第46話 波は少しずつ高くなる
スマホが震えた。柏木さんからだ。久しぶりだな。
『立花です』
『柏木です。立花君、今度の月曜日久しぶりに夕飯どうかな』
どうしようかな。こういうのってもう良くないよな。素世さんを騙している感じがする。
『柏木さん、済みません。月曜日の夕飯とても嬉しかったんですけど、もうしない事にします』
『えっ、なんで。どうして』
『はい、お付き合いしている人がいるので』
不味い。何とかしないと。立花君が如月さんの事をはっきり言うようになった。
『立花君。その人って如月素世さん?』
なんで知っているんだろう。
『そうです』
『分かったわ。でももう一度だけダメかな。これで最後だから』
『考えさせて下さい』
立花君は押しに弱いから何とかしてくれるはず。
『分かったわ。連絡待ってます』
夏休み以降、連絡ないからもう誘われないと思ったのに。柏木さんには、アパートに入居以来随分お世話になってしまったし。正直に素世さんに相談して見るか。
いつもの様に金曜日、素世さんのマンションにいる。あれ以来、妹とも全然合わなくなった。良い事だけどこれだけ近くに居て少し不思議な感じもする。
「隼人、どうしたの。さっきから考え事している」
「あっ、いえ……」
やっぱり言うか。
「素世さん。怒らないで聞いて貰えます」
「じゃあ、先に怒ろうかな」
「えっ」
いきなりキスされた。最近素世さんのキスは濃い感じがする。
「ふふっ、これで良いわ。言ってみなさい」
「同じアパートに同郷の柏木さんという人が住んでいます」
「えっ、柏木さんって星世の高校時代の同級生の?」
「はい。それでその人には、アパートに入居した時から色々お世話になって……」
「ちょっと待って。お世話って、まさか」
いきなり顔を寄せて来た。
「い、いえ。素世さんが想像している様な事は絶対にしていません。偶に掃除とか、夕食とかご馳走になって。もちろん素世さんと知り合う前の話です。
素世さんと知り合ってからは、月曜日だけ夕飯をご馳走になっていました」
「えーっ、もう。プイッ」
声を出してそっぽを向かれた。
「済みません。黙っていて。でも本当に食事だけです」
「食事だけでも重罪よ」
顔をこっちに向けてくれない。
「何処で食べていたの。まさかその子の部屋ってわけじゃないでしょうね」
「いや、その、ほとんど僕の部屋だったんですけど、一度だけ」
ぶはっ!
いきなり俺の顔にクッションがぶつけられた。相当に怒っている。
「本当に食事だけ? まさかのまさかは無いでしょうね」
「ぜ、絶対有りません。素世さんと神様に誓って」
何処の神様に誓っているんだろう?
「…………。良いわ。許してあげる。でもなんで急にそんな事言い始めたの。黙っていれば、黙っているのは良くないけど…。言わなくても良かったわよね」
言い方がドライだ。怒っている。
「その子からもう一度だけ、月曜日に一緒に夕飯を食べたいと言ってきて」
「断ればいいじゃない」
「それが、さっき言った今までの恩も有って、最後と言われると無下に断る事も出来ず、素世さんに話してみようと思いまして」
面白いな隼人。やっぱり押しに弱いなあ。将来が心配。でも柏木って子にはっきり私という人がいる事を分からせるチャンスかもしれない。
「…………。ふーん。その子と夕飯食べても良いわよ。月曜日と言わずにね。でも私も同伴させて」
「えっ、えーっ。ど、どう言う事ですか」
「言った通りよ。同伴出来なければ、隼人行かないで」
どうすればいいんだ。素世さん同伴なんて柏木さんに言ったら呆れられるし。柏木さんは、最後だからと言っていたからやはり二人で食べたいんだろうな。でも素世さんを裏切る事になるから断るか。
「分かりました。断ります」
「断るのはいいけれど、柏木さんとは今後どうするの。同じアパートなんだから会わない訳にはいかないでしょ」
「別に。会っても普通に挨拶するだけです」
まさか同じアパートだったとは。隼人の言っている通りに済むとは思えない。押しの弱い隼人の事、万一という事もある。この子を離したくない。一緒に居たい。ずっと。
「隼人。あなたが柏木さんと同じアパートだというのがとても心配。今まで何もなかったというだけよ。もし今後万一……有ったらと思うと心配で眠れない。
ねえ、もう一緒に住もう。隼人がご両親の事心配なら私あなたのご両親に挨拶に行ってもいい」
「もう少し考えさせて下さい」
「隼人は、私と一緒に居るのが嫌なの」
「そんな事ある訳無いじゃないですか。俺も素世さんと一緒に居たいです。でも両親にほとんど世話になっている中で、学生の内から同棲というのは……。
もちろん素世さんを愛しています。ずっと側に居て欲しいし、居ようと思います。だからこそ学生の間だけは別々に住んでいないといけないと思います」
隼人としての区切りか。確かに隼人のいう事は一理あるわ。私の両親も正直に話したら、簡単には許してくれないだろうし。彼は医学生では無い。お父様としては譲れない所になるかもしれない。星世に継がせるにしても今は事を急ぐ必要ないか。
「分かった。ごめんなさい。無理言って」
俺は翌日、柏木さんにメールでは失礼と思い電話で月曜日の夕食の件を断った。でも彼女はあっさりと了解してくれた。俺が返事を保留にした段階で諦めていたのかもしれない。
隼人にはやっぱり断られたか。返事を保留にされた所で無理だとは思ったけど、いつもなら直ぐに返事する彼だから。
本当は、最後の手段も考えたのだけど、今時点では如月さんに敵わない。妹から情報も得たし。
如月さんが余所見した時がチャンス。今は望月某という男に期待するしかない。
―――――
まさか、柏木さんが素世さんの足をすくう事を考えているとは。素世さんの事だから余所見はしないと思いますが、それだけでは済まないのが世の中です。
隼人、ライフセーバーの本領を発揮するしかない。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます