第55話 望月葵陵の場合


隼人と素世が両親から婚約の許しを得た翌年三月下旬のお話です。


―――――


俺は望月葵陵。地元の有名進学校をトップの成績で卒業し、東都大学医学部に入学。

高校時代から、親譲りの爽やかな顔立ち、地元中核病院の跡取り、頭脳優秀という事で女の子から人気があった。


勝手に近寄って来て体の関係を持てば何とかなると思っているビッチも居たが、こういう輩は避けて通った。


多くの女友達が居たが、ステディな子は作らなかった。地元の泥臭い女子には興味ない。大体下心が見え見えだ。まあ、適当には遊んだけど。


自信を持ってこの大学に入り、周りから頭一つ抜け出している感じは有ったが、突出するほどでもなく、同期の中でも勉強のできる男程度でしかなかった。流石この大学だ。


そういう意味では如月素世の彼氏は確かに凄い。今後あいつとの関係を見直した方が良いと考えている。



俺の周りの環境が変わったのは四年生の時、医学部の日下部教授の目に留まった事だ。

日下部教授は俺が地方とは言え、中核病院の跡取りだと分かると急に接近して来た。何度か学外でも食事を誘われている内に教授の娘を紹介され付き合ってくれと頼まれた。


 名前を日下部美鈴という。容姿はまあ綺麗な方に入るのだろうか。ショートカットで目がクリっとして大きく小さな唇が可愛く見えた。胸は普通だ。板でもメロンでもない。身長もそこそこにある。


 始めは何を言っているのかと思ったが、教授の機嫌を損ねて単位に影響が出ても仕方ないと思った俺は、取敢えず友達からという事で付き合う事にした。


始めは遊びのつもりであったが、世渡りの上手い教授の采配であっという間に自分の両親公認の付き合いになってしまった。


両親からすれば国内最高峰の大学の医学部教授の娘という事で喜んでいたが、俺としては溜まったものではなかった。


そして六年生になった時に正式に美鈴と俺は婚約した。本人達の意思は無視されて。


但し、美鈴も自分の立ち位置を理解していたので婚約、結婚という路線に乗る事は、受け入れていたようだ。



今、俺は自分のマンションに居る。そして日下部美鈴も一緒だ。


「葵陵さん、国家試験合格おめでとうございます」

「ありがとう。美鈴」

「お父様が、合格祝いをしたいから都合を聞いてくれと言っていました。いつ頃が宜しいですか」

「美鈴が決めてくれ。当然君も出席するんだろう」

「はい、お母様も出席したいと言っておりました」

「そうか」


 面白くない。医師免許の国家試験など受かって当たり前。祝う程ではないだろうに。どうせ、うちの両親も呼んで派手にやるんだろうな。


 まだ、当分付属病院に居ることになる。ここは教授の機嫌を取っておくか。


「美鈴、授業はどうだ」

「特に問題なく。これから三年です。卒業後の専門を何処にするか葵陵さんとご相談出来ればと考えております」

「自分で決めればいいだろう」

「………」


「分かったよ。一緒に考えよう」

「ありがとうございます。葵陵さん、食事が終わった後は?」

「美鈴の好きに」

「はい♡」


全く、見た目はお嬢様成としているのに。あっちは好きなんだな。


ふふふっ、この人が将来の私の夫。かっこよくて、頭がいい。その上、地方とは言え、中核病院の跡取り。少し遊んでいた時も有ったようだけど、そんな事は関係ないわ。


私にとって良い夫であればいい。葵陵さんとの婚約は私の将来が約束されたようなもの。多少の事は目を瞑る。

今日も抱いて頂く。間違いが有っても私にはプラス。だからあの時だけは彼の好きにさせる。


 うーっ、上流の方々のお考えは怖いかも………。




俺は、日下部教授に用事が有って久々に大学に来ていた。

「あれ、如月さんだ。一人だな」


 最近、如月さんが一人の時が多い。いつも隙が無い感じだが、最近は何処か時間を持て余している感じがする。理学部のあいつと別れたという噂は聞かないが、チャンスかもしれないな。声を掛けてみるか。




「如月さん」

あまり聞きたくない声が後ろから掛かった。


「望月先輩」

「あ、素世、私達はここで」

「えっ、いや………」

友達が行ってしまった。不味いな。


「なんでしょう」

「いや、最近一人が多いかなと思って」

「望月先輩には関係ない事と思いますが」

「理学部の彼とは会っていないの?」

「先輩に何か関係ある事ですか」


最近隼人がまた研究で忙しく確かに前程会っていない。だからってこの男には関係ない事。


「一人だったら、一緒に食事でもどうかなと思って」

「今から用事ありますので」

「そうですか、でも少し位は」

「結構です」


 全然だめだな。どうすれば、この子を………。一回だけでもいいんだが。

「私、急いでいるので失礼します」


行ってしまったよ。俺も帰ろうとすると



「葵陵さん」

「えっ」

声を掛けられた方に振向くと日下部美鈴が立っていた。ご機嫌斜めの様だ。美鈴はこの大学ではないが、今日は用事が有って来ている。


「今の方はどなた」

「ああ、医学部の頃の後輩だ。久々に会ったので挨拶をされただけだ」

「………。そういう風には見えませんでしたけど。葵陵さんが、強引にその女性を誘っているように見えたのですが」

「そんな事ない。俺がそんな事する訳ないだろう。俺には美鈴が居る」

「そうですか。私の勘違いであれば大変失礼しました」



 あの子が、今年卒業した如月素世か。私でも噂くらい聞いている。妹は私の知合いと同期の如月星世。姉妹揃って容姿端麗頭脳明晰では有名にもなる。そしてあの姉妹の実家は地元ではそれなりに有名な病院。


 姉の彼氏は、今この大学の中で、天才と噂されている立花隼人。凄い人間関係だ。何かの縁を繋いでおけば将来プラスに働くかも知れない。


「あの方にご興味があるのですか」

「何だいきなり。さっきはああいっておきながら」

「いえ、知り合っておいても損はないかと思いまして」


何考えているんだこの女。


「しかし、当てが無い」

「いえあの方の妹と私の知合いが同期です」

「なに、それは本当か」

「随分、興奮していますね。変な事考えていませんか」

「いや、そんな事はない」

「本当ですか。ダメですよ。葵陵さんには私がいます」

「十分に分かっている」

「それでは、聞いてみましょう」




―――――


なんか、また雲行きがおかしくなってきました。

星世さん、せっかく金田君と恋人同士になったのに。そう言えば金田君卒業では?院に行くのかな?


柏木さんと穂香さん何しているのかな。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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