第42話 プチ旅行
九月に入り、約束通り素世さんと俺は、千葉県の外房から内房を普通電車でクルリと回る旅行に出かけた。途中バスにも乗る。
でも、東京から上総一宮という駅までは、京葉線快速で行ける。
俺は、素世さんのマンションのある最寄りの駅と言っても隣駅だが、そこで待ち合わせすることにした。妹に会わない事を願いたい。十時に待ち合わせだ。この時間なら通勤時間と被ることはない。
改札を出た所で待っていると
「隼人」
白いTシャツに、ジーンズ、白いスニーカにハンドバックとやや大きめのキャリーバッグを引き摺りながら向かって来る。髪の毛は後ろで一本にまとめられている。
今回は俺もスポーツバッグと大きめのリュックを担いでいる。キャリーバッグは苦手だ。俺も白いTシャツとジーンズそれにブルーのスニーカだ。
「素世さん、おはようございます」
「おはよう。天気もバッチリだね。流石二人の相性がいいという所ね」
相性と天気って関係あったっけ?
「私達ちょっとしたペアルックね。ふふふっ」
「そ、そうですね」
改札を通り電車を待っていると、やはり視線を浴びる。素世さんには邪な、俺には痛い視線が。確かに彼女のこの格好では諸兄の視線を浴びるのは仕方ない所だ。
東京駅まで五十分。ほとんど電車だから苦にはならないし、思ったより空いていた。
京葉線ホームに行こうとすると
「隼人、お昼どうする。上総一宮までは快速だけどそこからは普通電車。御宿まで結構かかるよ」
「そうですね。買っていきましょうか」
お弁当を買って京葉線ホームに行くと後五分で発車だった。
「うわ、ギリギリだったね」
「ええ、でも間に合いました。真ん中あたりに乗りましょうか」
「そうね」
東京駅は地下だけど直ぐに地上に出た。直ぐに海が見えて来た。
「へーっ、海岸の近くを走るんだ。この電車」
「そうですね」
何となく、周りの視線が痛い。
そして直ぐに右側にドズニーランドが見えて来た。
「隼人、見て見て。あれ。ドズニーランドだよ。今度二人で来たいね」
「そうですね。来たいです」
ここに素世さんと二人出来たら楽しそうだな。とんがりお屋根や煙を吐いている山が見える。
海を見ながら話していると途中から内陸に入った。
「隼人、少し早いけどお弁当食べよ」
「はい」
電車はボックス席で俺達の席には素世さんと俺だけだ。二人並列に座っている。対面の方が楽なんだけど、俺の体の関係で位置を交互にしないと座れない。素世さんがそれは嫌だという事で、彼女を窓際にして、並列に座っている。荷物は目の前の席に置いてある。
景色は、稲刈りの終わった田んぼの風景を映し出していた。山間部の農村といった感じだ。海はあるのだろうか。
ちらりと横目で素世さんを見ると目を思い切り開けて景色を見ている。
「嬉しいな。隼人と二人で旅行なんて想像もしていなかった。ふふふっ」
頭を俺の腕に寄せて来た。
「海楽しみだな。ほとんど行った事無いから。景色で見る位だよね」
「そうですね。僕達の所は平地の街なんで、山も海も縁がないですから」
話をしている内に上総一ノ宮駅に着いた。やはり海の側という感じがない。次は普通電車で行く。二十分位で今日の目的地に着くみたいだ。
「「海だー」」
俺達は御宿駅に着くと直ぐに潮風の匂いが鼻を擽った。改札が一つの小さな駅だが、とても場所と雰囲気が溶け込んでいる感じだ。
民宿から教えて貰った地図を頼りに歩くと直ぐに海が見えた。真っ白い砂浜、真っ青な海、波も穏やかだ。サマーブリーズを体に思い切り感じた。
「隼人、海だよー。白い砂浜だよ」
「そうですね。とても綺麗です」
海水浴シーズンが終わっているのか、浜辺は静かだったが俺達には最高の状況だ。
「隼人、早く、行こう」
「素世さん。キャリーッグとか民宿に置いて貰いましょう。これでは、動きが取れないです」
「そ、そうね」
駅から歩いて十五分。小さな川のすぐそばに俺達が今日泊まる民宿が有った。海も直ぐ側だ。
宿泊する民宿に頼んでリュック、スポーツバッグとキャリーバッグを置くと靴をビーチサンダルに履き替えて急いで浜辺に行った。
「うわー。広い。広いよー。真っ白な浜辺、青い海。最高」
素世さん完全浮かれている。俺も同じだけど。
右と左を見ると扇状に浜辺があり、両方に港がある。多分二キロ位ありそうだ。結構広い。
「素世さん。向こう歩いて行きましょうか」
「うん」
素世さんが自然と手を繋いできた。指を絡ます恋人つなぎだ。真直ぐ前を向いている。軽く髪の毛が風で流されると、堪らなく美しい。体の線とも相まって抱きしめたくなる位だ。
この人が俺にしか心を許していないなんて、俺って幸せ者なのかな。何となく頬が緩んでしまった。
「隼人、私を見て何にやにやしているの」
「えっ、本当に綺麗だなと思って」
「ふふっ、隼人もとても素敵だよ」
足を止めてじっと俺を見てくる。良いのかな。右と左を見て人がいないのを確かめると
チュッ。
素世さんの顔が赤く染まって来るのが分かった。
「嬉しけど、いきなりなんて…。もう一度して」
今度は背中に手を当ててしっかりとしてあげた。
「ふふっ、幸せ」
「あっ、あれなんだろう。銅像が有りますよ。ちょっと行ってみましょう」
俺が恥ずかしくなってしまった。
「これって」
「昔の童謡か何かで歌われていた月の砂漠をモチーフにした銅像らしいよ。パンフに書いてあった」
「へーっ、素敵ですね」
「もう少し歩きましょ」
素世さんが波打ち際まで行って波が掛からない程度に遊んでいる。無邪気な女の子に見えた。髪の毛が顔にかかってそれが傾きかけた太陽の光で輝いている。
綺麗だな。素世さんを大切にしないと。でも俺で良いのかな。俺医者には、ならないけど。そんな先の事考えても仕方ないか。
「隼人、そろそろ戻ろうか」
「はい」
民宿は、一部屋をそのまま貸しているようだ。食事も部屋で出来るらしい。部屋食って凄いな。
「済みません。お風呂入れますけど」
宿の人が襖越しに伝えて来た。家風呂をそのまま利用するらしい。
「はーい。隼人先入る、それとも一緒に入る」
「ええ、いや、素世さん先に入って下さい。二人なんてムリムリ。恥ずかしいです」
「ふふっ、じゃあ先に入って来るね」
ふーっ、全く素世さん冗談がきつい。一緒にお風呂入ったら理性無くなってしまうよ。
俺もお風呂に入って休んでいる所に食事が運ばれてきた。テーブル一杯の料理。お刺身や焼き魚、フライに野菜サラダそれにご飯とお味噌汁。ご飯はおひつに入っている。凄いなー。本当に良いのかなと思う位の量だ。
「「頂きまーす」」
地の魚を料理してくれていると説明してくれた。本当に美味しかった。
食事が終わると
「ねえ、浜辺に行ってみる」
「今からですか」
もう八時だ。寝るには早いけど…。
「いいですよ」
それから二人で月明りと遠くの光しかない浜辺を歩いた。
何かしたかって。散歩しただけです。
翌日は、朝食後直ぐに民宿を出て、次の目的地に向かった。
―――――
隼人に素世さん、良かったですね。
もう一話この旅行続きます。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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