それは申し訳ない。星世、お前の部屋ではどうだ」

「私の部屋?」

顔を赤くしている。


「そ、そうね。いいわ。金田君申し訳ないけど、私の部屋で待っていてくれるかな」

「良いんですか」

「仕方ないわ。一緒に来て」


彼は立ち上がると「失礼します」と言って星世と一緒に妹の部屋に行った。



「一郎さん、ごめんなさい。ここで待っていて。あっと、それからあまり開けて見たりしないでね」

「しませんよ。そんな事。おとなしく待っています」

「ごめん、なるべく早く終わらせるから」


ドアを閉めて星世がリビングに行ってしまった。待っていろって言われてもな。それに彼女の部屋なんて。結構理性保つの厳しいな。




「さて、星世も分かっていると思うが、如月病院の跡継ぎの話だ。私が直ぐにどうなるという話ではないが、私ももう六十近い。準備として話を決めておきたい」


「お姉さんが後を継げば良いだけの話ではないですか。私は次女です」

「そうも行かなくてな。素世は家を出る事になった。七月には婚約者と一緒にアメリカに行く。そこで星世お前に如月病院を継いで欲しい」


「婚約者って、まさか立花さん!」

「そうよ。彼の論文が認められて、七月から彼と一緒に渡米するの。病院は星世に任せる事にしたの。お父様とはもう話は付いているわ」


「お父様、どう言うつもりですか。姉の話は聞いて私の話は聞かずに私の将来を決めるのですか」


「待ちなさい。最後まで聞きなさい。

 星世の言う通りお前の人生も有るが、如月病院は、この地域の人達に取って重要な病院だ。家の都合で辞めましたと言う訳にはいかないのは分かっているだろう。他人に任す気にもなれない。

 そこで、星世に継いで貰いたい。夫となる人は当然医者だ。金田君の事も有ると思うが、それはお前が学生までの間にしておいて欲しい。それまではとやかく言わない。だがその後は医者の男を婿としてこの如月家に迎え入れたい」


バン!

いきない星世がローテーブルを叩いた。真っ赤な顔をしている。


「ふざけないで下さい。私の人生は私のものです。学生の間は金田君と一緒でも良いけど卒業したら彼と別れて他の男を探して婿に入れろと言うんですか。お父様はそれでも私の父親ですか。帰ります。もう二度とこの家には戻りません。学校も辞めます」


「ちょ、ちょっと待ちなさい。星世。お父さん、あなたも言い過ぎです。私も聞いていてあまりにもと思いました。もう少し星世の気持ちを汲むべきと思います」


「しかし、他にどんな案があるんだ。今日来た金田君と今から別れて他の男を探せという方が酷いだろう。だから学生の時だけは彼との付き合いを許そうと言っているんだ」


「お父様、言っている事がめちゃくちゃです」

妹が目に涙を溜めて我慢している。



「お父様。私の考えも聞いて頂けますか」

「素世。言ってみなさい」


「星世と金田君を親の都合で別れさすのは、私も反対です」

「お姉様」

星世が救いの言葉を言った私を縋る様に見ている。


「星世、金田君と一緒になりたいんでしょ」

妹が頷く。


「お父様、星世。私の考えね。星世は金田君と一緒になりなさい。心が変わらなければ。

そして星世、この病院を継ぎなさい。女医院長になるけど、如月家は代々病院のオーナー。誰も文句は言わないわ。

金田君は、こちらの企業で働いて貰いなさい。もちろん星世が病院を継ぐまでには十分時間があるでしょうから、それまでは今の会社で働いて貰って構わない。

そして星世と金田君の子供が出来たら次の医院長として後を継がせればいい。

私と隼人の子供も男の子なら医者にして、星世の子供をサポートする。これはお父様との約束だから必ず守る。どうかな星世、お父様、お母様」


お父様は、腕を組んで上を向いている。星世は下を向いて考えている。でも泣いてはいない。


時間が経った。


「紅茶を淹れ変えて来ます」

お母様がいたたまれずにキッチンに逃げてしまった。


「金田君と相談してきます」

星世も自分の部屋に行ってしまった。


「素世、凄い事言うな。星世が医院長で金田君は仕事を変えろと。やはりお前を医院長にしたかったよ」

「お父様、もう遅いですわ。でも私がお父様の血を引いている事は良く分かりました」

「はははっ、そうだな」


お母様が新しい紅茶を持って来た。

「お母様、金田君へは」

「さっき星世が持って行ったわ」


それから少しして二人で降りて来た。

「お父様、お姉様、金田君からお話があります。聞いて頂けますか」

お父様と私が頷くと


「まず、星世さんとのお付き合いをそして将来の事も認めて頂いた事、大変ありがとうございます。

 星世さんが医院長になる事は彼女が承諾しました。しかし私が今の会社を辞めて地元企業への転職、それも十年以上後になるかもしれない事を約束は出来ません。

 今の会社にそのままいます。居ても何も問題は無いと思います。生活拠点をこちらにすればいいだけの話ですから」


お父様が目を開いて金田君の話を聞いている。また腕を組んでいる。


「星世はそれでいいのか」

「はい、金田君から私が医院長になる事を良いと言って頂いた上、生活拠点をこちらにして頂けるという事まで納得して頂いた以上、私は彼に従います」

今度は、お母様が目を丸くしている。


「如月さん、出来れば長く長くご健康で医院長を続けて頂ければ思います。いずれは星世さんがこちらに戻るにしても」

「君に言われなくてもそんな事は分かっている」

「済みません。余計な事を言ってしまいました」

「金田君、そんな事ない。とても大切な事よ」

私は一応フォローしておいた。金田君がへそを曲げられても困る。


時計を見るともう午後五時を過ぎていた。


「星世、素世、今日は泊まって行くんだろう」

「いえ、私は帰ります」

「えっ、今から帰るのか。もう遅いぞ」

「最終の特急が有ります」


「私達もそれで帰りましょう。金田君」

「何を言っているの星世。今日は金田君と一緒にここに泊まればいいじゃない。お父様もお母様も金田君とは色々話したいでしょう。将来の事も有るし」


「そうだな。星世、金田君。泊っていきなさい。今日は少し話そうか」

「お父様………。金田君構わない?」

「着替えがないんだけど」


「下着は今からスーパーに買いに行けばいいわ。パジャマはお父様と背格好同じだから借りなさい」

「素世、なんか変じゃないか。いかにも星世を泊まらせたいと思っていないか」

「そんな事ありません。もう私は帰ります。お母様、渡米の前にもう一度連絡を入れます」

「分かりました。何かある前に連絡してね。立花さんにも宜しく言って」

「分かりました」



 ふう、危ないところだったわ。私は隼人の待っているホテルに向かうのに星世達が一緒に帰るなんて事になったら、私も乗らないといけなくなってしまう。


 ふふっ、荷物は隼人のいるホテルに置いてあるし、早く行こう♡。隼人と一緒の京都楽しみだな♡。



―――――


素世さん、ちょっと我儘ですよね。話はうまくまとめましたが。

まあ、如月家も安泰という事で。


でも、世の中………。予定は未定にして決定に非ずという言葉も。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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