第39話 宮崎さんと
先週、宮崎さんと約束した木曜日四限が終わった。もうすぐ午後五時だ。俺は、約束の一号館の前で待っていた。
少なくなった人通りの中に人目を引く女性がこちらに歩いてくる。クリーム色のブラウスにニットのカーデガン、淡いピンクのロングスカート、白い紐付きの靴を履いている。ブラウスの胸が強調されている。
俺を見つけたようだ。手を振って小走りに近付いて来た。
「立花さん、待った」
「いえ、今来たばかりです」
「ふふっ、定番ね」
「いや、実際四十分まで授業でしたので。宮崎さんは?」
「私は、三限の授業を取ってから時間有ったので、図書館で時間つぶし」
「宮崎さん、今日は一段と素敵ですね」
「ふふっ、だって立花さんと二人で会うんだもの。立花さんどこか良い所知っている」
「良い所って?」
「二人でゆっくり話せるところ」
宮崎さんいつもとキャラが違う感じ。もっと内気な人だと思っていたんだけど。
「知りません。ほとんどアパートと大学の往復だけですから」
「立花さんのアパートでもいいよ」
「へっ、い、いや、それは」
「何か困る事あるの。一人暮らしでしょ」
歩きながら上目遣いに見て来る。これ弱いんだけど。
「でも、今日いきなりは」
「そうね。では、夕食を一緒というのは」
今日は宮崎さんと会った後、アパートに帰ってインスタント食品を食べるだけだったので、俺としては嬉しい。一人で食べるよりいい。
「良いですよ、夕飯」
「本当、嬉しいな。何処に行こうか」
「俺、全然知らないので任せます」
宮崎さんが選んだのは、塾が有る駅の側にあるファミリーレストランだった。もう素世さんも講師していないし、見られて誤解される心配ないと思い同意した。素世さん結構嫉妬心強いから。
「立花さん、ここのお店、安くて美味しいの。高橋さんとも偶に来るんだ」
確かにメニューはリーズナブルだ。学生の俺でも財布に優しい。でも、ちょっと話だけの予定がなんかしっかりとしたデートっぽくなっている。まあいいか。
宮崎さんは、スパゲティペスカトーレとドリンクバー、俺は二百グラムステーキとライスそれにドリンクバーを注文した。
「立花さん、私ドリンク持ってきてあげる。何がいい」
「えっ、済みません。コーラで良いです」
「了解」
宮崎さんはコーラとオレンジジュースが入ったグラスを持って来てくれた。もちろん氷も入っている。
「歩いたから少し暑いかな」
何と宮崎さんブラウスの第二ボタンまで外し始めた。
えっ、いや。それは不味いのでは。それにボタン外すほど熱くないよ。身長差でどうしても上から見る事になる。目のやり場に気をつけないと。
「どうしたの立花さん」
「えっ、い、いや」
ふふっ、立花さん顔がほんのり赤くなっている。結構可愛い。
「立花さん、物理専攻と言っていたけど、将来何になるか決めているの」
「別にはっきりした事は決まっていないですが、宇宙物理学に興味があります。もちろん今時点ですが」
「宇宙物理学?」
「はい、量子力学、素粒子論に少し興味が有って」
「なんか難しそう。でもなんでそれなの」
「昔、エレガントな宇宙という本を読んで惹かれました」
「そ、そうなの。私には難しすぎて分からない」
「あくまでも興味の世界です。宮崎さんは何故化学専攻なんですか」
「深い意味はないです。修士でどこかの化粧品か医薬品メーカに入れれば程度にしか考えてないです」
「それでいいと思います。俺もこれでずっと行くかは決めていません。今時点の話です」
二人で話している間に注文の品が来た。
ご飯を食べ終えてコーヒーをドリンクバーから持って来た。宮崎さんは紅茶だ。
「立花さん」
宮崎さんが真剣な目でじっと俺を見て来ている。少し顔が赤い。スパゲティにアルコールでも入っていたのだろうか?黙っていると
「立花さん。私、とてもあなたに興味あるの。上手く言えないけど、友達からでいいからお付き合い出来ないかな」
「えっ……」
はて、これはどういう風に捉えれば。友達としては良いけど、何か別感情が入っているような。
「誰かお付き合いしている人いるんですか」
……………。
「……ええ、います」
……………。
「そうか、そうだよね。立花さんモテから」
「えっ、そうなんですか」
「知らないんですか。結構立花さんを見ている女の子いっぱいいますよ」
「えーっ、そうなんですか」
知らなかった。でも俺には素世さんいるし。
「そうか、そうか。だめか。お付き合い長いんですか」
「まだ、一年経っていません」
「えーっ、遅かったのか。やっぱり高橋さんの言う通り。先手必勝だったかな。仕方ないか」
「…………」
うーん、そう言う事だったのか。
第一ボタンまで着けると
「うん、分かった。もういいや。帰りましょう」
なんか、初見と違ってさっぱりした人だな。
俺達は、駅で別れた。
「立花さん、今日はありがとう。またね」
「はい」
時計を見るともう七時半。会ってから二時間半も経ったのか。何かピンとこないな。なんだったんだろう。
アパートに着いたのは八時半を過ぎていた。何か疲れたな。お風呂入って寝るか。
風呂から上がり、ベッドで本を読んでいるとスマホが震えた。素世さんからだ。
『はい、立花です』
『隼人、明日なんだけど大学で研究テーマの打合せが夕方あるの。遅くなるから明日の夕飯は無しになる。ごめんね。でも土曜日思い切り美味しいご飯作るから』
『分かりました。残念ですけど仕方ないですね。土曜日行きます』
『隼人。それじゃあ』
『はい』
―――――
注)「エレガントな宇宙」は、尊敬するコロンビア大学の教授ブライアン・グリーン博士の著書ですが、博士と本作品とは何の関係もありません。
宮崎さん残念でしたね。でも仕方ないです。
ところで素世さん珍しいですね。全てにおいて隼人優先と思っていたのですが。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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