第56話 日常の中で


俺は、一月から素世さんのマンションで同棲している。去年暮れに両方の両親から婚約の許可を貰って、一緒に住む事にした。

俺のアパートは引き払った。柏木さんに一応挨拶に行ったが、何とも言えない顔をしていたのが印象的だった。


「隼人、アメリカへはいつから行くの」

「九月から開始ですが、慣れと準備もあるので七月には日本を発とうと思います」

「七月か」

「どうしたんですか。一緒に行く予定でしたよね。向こうの不動産会社とも相談して二人で住むところを探して貰っている所ですけど」

「もちろんそのつもりなんだけど。医師免許の国家試験が来年二月にあるのよ。それは受けておきたいなと思って。

それに。それを取った後、アメリカの医師免許を取れば、色々都合いいかなと思って」


「………。素世さんの気持ちで良いですよ。一緒に行って欲しいですけど。せっかく六年勉強したんですから。受かった後から来ても二月だけ日本に帰って来るという事でも」

「隼人冷たいよ」


いきなり素世さんが抱き着いて来た。

「えっ」

「なんで隼人は一緒に来てくれ。医師免許は日本に帰って来てからでもいいだろう。って言ってくれなの。隼人の私への愛情ってそんなもの。私達婚約しているよね」


まいったな。素世さんの気持ちを尊重したつもりなのに裏目に出てしまった。


「じゃあ、二月だけ帰って来て試験受けるってどうですか。俺も素世さんにはいつも側に居て欲しいです。さっきのは、素世さんを縛り付けたくなくって」


いきなり俺の両頬を両手で挟まれ、じっと目を合わせている。

「隼人、抱きしめて」


背中に手を回して抱きしめてあげた。素世さんが顔を俺の肩に乗せて来ている。

「もっと強く」


強いと言っても素世さん細いから。それに見かけより胸大きいから思い切り当たっているんですけど。


「隼人、私はね、少し位隼人が縛ってくれた方が嬉しい。無理言ってくれた方が嬉しい。だから隼人の言う通りにしたい。

 それにアメリカで隼人が正式に研究と客員講師に着いたら結婚する約束でしょ。私は隼人のものよ」


素世さん、自分で重い女って言っていたけど結構かも。俺は素世さんの自由さを奪いたくない。でもこの人は縛って欲しいと言っている。俺苦手なんだよな。


「分かりました。素世さん、俺について来て下さい。医師免許の国家試験は日本に戻って来た時にしましょう。だいぶ遅れるけど良いですか」


「分かりました。未来の旦那様。ふふふっ。

 隼人、教えて。今度の研究はいつまで続くの。区切りってあるの」


「一応、大学は年単位で契約になる。研究は一定のめどはつくまで。今はそれしか分からない。上手く行けばコロンビア大学で続けるけど、上手く行かなくても他の大学で講師を務めれると思う。日本は拘束が多いからあまり戻りたくない」


「分かったわ。隼人の好きにして。私はついて行くだけ。もちろん向こうで私も仕事するわ。アメリカが長ければ向こうで医師免許取る事も考えるし」


「素世さん、両親の事は良いの。妹さんが継ぐとか勝手に決めているけど、本人の意思もあるだろ」

「その件では、向こうに行く前に星世と両親とではっきり話す事にする。隼人は妹に会いたくないでしょ。一人で行って来る」

「ごめん」

「良いのよ。あっ、もういいか。あのね隼人、星世の事だけど。金田君とお付き合いを始めたみたいよ。あなたの事はもう忘れるって言っていたわ」


「いつの話ですか」

「去年の暮かな」

「でもそれって。妹さんが病院継ぐ事難しくなるんじゃないですか」

「そこは考えている。星世に病院を継がせ、女性医院長だけどオーナーだから構わない。金田君は地元の企業に就職させる。二人の赤ちゃんが出来れば、次の跡取り問題も無くなるわ。私これを星世と両親に言うつもり」

「そうですか」

なんか、強引すぎる感じ。上手く行くかな。




その頃、星世のマンションでは


「一郎さん、お仕事は慣れました」

「半年間は研修期間。この前オリエンテーションが終わったばかりだから。当分は箱崎を拠点として色々やらされると思う。入社動機は大和研究所での情報技術とAIの融合だから半年後は、大和に通う事になる」

「そうか、私は、大学が後三年ある。医療研修も後々入って来るから、今のマンションが都合いいな」

「問題ないよ。土日はもちろん、普段の日だって会えるし。こうして星世と一緒にいれるんだから」

「そうですね。一郎さん。お願いがあるの」

「なに?」

「今度、両親に会ってくれないかな。正式に一郎さんを紹介したい」

「それって………」

「うん」

「僕でいいの」

「いいの。お付き合い始めたのはまだ半年だけど、一郎さんを知ってから二年半も経つから。一郎さんが嫌というなら諦めるけど」

「ぜ、全然。嬉しいです。じゃあ、僕の両親にも紹介するよ」

「ほんとうですか。嬉しいです」


星世が抱き着いて来た。俺も思い切り抱きしめる。


「良いんですよね。私で」

「もちろんです!」

「実言うと姉にはもう一郎さんの事話してあるの。正式にお付き合いしているって」

「あっ、そうなんですか」


何か複雑な気持ち。立花も俺が星世の彼氏で有る事を知ったという事か。いい悪いじゃなくて。


「それと………。両親に紹介する時、姉も実家に戻るの。ちょっと大切な話が有って」

「えっ、俺いない方が良いんじゃないか」

「むしろ、一郎さんが居てくれた方がいい。はっきりと私の気持ちを両親と姉に伝えたいから」

「分かりました」



―――――


なんか、如月姉妹凄い事になってきました。

次回は如月家お家騒動?です。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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