第47話 妹の心
少し、如月星世の事を描きます。
―――――
「星世、ずっと一緒に居ような」
「うん。大好きだよ隼人」
「俺もだよ」
「えっ……」
いきなり白い霧が隼人を包むとそのまま遠くに消えて行った。
「隼人! どうしたの。どうしたの」
突然黒い霧が現れて高田幸助が出て来た。
「星世、行くぞ」
手を掴まれて強引に霧の中に引き摺りこまれそうになる。
「いやよ。止めて」
「良いじゃないか。一杯楽しんだろう」
体が霧の中に引き込まれる。
「止めてー!」
「やーっ!」
私はいきなり体にかかっていた毛布をどかして跳ね起きた。
「夢か」
額に汗がびっしょりだった。
「嫌な夢見たな」
周りを見ると見慣れた実家の自分の部屋ではなく、まだ家具も完全に揃っていない東京のマンションだった。
誰もいない。物音一つしない。真っ暗な部屋。毛布をもう一度体にかけ直すと目を閉じた。
「隼人…………。あなたが側に居てくれれば」
午前中の授業が終わると私は医学部からは少し遠い理学部の裏にある学食まで行く。
ここは安くて美味しい定食がある。でも私がここに毎日来るのは別の目的。今日も一人で端の方で定食を食べていた。
「ねえ、来たわよ」
「ほんとうだ。かっこいいな」
「友達になりたいね」
「声掛ければいいじゃない」
周りの人より一段背が高く、髪の毛も短く整えて優しい顔立ちをしている。高校の時から比べても随分変わった。
付き合っていた時は、ここまで背が高くない。髪の毛も長かった。東京に出て来て一段と変わったのかな。
でも毎日会える訳ではない。一週間に一度位は彼の姿を見ることが出来る。
彼はいつも友人何人かと一緒に来る。今日は男の人と一緒に来た。定食をトレイに取って少し端のテーブルに座って食べ始める。少し経つと周りは女の子で一杯になる。いつもの光景だ。
「立花。何かお前と来た時だけ女性が多い気がするのだが」
「金田。気の所為じゃないか」
「いや、俺と他の友達が一緒に来た時はこんな事無い」
「そうか。まあいいじゃないか。可愛い子でもいたら声を掛けて見ればいい」
「おまえ、何その上目目線。嫌だね。モテる男は」
「俺がモテる? 何言っているんだ。入学以来声を掛けられたのは、お前と高橋さんと宮崎さん位だよ」
「ねえ、聞いた。チャンスかもよ」
「そうね。でも彼一人なら良いんだけど。一緒に人が居る」
隼人はやはり人気だな。当たり前か私が大好きな人だもの。隼人の方をじっと見ていると側に居る人、夏前に会った人と目線が有った。
「あっ、立花。夏前に会った女の子が居る」
「うん?」
金田が視線を流している方を見ると
「っ! 星世」
視線が合ってしまった。顔を見ても逸らさない。急いで居なくならない。約束をした。仕方なく星世と視線を合したままにすると会釈をして来た。
どういうつもりだ。
「なあ、今あの子会釈したよな。こっち向いて」
「さあ、知らないが」
「立花、お前あの子の事知っているんだろう。紹介してくれよ。お前と違って俺は中々チャンス無いんだ。柏木さんはもう駄目みたいだし」
「柏木さん?そんな事無いんじゃないか」
「何で分かるんだよ」
「いや、何となくな」
「根拠のない発言は止めてくれ。それより紹介してくれよ。あの子」
「金田が直接行けばいいじゃないか。ここで見ててやるよ」
「俺が一人で行って相手してくれるかな」
「お前次第だけど、大丈夫じゃないか」
「そうかな、ちょっと行って来る」
金田は食事もそこそこに星世の所へ歩いて行った。
星世が誰か他に好きな人でも出来れば、俺からも遠のくだろう。
金田が星世の所に着いて、何か話し始めた。あれっ、座ったぞ。脈あるのか、金田頑張れよ。
隼人との隣に座っている人がこっちにやって来た。何だろう。
「あの、済みません。俺立花と同じ理学部の金田一郎と言います。少し話して良いですか」
嫌だけど。でももしかしたらこの人がきっかけで隼人の側に座れるかもしれない。
「はい、いいですよ」
「本当ですか。ありがとうございます。済みません。名前まだ知らなくて」
教えたくも無かったけど、確かに名前知らないと話も出来ない。
「如月星世と言います。医学部一年生です」
「如月さんって、もしかして医学部四年生の如月さんと関係あります」
「いきなりプライベートな事聞くんですね。確かに如月素世は私の姉です。もういいですか」
配慮のない人は嫌いだ。他人の心の中に土足で踏込んでくる。立ち上がり帰ろうとすると
「あ、ごめんなさい。怒りました。申し訳ないです。失礼でしたよね」
立ち上がろうとして止めた。ここでこの人を無視すれば隼人と会うきっかけが無くなるかもしれない。
「…………」
「あの、如月さん、昼食はいつもこの食堂に?」
「はい、安くて美味しいので」
「そうですか。今度ゆっくり話せませんか」
「良いですけど、金田さんの横に座っていた立花さんも一緒だといいです。最初は複数の方との方が話しやすいと思いますし」
やはりこの人も立花狙いか。でもチャンスはある。ここは条件を飲むか。
「はい、そうですね。そうしましょうか。明日もここに来ますか」
「金田さん達はどうなんですか」
達という事は立花も一緒か。
「立花はちょっと聞いてみないと分からないですけど。でも明日も来るように言ってみます。如月さんも来てくれますか」
「はい、そうします」
隼人がチラチラとこっちを見ている。これだけでもいい。この人を通じてもっと近くに行けたら。
「済みません、そろそろ戻ります。次の時間の授業も取っていますので」
「分かりました。じゃあ、明日」
「はい」
やったよ。後姿も可愛い。魅力的だな。まずは友達まで持って行ければ。
「立花、明日の昼食また一緒に出来るか」
「構わないけど。でも俺は別の食堂に行く」
「えっ、どうして」
「理由無いよ。他の食堂のご飯も食べたいだけさ」
「いや、ちょっと待ってくれ」
これは不味い。なんとかしないと。
「なあ、明日だけでももう一度ここに来ないか」
「いや、止めておく」
「どうしたんだよ。いつもなにも言わなくても此処に一緒に来たじゃないか。如月さんと何か関係あるのか」
「何も無い」
立花が早足で出て行ってしまった。俺はまだ昼食を取り終わっていない。仕方なしに一人残って食べた。何故か周りの女の子達が少なくなっている。昼食終わったからかな。
―――――
隼人の事を未だ思う星世。ダメと分かっていても何とか近づこうとする気持ち。遠のいたからこそ追い駆けたくなるんでしょうね。分からなくはないんですが、諦め悪すぎの様な。
この子を救えるのは金田だけなのでしょうか。金田の様に星世の事を何も知らない男の子が現れると良いんですけどね。如月家は姉妹揃って容姿は素晴らしいのだから。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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