第52話 大学の友人
話は、素世と隼人が両親を説得する為に帰省する少し前から始まります。
今は、十二月の始めです。
―――――
隼人とは、音信が途切れた様に構内でも全く見なくなった。金田さんも去年四月に隼人と夕食を一緒にした後、少しは姿を見る事があったそうだが、今年の春から全く姿を見る事も無くなったと言っている。
隼人の事は、頭には残っているけど、前みたいに隼人だけという思いは消えている。姿を二年近く見ないと仕方ないと自分でも最近思っている。
それに金田君の優しさや私への思いもはっきり分かった。でもまだ………。
大学の近くのファミレスで
「如月さん、今年のクリスマスはどうします」
「金田君と一緒だよ」
「本当ですか。去年は、工学部や文学部の知合いと一緒だったので、なんか………。出来れば今年は二人で居たいんですけど」
「ふふっ、どうしようかな♡」
金田君が私の事を思ってくれていることは、彼の行動ではっきり分かる。知合った時みたいに疑う事はしなくなった。
金田君とお付き合いしても、隼人の影が見え隠れするこの心では、失礼だ。はっきり決める時なのかもしれない。
お付き合いすれば、隼人との過去の事を聞かれたら話すしかなくなる。その時、嫌われるかもしれない。それを考えれば今の友達という距離感の方が良いと思う。
でもそれでは、金田君に失礼かもしれない。いつの間にか他の人(女性)が出来て離れ散ってしまうかもしれない。一人になりたくない。
「金田さん、私と二人でクリスマスしたいのですか?」
「はい。今年は如月さんと二人だけでクリスマスしたいです」
「………。いいですよ。しましょう二人でクリスマス」
「やったー」
金田君、本当に嬉しそうな顔をしている。OKして良かったかも。
やった。如月さんと二人でクリスマスイブを迎える事が出来る。如月さんと知り合ってあっという間に三年半。未だ友達。彼女は中々心を開いてくれない。立花の事がいつも心の中に有る事は態度で分かる。去年まではそうだった。
今年に入ってから、彼女は少しずつ、自分の事を話してくれるようになった。グループで遊びに行った時のあの爽やかな笑顔が堪らない。
自分でも良く我慢していると思う。恋愛初心者としてはこんなものなのか。他の人はどうしているんだろう。一度そういう座談会でもないだろうか。
今年のクリスマスは二人だけで過ごせる。来年はもう大学という接点が無くなる。何としても今年中に如月さんの心を掴みたい。でもどうすれば………。
クリスマスプレゼントはもう決めている。一か八かだ。ダメなら社会人になってから探すしかない。
でも俺は如月星世さんを彼女にしたい。
がんばれ。でも油断するな。(神の声)
大学医局にて
「望月、教授の娘さんとはその後どうだ」
俺、的場京介は、望月葵陵に教授の娘が婚約者としている事を知っている。もっとも婚約者となったのは、こいつが医局で何とかなりそうだと教授が見極めてからだ。
外科医としての腕は未知数だが、地方とは言え、中核病院の跡取りとしての資質があると考えたからだろう。腕が無くては跡取りも出来ないだろうからな。
俺は、付属病院の一医師で終わるだろうな。出世話は面倒だし。音羽との事も有る。そう言えば宮崎さんあれからどうしたのかな。
「どうだって言ってもな。何も変わらんよ。あっちもそっちも。せめて如月さん位の器量良しだったらな」
「まだ、それ言っているのか。教授の娘さんだって綺麗じゃないか」
「なら的場に譲るよ。あっちも感激無いし」
「何を言っているんだ。彼女に失礼だろう」
「冗談だよ。当の昔に諦めた」
「当たり前だ」
「そう言えば、如月素世の妹が医学部三年生でいるの知っているか」
「ああ、いやでも耳にするよ。学年は違うが姉妹であの器量だ。目立つさ」
「何かのきっかけで会えないかな」
「また言っているのか。呆れた。流石に無理だろう。きっかけもない」
文学部の柏木さんの事を口にする訳にはいかない。
俺は時計を見る振りをして
「ほら、カンファレンスが始まるぞ。早く行こう」
「ああ、そうだな」
大学で勉強して医者になって教授の娘と結婚して親父の後を継ぐ。ふざけるな。俺の人生は生まれた時から決められたレールの上で動いているだけだ。
人は俺の育ちを羨ましいと言うが、俺からしてみたら親の操り人形でしかない。親の後を継ぐのは仕方ない。だが学生の間だけでも自由に生きたい。
教授の娘は、ひな壇の飾り物だ。姉がだめなら妹が何とかならないのか。良いじゃないか。これから人の命を救う仕事をするんだ。一人ぐらい遊んだって。
もうすぐクリスマスだ。このチャンスを何とかしたい。
いやいやそれは間違いでは………。えっ正しいという人もいる。うーん?!
―――――
おやおや、混迷を深める人間模様。
望月君、君の言っている事は………。正しいか、正しくないかは、当事者が決める事かな?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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