第53話 それぞれのクリスマス


51話の「大きく変わった事」から時間が少し戻っていますが、せっかくのクリスマス。

それぞれの模様を描きたいと思います。


―――――


 今日は、私のマンションの最寄りの駅から四つ程先のショッピングモールと公園のある駅の改札口で金田君と待合わせの予定。もうすぐ電車が着く。


 約束の時間は午後二時、後十分。星世さん来てくれるかな。去年は友人達と一緒の賑やかなクリスマスイベントを開いたから来てくれたって感じだったけど今年は俺と二人。

  

約束はしてくれたけど、来てくれるかはっきり言って自信ない。彼女いない歴と年齢が同じからくる自信の無さが自分を心配にさせる。

さっきから人が降りて来てはいないかと見ているけど………。


あっ、来た。今から改札を出てくる。俺は思わず見とれてしまった。

暖かそうなクリームイエローのウールのハイネックセーター。うっ、胸が強調されている感じ。ひざ下まである茶のチェックスカート。大きなイヤリングをしている。腰まで伸びた艶やかな髪の毛はコートの中に仕舞っている。足元は黒のブーツだ。綺麗だ。周りの人も星世さんをチラチラ見ているのが分かる。

 俺もちょっとおしゃれして来て良かった。………と自分では思っている。


「金田君、おまたせ。待ちました?」

「いえ、さっき来たばかりです」

本当は三十分前から来ているのだけど。


「そうですか。寒そうにしてますけど」

「いや、そんな事無いですよ。最初に映画見に行きましょうか」

「はい」


 改札を出て、右手に折れる。アーケードではクリスマスイベント真っ最中で親子連れで沢山だ。


「今日は賑わっていますね」

「そうですね。クリスマスイブですから」

星世さんは子連れの親子を見て微笑ましそうにしている。


「星世さん。子供好きですか」

「はい、心が温まります」

「そうですね。僕も大好きです」

「ふふっ、金田君、結婚したら子煩悩なお父さんって感じかな」

「星世さん、結婚したら子供何人位欲しいですか」

「えっ、いや………」

「あっ、済みません。変な事聞いて」

「いえ、いいんですけど、いきなりの質問だったから。そうですね二人は欲しいですよね」

「俺もそう思います」

何かいい雰囲気だぞ。


ショッピングモールを中程まで行ってエスカレーターを二回上がると三階に映画館がある。有名な会社の名前が付いている。


「何見ましょうか」

「金田君にお任せします」

「うーん、今上映しているは、アニメかアクションか恋愛物ですね。どうしましょうか」

ここはスパッとリードしないと。


「アクションものにしますか」

「いいですよ」



最初から派手な場面の連続であっという間の一時間半だった。入ってからは二時間経っている。映画館を出ると少し暗くなっていた。


「この時期は暗くなるの早いですよね」

「そうですね」

「このモールの先に公園があるので少し歩きませんか。レストラン予約してあるんですけどちょっと時間があるから」

「えっ、予約」

「はい、せっかく星世さんと二人のクリスマスイブです。楽しい時間を過ごしたいなあと思って」

「金田君。上手いな。嬉しいです」


嬉しい。東京に来てずっと一人に近かったから。レストランで二人で食事だなんて金田君に感謝かな。


モールの先の公園に来ると、周りは大分暗くなっていた。要所要所に街灯がついているので公園全体としては暗くない。少し、階段を下りてから緩い坂を下る。人はほとんどいなかった。

「足元暗いですから気を付けて下さい」

俺はスッと手を星世さんに差し出した。一瞬躊躇したけど、星世さんは手を繋いでくれた。


 金田君が手を出してくれている。どうしよう。男の人と手を繋ぐなんて隼人以来。でも暗いし、せっかくだから。金田君の手を掴んだ。


 二人で手を繋いだまま、階段を下りて緩い坂を下りていく。金田君は手を離さない。どうしよう。


 星世さん、階段降りたら手を離すかと思ったらそのまま繋いでいてくれる。このままで居たい。


 結局少し先にある池まで手を繋いだままになった。


「あっ、何か跳ねた」

 星世さんが、その声と一緒に繋いだ手を池の方に向けたおかげで手が離れてしまった。もっと繋いでいたかったのにな。


 男の人と手を繋ぐことが慣れていない。隼人以外の人とはだめなのだろうか。決して金田君がいけないとか言うのではないのだけど。


 池の周りに添って歩いていると、行き止まりに小さな屋敷がある。そこの玄関を通てって反対側に行こうとした時、


「えっ」

 玄関先で二つの影が重なっていた。金田君も目を丸くしている。


「い、行こうか」

「は、はい」


池の反対側に歩いて行きながら、少し声を落として

「参りましたね。ちょっと予定外でした」

「はい、私もちょっと恥ずかしかったです」


 俺も星世さんと出来たら………。今は仕方ない。


 池を離れ元のモールに戻ろうとして緩い坂を歩こうとすると大きな石が何個か埋められていた。


「きゃっ」

「うぉっ」


前を歩いていた星世さんがいきなり倒れ掛かる様に俺の胸に飛び込んで来た。両手で彼女を抱き締めて足を踏ん張る。もう少しで俺も倒れそうになった。


 暖かい。良い匂いがする。なんて細い体なんだ。そのまま抱き締めていようとすると


「済みません。いきなり足が石に躓いて」

「い、いえ。ちょっと驚きました。大丈夫でしたか」

「はい」


 星世さんは俺の体から離れると少し早足でモールの通りまで行ってしまった。


 参ったなあ。金田君に倒れかかった時、何か安心した気持ちになってしまった。何なんだろう。


 少し早いけど、予約したレストランへ。窓際の静かなテーブルを予約してある。普段のバイトしていたのが良かった。キャンドルが燈ってとても素敵なテーブルになっている。これなら。


「星世さん、コースを予約してあります。気に入って頂けると良いのですが」

「ふふっ、嬉しいです。気に入ります」

「ありがとうございます。ワインとか飲みます」

「お酒はちょっと。でも少しなら」

気が緩んでいるのかな。まあいいよね。


メインが終わり、デザートの時間になって

「星世さん。これクリスマスプレゼントです。受け取って頂けますか」

「嬉しいです。ありがとうございます」

細長い箱を渡してくれた。

「開けていいですか」

「ぜひ開けて下さい」


丁寧にラッピングしてある紐を解いて包装紙を開くと、紫色の素敵な箱が出て来た。何だろうと思って蓋を開けると

「えっ、これって」


中に入っていたのは、金色をしたチェーンの繋がりの先に金色のリング、そしてそのリングの上にダイアモンドが付けられていた。

 学生の身分で買えるのだろうか。


「気に入って頂けました」

「とても素敵です。でも学生の身分で買える物では無いですよね」

「気にしないで下さい。三年間星世さんを思い続けて、貯めたお金で買ったんです。それを付けて頂けませんか」

本当にちょっと高かった二桁万だもの。


 金田君の考えている事がはっきりと伝わった。告白と同じ。もしこれを私が受け取れば彼の告白を受け取ることになる。どうすれば………。


 厳しいかな。これでだめなら諦めるしかない。でもこのまま、さよならも嫌だ。


「あの、それを受け取って貰えたからって、俺の彼女になってくれなんて思い上がりしませんから。星世さんに似合うプレゼントを一生懸命考えていたらそれになったんです。

 重く考えないで、軽く受け取って下さい」


俺は、星世さんの目をじっと見た。ここは勝負。


「でも、………。分かりました。このプレゼント喜んで頂きます」

「そ、そうですか。嬉しいです」


金田君の顔が思い切り綻んでいる。可愛い。

 箱から出して自分で付けて見た。


「どうですか」

「とっても似合います。星世さんの為に作られた思う位に」

「ふふっ、ありがとうございます」


 この後、星世さんからも俺にクリスマスプレゼントをしてくれた。マフラーだった。手編みでは無かったけど、とても嬉しかった。


時計を見るともう八時過ぎ。でも星世さんとこのまま別れたくない。どうすれば。

ボーイが追加オーダーあるか聞きに来た。入ってから三時間。もう時間だよという意味だ。


「星世さん。出ましょうか」

彼女はコクリと頷いた。


二人で駅の改札の方に歩きながら、思い切り勇気を出して

「あの、星世さん、家まで、いや、駅まで送らせて頂けませんか」

「………。ふふっ、いいですよ。ありがとうございます」


三年間で初めての送り。これだけでも今日、星世さんとクリスマス一緒にした甲斐があった。俺のプレゼントも受け取ってくれた。


最寄りの駅には、あっという間に着いた。楽しいと時間は一瞬だ。

改札を出ようとすると

「ここまででいいです」

「いや、改札の外まで」

「………」


星世さんと駅から少しだけ一緒に歩いた。今日の最後のイベントだ。ありったけの勇気を振り絞るぞ。うん。


「如月星世さん」

「はい」

「俺と付き合って下さい。お願いします」

思い切り頭を下げて手を出した。どっかのTV放送みたいに。


 やっぱりこうなったか。どうしようかな。………。金田君の気持ちとても嬉しい。

隼人………。もう無理だよね。さよなら。


私は金田君の差し出した手に手を添えた。顔を上げて大きく目を開いている。

「えっ」


彼に思い切り抱きしめられた。

「ありがとうございます。三年間待った甲斐が有りました。嬉しいです」


私も彼の背中に手を回して

「はい、宜しくお願いします」

と言ってあげた。


長いか短いか分からない間、抱きしめられていた体を離すと

「星世さん。明日も会って頂けますか」

「はい、喜んで」

「やったー」

また抱きしめられてしまった。



翌日は、朝から会った。恥ずかしいけどと言って冬の遊園地に行った。クリスマスの遊園地。とても楽しかった。

別れ際に彼とキスをした。


もう、隼人の事は忘れよう。




―――――


金田君の思いで、いつもより長くなりました。

金田君良かったね。三年間の思いが叶いました。信じれば通ずですね。えっ違うかな?!

星世、やっと心に区切りがつきましたか。良かったね。

でもね、この二人、このままじゃ終わらないんです。


次回は、他の人達です。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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