第41話 プチ旅行でもその前に


 現在、絶賛塾講師中。これを頑張りぬけば素世さんとプチ旅行だ。

八月にも入って、夏期合宿もこなし、夏休み後期特訓中だ。まあ、色々理由を付けて受験生のお尻を叩くプログラムだ。俺も随分叩かれた。

(受験生の皆様、物理的に叩く訳ではありません。夏合宿のフォローです)



 今は、アパートで風呂上り後に炭酸飲料を飲みながら明日の講習科目を見ている。覚えなければいけないポイントを生徒にしっかり理解してもらう為だ。


 スマホが震えた。もう十時過ぎだ。誰からだ。素世さんかな? えっ、穂香!

俺は急いでスマホの通話ボタンをタップした。


『もしもし』

『穂香です。隼人なの』

『俺だよ』

『良かった。スマホ変えていなかったんだ』

『スマホは変えたけど電話番号を変えなかったから』

『そうか。難しい事は分からない……。今電話して良かったかな』

『全然いいよ』

『電話したのはね、急なんだけど私、今週末東京に行くの、用事があって。だから隼人案内してもらえると嬉しいんだけど』

『構わないけど、用事って?』

『それは言えない事』

『そうか。そうだよな。良いよ案内なら。どうすればいい』

『土曜日の十一時に東京駅に迎えに来て貰えるかな』

『全然問題ないよ』

『じゃあ、お願い。会えるの楽しみにしている』

『うん、それじゃあ』

穂香かあ、久しぶりだな。去年の夏休みの時会ったきりだな。でも用事ってなんだろう。言えないって言っていたから…………。うーん。まあ仕方ないか。



 今、東京駅にいる。穂香に言われた通り、七号車の出口で待っている。

電車が入線してくる館内放送が流れた。久々も有って少しドキドキする。電車が停止するとドアが開いた。降車の乗客を見ていると


「隼人」

「穂香」

俺に近づいて来てじっと俺を上目遣いで見て来る。うっ、苦手。


「隼人、迎えに来てくれてありがとう」

「うん」

穂香は、白いのブラウスに薄いピンクの膝上スカート。白い短いソックスと茶の靴を履いている。凄く清潔感がある。


 ショートヘアだった髪の毛が背中の真ん中辺りまで伸びている。艶やかな黒色は変っていない。胸もしっかりと強調されている。ハンドバッグを肩にかけて手にキャリーバッグを持っている。


「キャリーバッグ俺が持つよ」

「うん、ありがとう。隼人、少し早いけど昼食にしない」

「良いよ」

「何処か知っているかな」

「うーん。この辺はなあ。ホテルは何処に取ったの」

「新橋」

「そうか、じゃあ新橋に行こう。駅のロッカーで荷物預ければいいし」

「分かった。そうしようか」


 嬉しかった。本当に嬉しかった。隼人に会えた。もう会えないかと思っていた。

でも父さんの会社も何とか持ち直し、従業員も戻って来てくれた。私はもう手伝わなくていい。


 お父さんは、自分の代で終わりにするか、働いている芽のあるやつに引き継がせると言っていた。

 だから、今は本当に自由の身。会えないかもしれないけどと思いながら今週始めに電話したら隼人が出てくれた。そして会ってくれた。


「穂香、このロッカーに入れよう。この大きさならそのキャリーバッグも入るよ」

「うん」



「穂香何食べたい。ここならそんなに高くないお店が一通りあるよ」

「うーん、隼人に任す。私分からないから」

「えっ、困ったな。じゃあ、あそこ」

一応気を使って和食と洋食がある店に入った。



俺は久しぶりにとんかつ定食、穂香は刺身定食を選んだ。注文が終わると

「穂香、用事って何。どこまで案内すればいいか、分からないから聞いているんだけど」

「…………。隼人、怒らないで聞いて」

「別に怒らないけど」

「…………。隼人に会う為に来た」

「えっ、…………」


 頭の中で疑問が渦巻いている。俺に会いに来た?はっ、どういう事。どういう意味。分からない。


「隼人。あなたと一緒に東京を見たい。私、東京知らないし」

そう言う事。


「見たいと言っても俺も知らないんだ。アパートと大学とバイト先位しか行ってないし」

「ふふっ、隼人らしいね。実言うと少し調べたんだ。新橋を拠点にして無理なく動ける範囲。今日は虎ノ門ヒルズに行った後、東京タワーに行きたい。

明日は東京スカイツリーに行って帰りに六本木ヒルズに行きたい。帰りのチケットは、一人だから適当でいいかなと思って」


「うーん。きちんと道案内できるかな。俺も行った事無いし」

「ふふっ、じゃあ二人で、お上りさんモードで行こうよ。楽しいかも」

「そうだね」


注文の品が運ばれてきた。一応千円以内で食べれるので助かる。


食べながら

「穂香、お父さんの体の調子はどうなんだ」

「大丈夫みたい。お母さんが五年前に亡くなってがっくり来た所へ仕事の不景気が重なって相当無理していたみたいだけど、今特に気になるような感じじゃない」

「そうか良かったな」


 地元の話をしながら食事を食べ終わると早速、虎ノ門ヒルズに行ってみた。新橋からだと隣だ。歩いても行けそうだが、知らない道を歩くのは危険すぎると判断して地下鉄を使った。


「高―い。地元ではないねー」

「それはそうだよ。こんなの作っても誰も入らないし」

「そうだよねー」



 中に入ると商業施設がある階までしか行けなかったが、周りの景色には驚いた。俺も来たことが無かったからだ。

 その後、東京タワーにも行ってみた。何か古い感じはしたが、来た甲斐は有った感じがするタワーだ。第一展望台までは行けるとの事で上がってみた。なるほどである。

 周りのビルが高すぎて感激がない。でも観光地化していた。



 あっという間に時間は過ぎ、もう夕方六時を過ぎていた。

「隼人、チェックインしないと」

「そうだね。帰ろうか」

「うん」


 俺達は新橋駅のロッカーで穂香のキャリーバッグを出すと、ホテルに向かった。予約しているホテルは、○○イン、いわゆるビジネスホテルだ。


「ちょっとチェックインしてくるね」


 俺はキャリーバッグを持って側に居る。フロントの担当者は、俺を見ても無反応。流石だ。

「行こう。六〇四だよ」


 エレベータに乗り六階に着くと部屋位置が正面に書かれていた。それを見て、六〇四に行くと穂香がカードキーを差し込みドアを開けた。

 二人で中に入り、キャリーバッグを部屋の隅に置くと…。いきなり穂香が俺に抱き着いて来た。

「ごめん、少しの間で良いから」


 俺の背中に腕を回してくる。穂香の大きな胸が思い切り俺の鳩尾辺りに押し付けられた。

 甘―い匂いが俺の鼻腔を擽って来る。うーっ、理性頑張れ。


「会いたかった。会いたかった。本当に会いたかった」

顔を一度上げて俺を見上げるとまた顔を胸に押し付けて思い切り腕をきつく締めつけて来た。おれも軽く背中に手を置いてあげる。


…………。


「隼人。夕飯も一緒に食べれるよね」

「…………。いいよ」

素世さんも柏木さんもいないし、一緒に食べても良いと思う。


「じゃあ、ご飯行こうか。昼食と違う所連れて行って」

「う、うん」

困ったなあ。知らないよお店なんて。


 二人で探していると昼間より少し値段が高い気がする。無理すれば二人分払えるけど、厳しいな。

「隼人、私がご馳走する。昼間払って貰ったけど、これでも社会人よ。お父さんからきちんと給料は貰っているわ」

「いや、でも」

「でもじゃない。あっ、あそこの中華屋さん入ろうか」

立てかけてある看板見ると一品でも二千円近い。いくら何でもと思っていると

「さ、入ろう」

「え、ここ高い…………」

「良いのよ」

結局、中華のお店に入った。値段通りで結構おいしかった。一皿の値段は高かったが、二~三人分の値段らしい。…………俺俺そんな事知らないよ。


お腹いっぱいになった俺達は、ホテルに戻った。入り口で

「穂香、明日また迎えに来る」

「隼人。ちょっと待って。部屋まで送って」

「でも…………」

意図が見え隠れするんだけど。


「シャワー浴びてくるね。帰っちゃいやだよ」

「…………」


 この流れだと…多分そうなるんだろうな。でも俺、素世さんいるし、裏切れないよ。

 女性のお風呂は長い。結局シャワーでも三十分待ってやっと出て来た。

げっ、タオル一枚。えっ、ええ。


「隼人。…………」

「…………」

「隼人好きな人いるの」

俺は無言で頷いた。


「そうか。でも今日だけなら分からないでしょ。引き摺らないから。私明日帰るし」

「穂香…………」


……………………。


「隼人、ありがとう」


結局、家に着いたのは、十二時を過ぎていた。


 翌日は、穂香の行きたい観光エリアを見て回り、五時には東京駅に着いた。特急は思ったより空いていて、自由席でも十分乗れそうだ。

 俺達は、少し早いけどホームで電車を待っていた。


「隼人」

「うん」

「隼人。私今でも隼人の事が好き。前の夫と別れてからは誰とも付き合っていない。父の仕事も順調だから今は自由。本当は………。でも隼人はもう新しい生活を始めている。

 隼人が誰かと結婚したら私はあきらめるけど、もし、もし隼人がずっと一人だったら、その時は私じゃダメかな」


「穂香…」


館内放送が入線の知らせを始めた。



―――――


どう考えればいいのかな。皆さんだったどうします。

隼人の優しさが、今後どうなりますか。

奔放で恋の女神アフロディーテってこういう人弄りたがるんですよね。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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