第45話 下準備
俺は、文学部の友人から柏木さんの事を聞いた。一年の必修科目の後なら会えるはずという事だった。顔が分からないので一緒について来て貰っている。知り合いが、顔を知っているので助かった。
聞いている必修科目の教室の外で待っていると
「的場君、あれが柏木さんよ。もう行くね。私が教えた事黙っておいてよ。変な誤解されたくないから」
「分かっている」
俺は柏木さんに近付いて
「済みません。柏木さんですか」
とても怪しまれた。
「…………。どなたですか」
「俺、的場京介といいます。医学部の五年生です。長尾高校の出身です」
「えっ。同じ高校」
「はい、少しお話したいのですが良いですか」
「次の授業があるので、少しだけなら」
「表に出ましょうか」
背が高く、まあイケメンかな。私は、隼人の方が良いけど。
「話とは何でしょう」
「時間がないのでストレートに言いますが、実は俺の友人で医学部の望月葵陵というやつがいるんですけど、如月素世さんと会いたいと言っているんです。一度如月さんが望月の所に研究課題の件で聞きに来た時に気になったらしくて。確か柏木さん、如月さんの妹さんと同じ高校ですよね」
「如月素世!」
「如月素世さんをご存じなんですか」
「いえ、私の高校時代の知合いの姉である程度の事しか知りません」
「そうですか。妹さんも医学部に今年入学したようです」
「えっ、……。もう時間なので失礼します」
「あっ、ちょっと待って下さい」
急いで俺のスマホの電話番号をメモに書いて渡した。
「もし、何か分かったらこの電話番号に連絡してください。柏木さんの電話番号知られるのが嫌なら公衆電話からでも良いです」
「分かりました」
私は、男から渡されたメモをポケットに入れると直ぐに走り出した。
星世は、やはり入学して来た。当たり前か。あの馬鹿と切れて一生懸命勉強すれば、十分に入学できる。
しかし、お姉さんに興味を抱く男がいるとは。確かに綺麗だしスタイルも良い彼女なら言い寄る男が居てもおかしくない。今は隼人の彼女だけど。
隼人がお姉さんを裏切るとは思えないけど、お姉さんなら分からない。あの妹の姉だ。チャンスかもしれない。星世に会って見るか。
いきなりで怪しまれただけだったかな。まあ、一応やることはやった。後は時が流れるだけだ。しかし望月も教授の娘と将来が決まっているというのに良くやるよな。
俺の様な男には分からん。あいつは地方とは言え、中核病院の跡取り。教授も後々の受け皿が欲しいのだろうか。まあ、娘さんは私立の医学部。確かにこっちの繋がりの方が良いか。
「的場君」
忘れるはずのない声に俺は振り向いた。
「音羽か」
「優菜から聞いたわ。立花さんに優菜をけしかけたんですって」
「まあ上手く行かなかったけど」
「当たり前だわ、優菜は一度立花さんに告白して断られているのよ」
「本当か。じゃあ優菜は、それが分かっていて引き受けたのか」
「優菜も優菜よね。一度断られているのに。最近は立花さんに全く話しかけていなかったのに何考えているんだろう」
「またきっかけを作りたかったんじゃないのか」
「やり方が最悪よ」
「…………」
今日取る授業は終わった。星世に掛けて見るか。電話番号が変わっていなければいいのだけど。
スマホが震えた。誰だろう。えっ、美緒。
『もしもし、美緒?』
『星世。良かった、電話番号変わっているかと思って心配した。繋がってよかった』
『スマホは変えたけど電話番号は変えていないから。それより嬉しい。美緒から連絡くれるなんて。もう会えないかと思っていた』
『ふふっ、何言っているの。友達でしょ。知り合いから星世が入学したって聞いたから、急いで電話したんだ。星世から連絡くれても良かったのに。ねえ、今日時間あるかな。久しぶりだから会わない』
『えっ、良いの。今日空いているよ。何時がいいの』
『私は今からでもいいんだけど』
『ごめんなさい。この後もう一つ取らないといけない授業が有って。その後なら』
『じゃあ、五時なら大丈夫ね。門の所で待っている』
『ありがとう。終わったら急いで行くから』
本当は会いたくないけど仕方ない。このチャンス何とかしないと。
「星世、久しぶり。元気そうでよかった」
「ありがとう。美緒も元気そうね」
「うん、今何処に住んでいるの」
「お姉さんのマンションと近い所」
「えっ、一緒じゃないの」
だからか。最近立花君が金土日と居ないのは。それなら納得だわ。
「でもなんで一緒じゃないの。姉妹なんだからその方が色々便利でしょ」
「うーん、お姉さんが、学校の面倒は見るけど生活は一人でしないと独立出来ないってお父さんに言って、お姉さんとは別に近くにマンションを買ってくれたの」
「か、買ってくれたの。やっぱり如月家はお金持ちだね。まあ実家が地元の有名な病院だから当たり前か。羨ましいな。私なんかアパートで自活よ。家賃は親が払ってくれるけど後は全部自分だもの」
「…………。ごめん。つまらない事言ってしまって」
「ううん、そんな事無いよ。それよりお姉さんと会ったりするの」
「あんまり。学校の事で聞くとき以外は会わない」
「そうなんだ。あれっ、星世って料理出来たっけ」
「えへへ、料理パッドで何とか。最近見なくても少しは出来る様になった」
「へーっ、偉いじゃん。ところで授業とかサークルとかは入ったの」
「授業はお姉さんに色々教えて貰って。でもほとんど一般教養みたいで。サークルはお姉さんの所には入れたらと思ったのだけど、姉妹で同じサークルはやりにくい。自分で決めなさいって言われて」
「そうか、何となく分かるな。お姉さんのサークルって何に入っているの」
「未来医学創造研っていうサークル」
「なんかすごい名前ね」
「私には分からないけど…」
サークルの名前を教えてそこに望月某を入らせて素世さんを誘わせれば。可能性は低いけど、一つ一つ試していくしかない。素世さんが脇目を見た時がチャンス。
「星世、今日はありがとう。今度は星世から連絡して。いつでも会うから」
「うん、嬉しいよ美緒。今日はありがとう」
良かった。大学でまだ友達もいなかったから美緒と話が出来るのは嬉しい。
立花君が同じアパートにいる事はバレない様にしないと。バレると大変な事になりそうだから。さて的場という男に連絡するか。
「望月、いい情報が入った。如月さんは未来医学創造研というサークルに入っているそうだ」
「それは本当か。凄い情報だ。これであの子と接点が出来る」
「望月、手出すなよ。約束だからな」
「分かっている」
一回位いいだろう。後は相手次第だ。
―――――
さあ、波が高くなってきました。隼人と素世さん、荒波を乗り切れますかね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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