第36話 春風のいたずら


GW少し前


私と星世は、スマホのビデオ通話でお父様と話している。


「素世、星世、少し遅くなったが、いい物件が見つかった。素世のマンションから二百メートル位離れた所にある物件だ。

 素世の部屋と同じ2LDKだ。GW中に引っ越しが出来る様に業者に手配する。GW前が良いな。当日はお母さんが手伝いに行く」

「えっ、私の時は誰も来なかったのに」

「はははっ、あの時は院内で重要なオペが入っていてな。悪かったと思っているよ」

「なんで。星世ばかり!」

「そう言うな。星世、引越し先が近いが、一応三人手配しておく。梱包や開梱等の引越しの手間は全て業者に任せなさい」

「はい、ありがとうございます。お父様」

「うむ。素世、越した後も星世の面倒頼むぞ」

「分かりました、お父さん。ところで素世欲しい物が有るんだけど、良いかな」

「そうか。まあいいだろう。何が欲しいんだ」

「洋服とバッグ。良いかな」

「ああ、分かった」

やったあ。星世を泊めていた事はこれでイーブンね。隼人と一緒に買いに行こっと。


「星世、何か分からない事とか有ったら、素世に聞きなさい。マンションが近い事もある」

「はい、分かりました」


お父様とのビデオ通話が切れた後、

「星世、大学の事で分からない事は聞いて良いわ。でも生活面で分からない事は自分で解決しなさい。自立する為にはその辺を身に付けないといけないわ。後、ここは実家の街と違って物騒よ。夜中に一人で歩いても大丈夫なんてことは通用しないからね。明るい内に帰宅しなさい」

「分かりました」



それから一週間後、星世の引越しも終わった。中古のマンションだけど、私の所より設備が新しかった。あの子、料理とかした事あったかな。お母さんがめちゃくちゃ甘やかしていたけど。

しかし、近くの信号曲がってすぐの所なんて。仕方ないか。隼人が来る時は今まで以上に注意しないとね。星世に私と隼人の仲をまだ、教える訳には行かない。



 これで、素世お姉さんに気兼ねなく暮らせる。少し不安もあるけど。入学してから一ヶ月。まだ隼人に会えていない。何とか会えないかな。


 一人でソファに座っていると何となく頭の中に高田幸助の事が蘇って来た。高校時代、遊んでばかりいた。勉強しないといけないと分かっているのに出来なかった。理由は自分が一番良く分かっている。


 自分の所為で隼人を振った事になり、その反動で幸助に寄って行った。幸助には元々白石文香という女の子がいた。


幸助が私に近付いて来た時も白石さんは彼女のまま。私は自分が体だけを求められている遊び相手と知ったのは、私が既に幸助に依存した後からだった。


だって、幸助は白石さんとは別れる。私だけしか見ないとか言っていたから。白石さんの存在を知ってから別れようとしたけど、隼人のいない心の隙間を埋める為、体を合せる事への依存が私を幸助から離さなかった。


浪人生になって、幸助とは縁も切れたと思っていたけど、彼は運転免許を取った様で、私の家まで迎えに来ては遊びに誘った。


さすがにお父様が、幸助のお父さんに電話でクレームを言ってからは、全く来なくなった。二人の間にどんな話が有ったのかは分からない。


その後は流石に私も勉強に集中した。それからだった。あの事故のニュースを知ったのは。

幸助は事故で亡くなった。助手席に乗っていた女性を友達伝いに聞いてみた。白石さんが同乗していたらしい。結構怪我をしたみたいだけど、その後どうなったかは知らない。


私も新しい生活をしていくんだ。隼人の側にもう一度居る様になることは出来ないのかな。



GW過ぎた平日

「立花、今度の金曜日、高橋さんと宮崎さんと一緒にカラオケ行こうかと言っているんだけど都合どうだ」

「金曜日か返事明日で良いか」

「ああ、いいよ。ところで柏木さんも一緒にどうかな」

「自分で誘えばいいじゃないか」

「うーん、立花が声かけてくれた方が、来やすいかなと思って。僕だとまだ駄目なんだ」

「えーっ、あれから五か月近いぞ。まだそれかよ」

「中々の難攻不落でさ。柏木さん誰か好きな人いるのかな」

俺に聞くな。


「さー。分からないよ。普段会わないし、会ってもそんな話をしないから。まあ聞いてみるけど。今日はこの後五限まで頑張る予定」

「凄いなお前。なんでそんなに頑張るんだ」

「先に取れる単位は取っておきたい。四年生、出来れば三年生辺りから好きな事をしたいんだ」

「好きな事って」

「それはまたな」



ふと見ると、すっかり葉を落としていた銀杏の木が青い芽を吹き始めていた。去年もこの時期はそうだったな。あの時は素世さんに声掛けられたんだっけ。

 南風が気持ち良く漂っていた。




信じられない。隼人が前を歩いている。直ぐに分かった。ひときわ目立つ身長。優しい顔。誰かと一緒に歩いている。まさか会えるなんて。急いで駆け寄った。


「立花君」

「…っ!」

聞きたくない、過去に置いて来た声だった。聞こえない振りして行こうとした時、

「立花、あの人」

「如月さん……」


何も言えなかった。いや言う気になれない。星世も俺を見ているだけだ。


「立花、誰この人」

「……。俺と同郷の人」

「えっ、良かったら紹介して」

「あ、ああ。如月星世さんだ」

「えっ、如月って。もしかして」

「その通りだ」

「如月星世です」

「僕、金田一郎です。宜しく」


めちゃくちゃ可愛い。柏木さんも良いけど。全然違う。綺麗に輝く黒髪。ぱっちりと大きな目、スッと通った鼻筋に可愛い唇。細面だけど少し丸みのある輪郭。だめだ。これ一目惚れってやつだ。胸がドキドキする。


「あの、あの。もし良かったら少し話でも」

「金田。何言っているんだ。如月さんも都合あるだろう」

「隼人さえ良かったら、いいよ」


不味い、不味い、不味いよ。金田お前このやろう。俺は逃げ出したくて仕方なかった。関わりたくないこんな女。


「俺、この後授業あるから金田一人で相手しろよ。急ぐからじゃあな」

「えっ、立花。おい」

「隼人………」

「立花とはどんな関係で」

「私も用事思い出しました。失礼します」

「あっ、ちょっと……。何だよもう」

彼女の後姿もめちゃくちゃ可愛い。後で立花に彼女の連絡先聞き出すか。

でもどういう関係なんだ。立花を名前呼びしている。単に知り合いってだけじゃないよな。あの雰囲気。



―――――


あらら、ついに隼人、星世さんと遭遇。一次遭遇後の混乱を無事に回避した隼人。さて次は?

金田君、柏木さんより如月星世さんですか。


まだ、波乱の幕開けではありません。でもさざ波が立ち始めています。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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