第50話 隼人の思い


隼人の思い


ちょっと隼人の事です。

話の途中で時間が進みます。


―――――


 今年ももうすぐ四月を迎える。この大学に入学して二年が経った。

今まで授業優先にしていたが、四月からは本格的に理学部の神田教授の元でやりたかった研究をする。

 

 入学までは、とにかくこの大学に入って高校時代の嫌な事を忘れようとしたが、上手く行かないものだ。


 星世の友達柏木さんが、俺と同じアパートに住んで、俺が教えたけど…。去年の夏前まで週一回とはいえ、夕食をご馳走になっていた。


 これは素直に素世さんに言った後、終わった。今はほとんどの日が素世さんに食べさせて貰っている。

 夕食の材料費を折半と言ったが、聞き入れて貰えず、世話になりっぱなしだ。世に言う紐男状態。自分でも少し情けないと思う。


しかし、アパートで入学時と同じように電子レンジでチンだけの食事に戻りたくはない。素世さんに胃袋を完全に掴まれている。


 そして、まさかの星世の入学。高校時代、俺の知らない間に他の男に体を任せて俺を騙していた。

 この大学に入学したのも元はと言えば、あの子から離れたかったからだ。そういう意味では、あまり冷たくするのは良くないのかもしれない。

 しかしも最近、金田と上手く行っているようだ。良かったと思う。


 素世さんの事を思うと中学時代から如月姉妹と関係が有ったなんて、何か因縁みたいなものを感じるな。

 もっとも素世さんと縁が無かったら、柏木さんか宮崎さんと仲良くしていたかもしれない。変な事を考えるのは止そう。素世さんに申し訳ない。


 三年生からは、高橋さん、宮崎さん共、授業が重なる事はない。もっとも神田教授のおかげで三年次の必修科目は終わっているけど。金田はそのまま工学部の情報技術に進む様だ。もう皆とも縁が無くなるか。

 四月に入ってからになるが、金田は今度食事でも誘うか。皆の状況も知りたい。


「隼人、何考えているの」

「何となく。もう入学して二年もたったのかなあって感じで思い出していました」


そうか。隼人は二年か。やっと基礎科目が終わったところかな。私は二十二。彼は二十。大学出たらその時は………。隼人も同じ考えだと思うから。一緒に働けば生活も何とかなる。子供はまだ先。


 その前にお父様を説得しないと。星世も言い聞かせないといけないから。今年中には、少し前に進ませたいな。


「そう。もうすぐ春休みも終わるし、何処か出かけない。塾のバイトも一段落ついているんでしょ」

「はい、でも何処かって言われても?」

「じゃあ、映画でもいいよ。その後公園でも散歩しない」

「いいですよ。何かやっていますか」

全然分からない。映画を見るのは好きだが、流行りの映画がどれでとかは全く俺の範疇外だ。素世さん何か知っているのかな。


「うーん、分からない。行ってから考えようよ。それと今から買い物一緒に行ってくれないかな」

「良いですよ」

お米かな。普段の買い物は一緒に行かないけど重い物を買う時は、俺が一緒に行って重い物だけ持って帰る。


 三月も後半とはいえ、外に出るとまだ寒い。二人共厚手の洋服に身を包み、手を繋いで歩く。もちろん俺が道路側だ。


「隼人、何食べたい」

「素世さんの作ってくれた料理」

「あのね。それ答えになっていると思う」

「いえ」

「意地悪しているの」

「そんな事ないです。いつも食べさせて貰っているので、何食べたいとか贅沢言えないなと思って」

「私が聞いている。だから答えないさい。スーパー着くまでが時間制限よ」

「分かりました」


困った………。


あっ、スーパーの袋持って星世が歩いてくる。目が合ってしまった。素世さんも気付いたみたいだ。


「隼人は何も言わないで」

「はい」


「星世。こんにちわ。お買い物」

「はい、こんにちわ。お姉さん。隼人」

星世が素世さんを見た後、俺を見る。


「星世。彼に向かって名前呼びはもうやめて」

「………。分かりました」


「行きましょ。隼人」

「はい」


素世さん、妹にきついのでは。


「いいんですか」

「いいの。隼人は私の彼氏よ。もう星世とは関係ないわ。苗字で呼ばせる」

「分かりました」



 二人が、手を繋いで横を通り過ぎて行く。会わなければこんな感情湧いてこなかったのに。

 隼人………。


マンションの部屋のドアを開ける。

「ただいま」


 誰もいないけどただいまという事にしている。やっぱり知らない東京で一人はきついな。大学で話が出来る知り合いは出来たけど、一緒に遊びに行くとかいう友達はいない。

 

 金田さん。優しい人だとは分かったから少しはお話をするようにはなった。でも男の人は隼人だけでいい。

まだ私の心の中は隼人だけ………。




四月も過ぎ、


「立花君」

「あっ、神田教授」

「君は本当にこの論文について別の考察を入れるつもりかい」

「はい、俺の視点、考え方とどうしても不一致な所が有って」

「しかし、この論文は既に世界の多くの理論物理学者が正として認めている所だぞ。他に発表されている論文の後付け証明にもなっているのに」

「やらせて下さい。一年、いや半年で書き上げます」

「待て待て、半年って、普通二年、三年の時間が必要だろう」

「いえ、そんなに大変な作業ではないんで」

「大変な作業じゃないって……。まあいい、せっかく立ち上げた研究室だ。君のやりたい通りにしなさい。講師陣は、地球物理学と数学科からの助っ人だ。君の役に立つと思う」

「期待しています」


 それからというもの、俺は自分の考えと論文に記載されている内容の隙間を埋めるべく没頭した。講師の人達も随分と協力してくれた。俺の考えの一つ一つに物理的論証と数学的正当性等を再確認してくれた。


 週の大半を研究室で過ごした。アパートへは着替えとシャワーを浴びに帰る程度だ。もちろん素世さんの所にも行く。胃袋は素世さんだのみだから。


 素世さんから健康の事とか随分気を使って貰った。夜食代わりのお弁当を持たせてくれた事もある。お世話になりっぱなしだ。


 ほとんど授業にも出ず、偶に顔を出すと声は掛けてくれるが会話とかはない。同じ理学部の人達からは変態に見られていたのかもしれない。



―――――


変態なのか異常なのか、凡人には分かりません。

しかし、星世の気持ちは固いですね。これも有りなのかな。後々変な事にならないと良いのですが?


次回は、隼人と素世さんに大きな動きが有ります。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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