第38話 如月姉妹


 私は昨日の夜、隼人のスマホの切り方が気になっていた。

いつもと違う。隼人の心に大きな乱れが有る。いつもの彼ならはにかむ様な感じでもはっきりとした態度を取る。

でも昨日の夜の彼の心は揺れていた。いえ何処か心の中では処理しきれない何かを抱えていた。



ピンポーン。

隼人だ。いつも彼は午前中には来てくれる。少し早いなと思いながら彼と思い監視カメラも見ずにドアを開けた。

「隼人。いら……。星世」

「お姉さん。おはようございます」

「…………。入んなさい」

「はい」


「どうしたの。土曜日のこんな朝早くから」

「……。昨日の夜、隼人いえ、立花君と会いました」

「…………」

「近くのコンビニです」


お姉さんは動揺しているのが分かる。さっきの玄関での言葉といい間違いない。


「それがどうかしたの。あなたは彼とは別れたのよね。今更彼と会ったからって、それを報告しに来たの」


「お姉さん。立花君と付き合っているの」

「もしそうだとすればどうなの。あなたには関係ない事よ」

「酷いよ。仮にも妹の元カレだよ。それを姉が奪うなんて」

「奪う。何言っているの。隼人を振ったのは星世でしょ。それも酷いやり方で。今更何を言う資格があなたにあるの」

「それでも……」



ピンポーン。

「ちょっと待って」

今度は玄関の監視カメラを見た。隼人だ。丁度いいわ。

ガチャ。


「いらっしゃい。隼人」

「素世さん、済みません。昨日の夜は、急に断ったりして」

「良いのよ。丁度良いわ。早く中に入って」

「はい」

丁度いい。どういう意味だろう。俺は上がろうとした時、いつもは無い女性の靴を見た。素世さんと足のサイズは同じ位だ。誰だろう。


「素世さん。お客様が来ているんですか」

「靴見たのね。そう妹が来ているわ」

「えっ、俺いない方が」

「構わないわ。丁度あなたの話をしていたから」

「俺の?」


素世さんがリビングに行くので俺もついて行った。昨日会ったばかりの星世がソファに座っている。


「隼人!」

俺は、またまた混乱に陥りそうだった。立ったままにしていると


「隼人、座って」

素世さんが自分の隣の席をパンパンと叩いた。自分は星世の前に座っている。俺は星世の座っているソファの斜め前に座った。


「星世。あなたの想像通りよ。隼人と私は付き合っているわ。もちろん深い関係よ」

「隼人。本当なの。昨日言っていた知人ってお姉さんの事だったの」

俺は、言葉は言わずに軽く頷いた。


「どうして。素世は私の姉よ。いくら私と別れたからって姉と付き合うなんて」

もう下瞼に涙が溜まっていた。


「星世、さっきから何を勘違いしているのかしら。あなたが隼人を酷いやり方で振ってからもう三年も経つのよ。あなたの事はもう何を言おうと白紙よ。

それに私はあなたから隼人を奪った訳じゃないわ。あなたが隼人と別れてから私自身が彼を好きになったのよ。私は今、思い切り隼人を愛しているわ。隼人の為ならなんだってする」


二人を直視できない。どうすればいいんだ。


「隼人はどうなの。お姉さんを愛しているの」

「愛している。今俺に最も必要な人だ」


…………。


「そう。分かった。隼人。昨日行った事覚えている。これからは私と会っても顔を背けないで。私と会ってもその場から居なくならないで」


俺は素世さんの顔を見た。頷いている。

「ああ、約束は守るよ」


星世がソファから立って

「お姉さん。私、帰ります」

「そう」


素世さんが星世を玄関まで送って行った。


素世さんがリビングに来るとソファに座っていた俺に跨る様にして正面から抱き着いて来た。思い切り力を入れて俺の背中に手を回している。

「隼人、しばらくこうさせて」


顔を俺の胸に押し付けている。


………………。


少し、胸元が濡れている様な気がする。


どの位経ったんだろう。素世さんが顔を上げた。

「隼人。私間違っていないよね」

素世さんの心の弱さを始めて見た気がした。


「間違っていません」

「ありがとう」


顔を胸に押し付けながら

「愛しているって言われた時、嬉しかった。だって初めてだから」

そう言えば言ってなかった様な。


顔を上げると俺の唇に口付けして来た。唇を当てるだけ。でもそのまま。


少しして唇を外すと、顔を俺の右肩に乗せて

「心配だったんだ。隼人が私をどう思っているか。妹の事も全く気にしていなかった訳じゃないし。でも今日はっきり分かった。嬉しいよ隼人」

「そ、そうですか」

「そうよ」


思い切り背中を両方の腕で抱きしめて来た。素世さんの柔らかさが思い切り伝わって来る。俺も彼女の背中に手を回した。

 彼女が俺の首筋に顔を付けて来ている。


「隼人、朝だけどダメかな」

「素世さんが望むなら」


………………。


「ごめんね。何か凄く寂しくなってしまって。隼人と体を合せていると安心するの」

「素世さんの心が安心するならいつでも……」

唇を塞がれてしまった。




 その後は、いつもの様に昼食をご馳走になって二人で出かけた。もちろん今日は素世さん宅でお泊りです。




 まさかお姉さんが、隼人の彼女だなんて。全く知らない人なら、取り返すチャンスもあった。もう一度という思いもあった。

でもお姉さんではどうしようもない。隼人を私に引き込む事が出来ない。諦めるしかないのかな。

 お姉さんが浮気したら……。まさかね。でもその時は。



―――――


私は何も言いません。

でも一言。隼人君、まだまだ波乱の人生ですかね。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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