第51話 大きく変わった事

話の途中で時間が進みます。


―――――


今日は、土曜日。素世さんのマンションに居る。


「隼人、最近研究室に泊まることが多すぎない。もう少し帰って来てよ。もっと隼人と一緒に居たい」

「済みません。素世さん。後二ヶ月も有ればめどが付きます」

「後、二ヶ月って言っても終わったら十一月じゃない。今年は、旅行も行けなかったし、デートだってほとんどしていないじゃない」

「済みません」


「いいわ、隼人がやりたいと言っていた事をしているんだから。私は隼人を応援する。でも区切り着いたら、約束守ってね」

「はい」

「宜しい。じゃあ、お喋りはここまでよ」


………………。

やっぱり尻に敷かれるのかな。でも丁度いいかも。言い争っても敵わないし。




十一月に入り、


「神田教授、今まで監修含めありがとうございました」

「いや、こちらも勉強させて貰ったよ。コロンビア大学のブルー博士とも随分やり取り出来たのが良かったな」

「はい、これをアメリカの科学誌サイエンスに投稿します。ブルー博士からも大丈夫とお墨付きを貰っています」

「しかし、博士がお考えを多少変更しなくてはと言っていたな」

「いや、まだこれが認められてからの話です」




隼人が科学誌サイエンスへ論文を発表してから数日後、まだ世の中が騒いでいない時。


素世さんのマンションで夕飯をご馳走になり、リビングでくつろいでいる時だった。



「隼人、大切な話がある」

「はい」

何だろう、大切な話って。素世さんが俺の目をしっかりと見ている。素世さん綺麗だな。


素世さんが今まで見た事のない真剣な目で俺を見ている。


「隼人、私を一生守ってくれる」

「えっ、………」

「どうなの」

「は、はい。もちろんです。俺は素世さんを一生守ります」

「どうやって」

「どうやってって………」


 素世さんどうしたんだろう。一生守ってくれって。えっ、もしかしてプロポーズ。でも俺でいいの。医者じゃないよ。もし結婚しても苦労させるだけだかもしれないし。一緒に居たいけど。


「はっきり隼人の口で言って」


「えっと。素世さん。あの、その、苦労するかもしれませんよ。それに俺医者じゃないから如月病院継げないですよ。それでもいいなら俺について来てくれますか。素世さんを一生守ります。………こんなんではだめですか」


「肝心なこと言っていない」


「あっ、………。素世さん、結婚して下さい。今すぐでなくても良いです。大学卒業して仕事決まってからでもいいですから」

「もう、六十五点」

「はっ?」

「結婚してあげる」


 やっと隼人の口からはっきりした気持ちを聞くことが出来た。

私だって隼人の言っている事は分かっている。でも今のままじゃ、隼人が今の研究を追いかけてどこかに行ってしまいそうだから。


 あの論文がどれだけ凄いか私には分からないけど、サイエンスに寄稿するくらいだから中途半端なものではないと感じた。だから今しかない。

 ふふっ、言わせたよ。結婚するって。もう離さないんだから。


いきなり抱き着かれた。………後はご想像にお任せです。




 隼人が素世へのプロポーズが無事に成功した後、

 世界でも権威あるアメリカの科学誌サイエンスに立花隼人が寄稿した『ミラー対称性に関する別考察』が紹介されると理論物理学や数学に関わる研究者達が、大論争を起こした。

 その論争の中で、ブルー博士や『ミラー対称性』を発表した科学者達が隼人の論文を支持し、一端の終息を見せた。


 今度は大変になったのは大学側である。隼人はコロンビア大学ブライアン・ブルー博士から共同研究の誘い、全米科学アカデミーやイギリス王立協会からも声が掛かってとんでもない騒ぎになった。




この時、既に隼人は四年生、素世は六年生になっていた。


そしてその年の終りに隼人はしばらくぶりに実家に帰った。素世と一緒に。


「ただいま」

「お帰り。隼人」


お父さんとお母さんそれに姉さんが出迎えてくれた。

「隼人。お帰り。随分大事な話が有るって聞いたから私も帰って来たわ」

「姉さんも帰っていたんだ」

「入って。素世さん」

「は、はい」


両親と姉さんがキョトンとしている。


「玄関上がっても良いかな」

「そ、そうだな。リビングに行こう」

「私は、お茶の用意を」

「姉さんは、後で」

「何でよ」

「いいから」

「………」


姉さんを部屋に押し込んだ後、俺と素世さんは両親を前にして座った。

「お父さん、お母さん。紹介します。こちら如月素世さん」

「如月素世です。宜しくお願いします」

「如月………。もしかして如月病院の?」

「はい」

「素世さんは如月姉妹の長女です」


「それで隼人、大事な話というのは」

「俺は、素世さんと将来結婚したい。考えている時期は、大学卒業後。だから正式に婚約をしたいと考えている」

「な、何?!

お前、医者じゃないだろう。如月さんは長女だ。跡継ぎの話が有るんじゃないのか」


「隼人さん、私から説明して良いかな」

「うん」


「実はこの後、隼人さんと一緒に実家に帰って両親に説明します。私は、病院を継ぐ気は有りません。妹の星世に継がせるつもりです。父が何を言おうと隼人さんと結婚する気持ちは変わりません」

「お父様が絶対だめだと言ったらどうするんですか」

「家を出ます。もう大学も卒業です。家からの援助が無くても大丈夫です」


「えっ!

 しかし、今までご両親に世話になっておいて、それは無いと思うがな。その原因が私の子供有るとしたら、私も二人の事を認める訳にはいかない」


「それは………」

「父さんが反対なら俺も家を出る。今まで世話になっておりて、ふざけるなという思いは有ると思うけど、素世さんと一緒になる気持ちを変える気はない」


「なにを!」

「お父さん、興奮しないで。素世さん。あなたが隼人を好いてくれることはとても嬉しいわ。でも結婚は自分達だけでするものではないのよ。

法律上では出来るかもしれないけど世の中そんなに甘くないわ。今回の事、まずあなたのご両親を説得する事が先。

もし説得できれば、私達が反対する理由はないわ。お父さんもそうよね」

「ま、まあこんな勉強しかできない子と如月病院のお嬢さんが家を出る覚悟までして一緒になってくれるというなら私も賛成だ」


「お義父様、隼人さんは勉強が出来るだけではありません。今では世界に名を馳せるほどの人です。大学内でも久々の天才と言われています」

「て、天才。世界に名を馳せている?どういう事だ」

「父さん、難しい事は後で。とにかく素世さんのご両親に会って来る」





 如月家のリビングにて


「医者じゃない男と結婚だと。ふざけるな素世、何の為に俺と同じ大学に行かせたと思っている。生活を全部見たのも、全て医者の男を婿に入れてこの病院を継がせる為だ。

 立花さんの家は良く知っているが、医者で無い男と結婚させる訳にはいかない。まして婿では無く、嫁いで家を出るとは論外だ。立花君、素世の事は諦めてくれ」


予想通りの反応だった。医者じゃない男など、素世さんのお父さんから見たら一ミリの価値もない人間でしかない。しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。

 俺が話をしようとした時、


「お父様、隼人さんは世界でも期待されている人間です。如月家の長女がそのような方に嫁ぐとなれば良い意味で病院の為になるのではないですか」

「病院の為になるのは、優秀な医者だ。それが新たなお客様(患者)を呼び込む事になる」

「それも有りますが、隼人さんの名声は必ずお客様(患者)を呼び込むきっかけになります」

「そんな事になる訳ない」

「隼人さんがノーベル賞を取ってもですか」

「ノーベル賞!」


「はい、今すぐではないですが、いずれ賞を取れる人と私は思っています。今の大学でも久々の天才と言われています。

アメリカ科学アカデミーやイギリス王立協会からも声が掛かっています。お父様もご存じですよね」

「あの大学で、天才と言われているだと。アメリカ科学アカデミーから声が掛かっているだと。むーぅ」


「お父さん、いいじゃありませんか。素世が後を継がなくても、立花さんと素世の間に生まれた子なら間違いないわ。その子にこの病院を継いで貰いましょう」


「先が長すぎる。私は持たんぞ」

「星世に継がせましょう。あの子に婿を迎えさせて病院を継がせるのです。そして素世の子に病院を継がせる。優秀な人材が病院の後を順番に継いでくれるなら、私達はのんびり出来るわ」

「しかしなあ」


「立花さん、これからの事聞かせてもらえるかしら。私達は宇宙物理学の事は全く分からないわ。どうやって食べて行けるの」

「はい、卒業後、渡米しコロンビア大学のブライアン・ブルー教授と一緒に今の研究を進めます。共同研究者ですので研究費の中から収入もあります。またこの間は、コロンビア大学の講師として仕事もしますのでそちらからの収入も有ります。また科学雑誌への有料の寄稿もするつもりです」

「お母様。私も働きます。二人で働けば生活に困る事は有りません」



「どうします。あなた」

「………。分かった。そこまで言うなら。

立花君。素世の事、宜しく頼む。君達の子供の事については先の事だ。責任を感じなくていい。出来れば継ぐか協力して貰いたい」


「ありがとうございます。素世さんは命に代えても一生大切にします。子供の事は先過ぎて分かりません」

「はっきり言う男だな」


妹星世の件でも如月家は大変な騒ぎになるが、それはまた後で。




難産では有ったが、隼人は自分の両親と素世さんの両親に素世を将来の妻とする許可を貰い、婚約する事を認めさせた。

婚約の儀は、まだ学生で有る事を理由に素世さんに指輪を送るだけにした。まだ購入はしていない。

もちろん、お揃いの指輪は、それとは別に購入する事にした。



もう少し説得に時間が掛かると思っていた二人だったが、結局一日で終わった。東京に帰ったのは最終の特急だ。



「ふふふっ、隼人これで決まりね。いつから私のマンションに来るの」

「今のアパートを一月一杯で解約します。素世さんと重複している家具は実家に送ります。一月中から素世のマンションで生活する事になります」

「分かったわ。嬉しいわ。私、ずっと思っていたの。隼人の妻になる事を」

「えっ」

「えって何」

「いや、何でもありません」

いつ頃からなんだろう、俺と一緒になる事を考えていたなんて。


「言ったでしょ。私は重い女よ。でももう遅いからね。二人の両親にも許可貰ったし。隼人もはっきり言ってくれたんだから。一生一緒だよ」

「はい、それは大丈夫ですね」


「ねえ隼人、まだ春休みよね」

「じゃあ隼人………♡」


………………。

素世さん元気有り過ぎ。俺最近疲れています。


隼人、これからのが大変かも?


―――――

いつもより長くなりました。

今回は少し堅物な部分が多く済みません。話の流れでどこかで入れようと思いここになりました。下記の事項もご理解の程宜しくお願い致します。

・文中に記載のある全米科学アカデミーやイギリス王立協会につきましては本作品とは何も関係はございません。

・文中で記載のある「ミラー対称性」(カラビ・ヤウ多様体)は、本作品とは全く関係がございません。

・なお、私が尊敬するブライアン・グリーン博士に似た名前が出てきますが、貴博士とは全く関係がございません。


次回は、隼人の友人達?!の事に一度戻ります。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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