第49話 金田一郎の努力
昨日の昼食時に立花を連れてこの食堂に来ると約束したが、あいつは、別の食堂に行ってしまった。如月さんとの約束もあり仕方なく俺はいつもの食堂に来た。如月さんは、この前と同じ端のテーブルに一人で座っている。
周りの男の子が、彼女をちらちら見ているのが分かる。あれだけ綺麗で可愛くてスタイルが良いのだから当然だ。
俺は、定食の乗ったトレイを持って彼女の席に近付いた。
「こんにちは如月さん」
「金田さん一人ですか」
「済みません。立花誘ったのですが、別の食堂に行ってしまって」
「そうですか」
如月さんは、思い切り寂しそうな目をして下を向いた。
「あの、済みません。今度は必ずあいつを誘ってきます。昼食時間でなくても立花と会えるようにします」
如月さんがゆっくりと顔を上げて
「どうして、金田さんはそんな事するんですか。あなたには関係ない事ですよね」
私は、何でこんな冷たい言い方するんだろう。せっかく金田さんが隼人に会えるようにしてくれると言っているのに。
「え、えっと。如月さんの笑顔が見たいからです」
ちょっと臭い事言ったかな。嫌われそう。
「…………。意味が分からないですけど、ありがとうございます」
金田さんだけが、今隼人とつながる伝手。理由は分からないけど、今はこのままこの人に合わせよう。
「金田さん。食事して。冷めてしまいます。私も食べますから」
「済みません。ありがとございます」
私は目の前に座る人を食事しながら見た。
身長は、男の人としては普通ぐらいなのかな。顔は特に良くも悪くもない感じ。でも大きな二重の目をしている。体は少し細いかな。
「如月さん、僕の顔に何か付いています」
「いえ」
良かった。立花が居ないからとサッと出て行かれたらどうしようも無かった。でも居てくれている。こんな時何を話せばいいんだろう。
高校時代、勉強ばかりで恋愛経験しなかったのが良くなかったのかな。もっとも誰も相手にしてくれ無さそうだったけど。
食事が一通り済むと
「あの、もし出来ればですけど……。連絡先交換しませんか。立花と都合が付いた時、連絡できるかなと思って」
隼人が会ってくれるなら、直接連絡くれるはず。……そんな訳ないか。今はこの人に頼ろう。
「良いですよ」
「本当ですか」
「はい」
やったー。これで一歩進んだ。立花を餌にしたのは悪かったけど、とにかく連絡できなければどうにもならない。
「如月さんが立花と会えるようにというか三人でも一緒に居れるように頑張ってみます」
「ありがとうございます」
金田さん、まだ分からないけど信用できそう。
「如月さん、毎日というか授業受ける日は毎日この食堂ですか」
「はい」
「では、なんとか立花誘います。一緒に昼食食べれるように」
「ありがとうございます。では今日はこれで失礼します」
「はい、また明日」
金田さん、さっき私の笑顔を見たいとか変な事言っていたけど、どういう意味なんだろう。まあいいや。隼人に会いたい。今はそれだけ。そうすれば次も見えるかもしれない。
俺は午前中立花と授業が一緒だった時、昼食を誘った。正直に如月さんの事も言った。あいつは、如月さんの事を言うと嫌な物でも見る様な目で会う事を固辞して来た。
もうここまで来れば、立花と如月さんに過去何かあったと事は間違いない。でも俺が関与する事じゃない。
立花を誘えなくても、午後からの授業の時でも昼食は必ずあの食堂に行った。必ず会える訳ではないが、週三回位は会えた。
如月さんも直ぐに帰る事はなく、食事が終わるまでは一緒に居てくれた。会話の中で偶に笑顔を見せてくれる時もある。爽やかな笑顔で無邪気に微笑む彼女の顔に胸が詰まる時がある。
この人と付き合う事が出来たらどんなに素晴らしいだろうと思うけど、今のままじゃとても無理だ。大学の外で何とか会う事が出来ないだろうか。
今日も立花と授業を受けている。
「立花、なあ頼むから一度でいい。如月さんと俺と一緒に食事出来ないか」
「なんで、そこまで言うんだ。金田があの子と会えていればいいだろう。俺は絶対に嫌だ」
「立花。お前と如月さんに過去何が有ったか細かい事は聞かないけど、一度も会いたくない程に酷い事が有ったのか」
「あの子に聞けばいい。俺は話す気もない」
「分かったよ」
私は、金田さんの努力で会えると期待したけど、もう今年も終わってしまう。自分でも努力しないと。夏前に会ったきりなんて寂しすぎる。隼人と会いたいよ。
私は、葉が随分落ちた銀杏の木の下を門の方へ歩いている。のんびりと。
あっ、隼人。金田さんと一緒に歩いている。急いで駆け寄った。
「隼人」
聞きたくない声が右から聞こえた。
「星世!」
くそっ、約束が有る。顔を背けない。逃げない。仕方なかった。
「良かったね。如月さん」
如月さんは返事もしないで立花の顔をじっと見ている。立花も彼女の顔を見ている。
何分経っているか分からない。
「星世。もういいだろう」
「隼人」
如月さんの下瞼に涙が一杯溜まっている。
隼人に抱き着きたかった。でも今はしてはいけない事。このまま居たいけど
「隼人、ありがとう。会えて嬉しかった」
「さよなら」
隼人が去って行った。でもあの時の約束は守ってくれた。今はこれでいい。
「金田さん。ありがとうございます。隼人、いえ立花君と会う事が出来ました」
もう聞くしかない。この状況は尋常じゃない。如月さんが話してくれないなら、また後にすればいい。でも今とにかく声を掛けるんだ。
「如月さん。立花に会えて良かったですね」
如月さんが、瞼に溜まった涙をハンカチで拭いている。
「如月さん、話してくれませんか。立花とあなたの事」
ここまで見られたなら隼人と何か有ったと事は、はっきり分かってしまった。でも他人に話す事じゃない。
「ごめんなさい。人に言うような事ではないです」
「そうですか。如月さんが俺に言うまで待っています」
「えっ」
「友達からで良いです。如月さんと会いたいです」
「…………。済みません」
そう言って如月さんは医学部の方へ戻って行った。
難しいのかな。彼女と昼食を取るようになって一ヶ月近く経つのに。
金田さんは悪い人じゃない。私が隼人に会う為に色々してくれている。彼の言葉の意味は分かるけど、今はまだそんな心境になれない。なりたくない。隼人がだめなら一人でもいい。でも隼人、本当にだめなの。
―――――
金田君、頑張っています。厳しいように見えますが、もう一押しだと私は思うのですが。
星世の心の中は、まだ隼人の事で一杯のようです。ここまで諦めきれない理由って何処にあるのかな。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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