第37話 知合いと元カノと
俺は金曜日誘われたカラオケの事を素世さんに話す事にした。下手に黙っていると誤解されかねない。
ポケットに入れているスマホが震えた。隼人からだ。チャットメールが入っている。
『金曜日の事です』
『どうかしたの』
『同じ学部の友人とカラオケに行く事になりまして。いつもと同じ時間に素世さんの所へ行けません』
『何時位になるの』
『多分九時過ぎると思います』
『良いけど……。でも帰るの遅くなるよね。泊まる?』
『どうしようかな』
『泊まったら。土曜日一度帰ってからまた来ればいい事だし』
『そうですね。そうします』
『じゃあ、待ってるね。夕飯はどうするの』
『皆で外で食べると思います』
『分かったわ。早く来てね♡』
『はい』
スマホをポケットに仕舞い、いつもの様に教室の後ろの方で講師が来るのを待っていると
「立花君」
「あっ、宮崎さん」
「ここに座っていい」
「良いですけど、珍しいですね一人なんて。いつも高橋さんと一緒だから」
「うん、彼女、今日は別科目を聞いている」
前回は同じだった様な。気のせいかな。
「立花君、明日カラオケ終わったら二人で会えないかな」
「…………」
「少しお話したいなって思って」
「ごめん。カラオケの後、直ぐ帰らないといけないんだ」
「そうか、そうだよね」
寂しそうな顔をして下を向いてしまった。
「でも、他の日ならいいですよ」
「ほんと」
パッと明るい顔になった。
「いつがいいですか」
「えっと、ちょっと待って」
スマホで塾講師のスケジュールを見る。ほとんど埋まっている。木曜日だけだ。
「ごめん、来週なら木曜日だけ授業が四限で終わるからその後なら」
「分かった。合わせる。場所は四限終わった頃連絡しようか」
「うん、それでいいよ」
今日も木曜日だけど、今日の今日はちょっと抵抗がある。宮崎さんも都合悪いだろうし。
少し話をしている間に、講師が入って来て会話が中断した。
翌日、俺達は五時に駅で待ち合せる事にした。去年ミニクリスマスパーティをやったカラオケ店に行く予定だ。
授業が終わった後、急いで行くと俺以外の金田、高橋さん、宮崎さん、柏木さんの皆が集まっていた。
「悪い。急いで来たんだけど」
「まだ、五時前だよ。行こうか」
大学からそんなに遠くない所にお店がある。
俺は、例によって聞くだけ参加。良く俺を誘うものだと思うのだが。
俺以外の四人が歌を歌っている。俺は飲み物を取りに行ったりとどちらかというとボーイみたいな感じだが、皆の歌を聞きながらなので、これはこれで楽しい。
「ふーっ、偶には立花君の歌を聞いてみたいな。立花君、何か歌覚えない」
高橋さんが歌い終わるといきなり俺に振って来た。
「うーん、そもそも音痴っぽいし。自信ない」
俺の言葉に柏木さんが疑いの目を向けている。俺は柏木さんの前で歌を歌った事無いのだが。
「大丈夫だよ。今から歌ってみる」
「い、いやいや。歌知らないし」
「えーっ、でも日頃耳にしているでしょ」
「聞き流しているから頭に残らない」
「そうか。じゃあ優菜、今度マンツーマンで教えてあげたら」
「えっ」
いきなり高橋さんから話題を振られた宮崎さんが困惑している。
「わ、私は構わないですけど」
「それなら、私も一緒に教えようか」
急に柏木さんが口を出して来た。どういう事?
「立花、ここで一曲教えて貰いなよ。俺も聞いてみたい」
「金田。なんて言う事を」
結局、今は流行だというスローな歌を教えられることになった。
「立花君。上手いじゃない。音痴なんかじゃないよ。ねえ皆」
高橋さんが思い切り褒めて来る。柏木さんも宮崎さんも大きく首を縦に振っている。
結局、七時半までいる事になった。精算は金田の顔で大分安くして貰えた。
店の外に出ると
「楽しかったね。じゃあまた今度ね」
「うん、またね」
金田、高橋さん、宮崎さんの三人が同じ方向に帰って行く。
「立花君、私達も帰りましょ」
「はい。あっ、でも途中までです。ちょっと寄るところが有って」
「……そうなんだ」
多分、立花君は如月さんの所、何とかしないと。でも今はどうしようもない。
「立花君。来週の月曜日一緒に食事できるよね」
「うん、大丈夫だよ。何か問題でも」
「ううん、なんでもない」
立花君は、私達のアパートが有る最寄り駅の一つ前で降りた。まさか隣駅とは。そう言えば星世どうなったんだろう。何も連絡ないし。……あるはずないか。
『素世さん、駅に着きました』
『早く来て。待っているわ』
『はい』
そう言えば、お腹空いたな。あまり食べていないし。コンビニ寄って行くか。
素世さんのマンションに行くまでにスーパーが一つとコンビニが二つある。便利だ。マンションに近いコンビニに入って直ぐに食べれる物を買って行こう。
この時、素世さんに声を掛けておけば、コンビニに寄る必要はなかった。
コンビニに入って簡単に食べれる夕飯を探していると
「立花君」
「…っ!星世」
俺は直ぐそこから逃げようとした。
「待って」
洋服を掴まれた。しっかりと掴んでいる。
「お願い。話をさせて。お願いだから」
悲しそうな顔で懇願している。無視して出ようと思えば出来た。でも下瞼に涙を溜めている女の子を無視する程、俺の心は強くない。例え過去が過去でも。
何も買わずに出た。
「話って」
「立花君。会いたかった。本当に会いたかった。もうあの時の事に言葉を繕っても意味がない事は分かっています。
でも私は、今でも立花君を好きなんです。自分の愚かさをなんと言われても言い訳はしません。
友達でなくてもいい。会った時、せめて顔を逸らさないで。その場から居なくならないで。お願いします」
「…………」
俺はこんな時なんて言えばいいのだろうか。言葉が浮かんでこない。あの時思い切り星世に言った。でも今はとても言えない。三年という時間がそれを薄めてしまっている。
「星世。高田が事故で死んだ時、助手席に乗っていたのは君か」
「違います。白石さんです」
「どうしてそれを知った」
「高校の友人から」
「そうか」
………………。
俺はなんと言えばいいんだ。もう許すとかいうのか。それともまた罵倒すればいいのか。言葉が見つからない。
「隼人……。何故さっきのコンビニ居たの。隼人のマンションはこの街なの」
………………。
「知り合いが近くに居るんだ」
「……そう。私帰るね。ごめんね。引き留めて。さよなら」
立ち去って行く星世の姿があまりにも小さく悲しそうで寂しく感じた。罪悪感が残った。俺が悪いんじゃない。お前が悪いはずなのに。何なんだ、この気持ちは。俺はこんな時どうすればいいんだよ。
『素世さん。済みません。今日いけないです』
『どうしたの。遅いから連絡しようと思ったのだけど』
『体調が悪くなって』
『えっ、隼人今どこ。直ぐに行く。動かないで』
『大丈夫です。今日は帰らせて下さい』
『そ、そう。明日は来てくれるわよね』
『大丈夫だと思います。済みません』
そのまま通話を切った。
―――――
遂に、波乱の幕開けですね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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