第40話 俺の知らない事


素世が隼人に金曜日のデートを断る少し前の事


「うーん、ここがどうしても分からない」

「どうしたの素世」

「この変異株との感染経路を完全に遮断している検体にどうして入り込んだのか。変異株独自に何かが有るのか。見当もつかないんだ。飛ぶ訳でもすり抜ける訳でもないはずなんだけど」


「それって、他のグループでも研究していたところじゃないかな。確か望月先輩とか」

「望月先輩って五年生の」

「そうそう、超イケメンで病院長の息子。」

「超イケメン、なにそれ」

「まあ、百聞は一見にしかずよ。どうせならその件も聞いてみたら。私も一緒に行くからさ」


「うーん、どうしようかな。いつなら聞けるの」

「聞いてみないと分からない。ちょっと待って」

直ぐに同じ研究室の子が連絡してくれた。



「如月さん、良いって。今週の金曜日の午後五時からなら空いているって」

「金曜日の午後五時かあ」

隼人と会いたいなあ。どうしようかな。


「それ以外だと二週間先になるらしいよ。望月先輩忙しいみたい」

「そうか。分かった。その日に聞きに行きましょう」

後で、隼人に連絡すればいいか。


………………。


「如月さん、こちら望月先輩。医学部のホープよ」

「如月素世です。この度はお忙しい所、お時間頂ありがとうございます」

「望月葵陵(もちづききりょう)です。こちらこそ。早速ですが、何かききたいことがあるとか」

「はい、この事です。……」


「ここの部分をもう少し確認してみて。僕達もそこは躓いたよ。君まだ四年生だよね。この研究課題は五年からじゃなかったかな。もうそこまで行っているんだ」

「はい」

「如月さん、この後時間ある」

時計を見た後、この時間なら隼人とまだ会える。


「済みません。約束があるので」

「そうか。じゃあまた今度」

 何となく早く立ち去った方が良いと思って研究室を出た。友達はイケメンとか言っていたが、私は隼人の方が良い。それにお坊ちゃま感丸出し。興味ないな。



「なあ、あの子。近づきたいけど何とかなる」

「望月先輩。悪い癖ですよ。可愛い子を見つけると直ぐに手を出したがる。如月さんはもう無理ですから」

「そう言う事。でも少し位なら分からないだろう」


まだ八時。隼人大丈夫かな。先週は、会えないと言ってしまったけど。

駅に向かいながら直ぐに隼人に電話した。直ぐに出た。


『隼人。素世。もう終わったんだ。会えるかな』

『えっ、そうなんですか。ご飯食べてしまいました』

『ご飯じゃなくてもいいでしょう』

『あ、そうですね。今どこですか』

『まだ大学。でも四十分位で帰れるから。改札で待ち合わせしない』

『良いですよ』

『じゃあ、後でね』



「なるほど、如月さんには決まった人がいるのか。まああれだけ綺麗な人なら当たり前か。でもなあ」

「望月、お前の悪い癖だぞ。もうそろそろその癖直せよ」

「的場か。いつもながら真面目だな」

「俺はお前の様に浮気癖ないからな」

「俺は浮気なんかしていないよ。決まった人がいないから」

「いるだろう教授のお嬢さんは?」

「あの人は、別扱いだろう」

「まったく」



夏休みも目の前に。


いつものように土曜日は素世さんの部屋にいる。


「隼人、夏休みどうするの」

「塾の夏期合宿とその前後授業で八月はほとんど埋まっています」

「実家には帰らないの」

「厳しいですね」

「そうか、私は少し帰るけど。九月はどうするの」

「少しどこかに旅行しようと思っています」

「えっ、旅行」

「はい、去年行けなかったので。でも安いプチ予算の旅行です」

「何処か行く所決まっているの」

「いえまだです」

「ねえ、隼人。私も一緒に行っては駄目かな」

「だめじゃないですけど。安旅行ですよ。素世さんにはちょっと」

「いいよ。隼人と一緒だったら」

「えーっ、でも。いいんですか」

「いいの」

「分かりました。でもお金ないんで安く行く旅行ですよ」

「分かったから」



 その後、素世さんと相談して、夏シーズンが少し過ぎた千葉県の外房から内房を電車で回ることにした。特急は使わないけど、今は京葉線快速が上総一宮という所まで通っている。宿泊は民宿だ。一泊二食付きで結構安い。旅館の様な設備はないけど、アットホームでいいみたいだ。

 素世さんとのプチ旅行を楽しみにしながら八月は塾講師をする事にした。



 ふふっ、隼人とプチ旅行。嬉しいな。どんな風になるのかな。民宿を調べたけど、普通の民家の部屋を宿泊として貸してくれているらしい。そこに隼人と二人。考えただけでもドキドキしてしまう。お風呂は家庭風呂だって。まさか、隼人と一緒に……。いやいやまだそこまでは。でももういいかも。うーっ、どうしよう。やっぱり早いかな。でもいずれは……。


「お姉さん。そろそろ着くよ。荷物降ろさないと」

「えっ、もう」


 隼人とのプチ旅行を想像している間にあっという間に実家のある地元の駅に着いた。

 私は妹と一緒に実家に二週間の予定で帰省することにした。地方の中堅都市。これと言って私が興味を引くものは何もない。


 両親への顔見せ、問題なく過ごしているという安心感を持って貰う為だ。まだ親の世話になっている子供の立場としては当たり前だ。隼人は帰らなくていいんだろうか。

改札を出るとお父様が車で迎えに来てくれていた。


 

―――――


望月葵陵ですか。素世さんに興味があるみたいですが、今の所相手にされていないようです。良かった。

でもちょっと胸騒ぎ。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る