第48話 サークルにて
「的場、サークルに行かないか」
「どこの?」
「未来医学創造研」
「如月さんの所属しているサークルか。もうほとんど参加していないんじゃないか」
「たまたま、今日来るらしい」
「僕は参加手続きしていないぞ」
「なあに、あくまで見学という名目だ。俺もそうだ」
「そういう事か」
望月に変な気を起こさせない為にも行くかな。教えた手前もあるし。
いきなり俺一人で行くと、参加もしていない五年生が何だという変な目で見られるからな。的場を連れて二人で見学と言えば形は付くだろう。
サークルにて
「えー、今日は見学という事で医学部の先輩である望月葵陵さんと的場京介さんが来ています。本日の課題に関して率直な意見を言って貰えると期待しています」
「望月葵陵?!」
「星世、夏前に研究課題を教えて貰った先輩だよ」
「あーあ、あの時の」
でも五年生がなんで、今更新しく見学なんてどう見ても嘘くさい。何か下心有るんだろうな。
サークルの先輩が二人に今日の課題を説明している。今日は隼人が遅れてくる日。神田教授と話が有ると言っていた。三十分位と言っていたからもうすぐ来るだろう。
「如月さん」
望月という男にいきなり声を掛けられた。
「夏前の課題どうですか。あれから進みましたか?」
「はい、ありがとうございます。おかげでほぼまとまりつつあります。あの時は大変ありがとうございました」
「それは良かった。また後で」
私に話しかけた後、的場とかいう男の側に帰って行った。
サークルは一時間程度で終わった。隼人が来ない。おかしいな。スマホをポケットから出すとメッセージが入っていた。気が付かなかったのか。早速開くと
『素世さん、済みません。遅れます。一時間半位遅れます。サークルはまだやっていますよね?』
『隼人、もう終わったよ。マンションに帰るからそっちで会おうか』
『分かりました』
スマホを仕舞い、席を立つと望月さんから声を掛けられた。
「如月さん、この後少し話せませんか」
「済みません。帰りますので」
「素世。この前の件も有るし、少し付き合えば」
「でも、帰らないと」
「良いじゃない。私達も行くから」
「えっ、そうなの」
個人で誘った訳じゃないんだ。困ったな。
「分かりました。ちょっと待って下さい」
廊下に出て、直接電話した。
『隼人、ちょっと皆で寄って行く』
『大丈夫ですか』
『一応、後で入ったお店を教えるね。来る?』
『後、三十分位で終わりますが、お店次第ですね。一応行きます。素世さん心配だから』
『ふふっ、ありがとう』
「素世、行くよ」
「はい」
如月さん、誰と話しているんだ。彼氏かな。
大学の通りにある居酒屋にサークルの仲間六人で入った。
直ぐに隼人に連絡した。店の名前とGPSの位置を教えた。
「「「お疲れ様でした」」」
私は、グラスビールを注文し、少し口を付けた。隼人が居る時の様な飲み方はしない。
早速、望月が話掛けて来た。
「如月さん、医科学に進まれたそうですが、何を専攻にするつもりですか」
「まだ明確に決まっていないです」
本当は決めているけど、こいつに話す必要はない。
「そうですか。僕は外科を専攻しています。もし決まっていないなら外科はどうですか」
「外科は考えていません」
「そうですか」
早く隼人来ないかな。こいつと話したくない。
専攻が似ているならそれから話を展開しようと思ったが、無理そうだ。他の事で話してみるか。
「如月さん、趣味とか何かありますか。僕は特にないので、もし何かやっているならと思って聞いているんですけど」
「いえ、私は何も」
「そうなんですか。無趣味が趣味というやつですね」
「…………」
「素世、もう少し話したら。何か望月さん、困った顔しているよ」
「でも特に話す事も無いし」
「如月さんに嫌われているみたいだな。思い当たらないんだけど」
「……。特に嫌いとかと言う訳ではなく、話す事がないだけです」
「参ったな如月さんは、こういう場とか苦手なんですか」
「ええ、あまり」
「そうなんですか。それは誘って済みませんでした」
全く話にならないな。何のために今日サークルに来たのか分からない。これ以上しつこく話しかけても無駄か。
「望月、こっちで話そう」
「的場か。仕方ないな」
的場の隣に座ると
「ははっ、諦めろ。あれだけガードが堅いんだ。それに何もしない約束だぞ」
「いや俺は普通に話したいだけだ」
「そうなのか」
素世さんから教えて貰った店はここか。
ドアが開き中に入ると店員が、
「ご予約ですか」
「はい、確か東都大学の未来医学創造研ってサークルの人達が居るはずなんですが」
「ちょっとお待ちください」
俺はついでに素世さんにスマホで連絡した。
ポケットの中のスマホが震えた。あっ、隼人だ。
『隼人、何処にいるの』
『お店の入り口』
『すぐ行く』
『いや、迎えに……』
店の奥から素世さんが現れた。
「隼人、遅―い」
「済みません。教授との話が延びて」
「いいわ、早く来て」
先程まで応対してくれた店員にお辞儀すると中に入った。
「素世、いきなり席立つから……あっ、立花君」
「遅れてすみません」
「良いの良いの、座って」
「素世の隣が空いているわ」
「はい」
「ふふっ、隼人が来たから飲んじゃおうかな」
「素世さん、適度にして下さいね」
「いいでしょ、帰るだけなんだから」
「あーあ、立花君が来ると素世、人が変わるんだから」
「ふふふっ、いいでしょう♡」
「あれが如月さんの彼氏か、しかしでかい男だな。俺達も低くないが全然大きいな。ほら手伸ばしたら天井に手が届いている」
「如月さんの顔を見ろ。あんなに柔らかい顔になっている。望月、諦めろ。入る余地がないぞ」
「しかしだな」
「良いから飲め」
俺が来てから三十分位でお開きになった。二人で歩いていると
「隼人、お腹空いているでしょ」
「ええ、少しは」
「駅降りたらどこか寄って行こうか」
「ええ? でもコンビニで何か買って部屋で食べますよ」
「色気ないな。恋人同士だよ。ねえ」
「分かりました。我儘なんですから」
「ふふっ、隼人だからいいの」
今日の素世さん、マンションに戻ってシャワーを浴びたら、凝りもせずにビール缶を開け、一口飲んだら、zzz………。
俺は仕方なく素世さんをベッドに運んだ後、シャワーを浴びてから素世さんのビールを飲んだが、何処が美味しいのか分からない。苦い!
寝室に行くと素世さんは運んできたままの姿だった。ほとんどベッドを真ん中で占領している。
ベッドの端に座って彼女を見た。寝顔が本当に可愛い。長いまつげがくるっと上を向いている。可愛い唇が艶やかだ。
長くて黒い艶やかな髪の毛がベッドの上に広がり、着やせするけど、大きな胸がそのままの形でいる。何度も体を合せているけど、ちょっと理性が負けそうだ。
本当に俺で良いのかな。素世さんは良いって言ってくれているけど、俺は医者じゃない。如月家は地元では有名な病院だ。長女として継ぐんだろうな。この人とずっと一緒に居たいけど無理なのかな。
素世さんの寝顔を見ていると動かすのが申し訳なくなり、毛布をそのまま掛けた。
今日はベッドの下に客用布団を敷いて寝る事にする。
―――――
素世さんの危機が救われたのか、素世さんガードが固くて良かったです。
隼人の悩み分かります。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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