第35話 春先に


ここから少し時間の進み具合が早くなります。


―――――


二月になった。一月末の試験も問題なく通過し、無事に二年生に上がれそうだ。そう言えば金田、高橋さん、宮崎さんはどうだったんだろう。試験後は会っていない。柏木さんは問題ない様だ。


今は、素世さんのマンションにいる。


「隼人、春休みはどうするの」

「塾は二月のみです。三月は実家に帰るか、別のバイトするかというところです。素世さんは」

「私は、今年は四年生。塾講師はもう終わり。二月は別のバイトをしようと思うの。三月は実家に帰る。妹の事も有るし。両親と話さないといけない事も有るから」

「そうですか。素世さんとは三月は会えないですか」

「ふふっ、そんなことないよ。実家の用事が終わったらすぐに帰って来るから。実質二週間位よ」

「良かったです」


素世さんにちょっと依存気味。日常的に会っている事、食事の事、もちろんあっちも。今はこれでも良いと思ってはいるけど。


 月曜日だけは、柏木さんに夕飯をご馳走になっている。食材費は俺が七割を払っているけど、手間とか考えると申し訳ない感じがする。


 結局、レンジでチンの夕食は、火曜、水曜、木曜、金曜だけど最近、水と金も素世さんのマンションで夕食をご馳走になっている。泊まりはしないけどね。


バイトは重要だ。親からの小遣いは今年三月までの約束だ。塾講師のバイト代が貯まってはいるが、今年は自分で小遣いを稼がないといけない。二月は積極的にバイトしないと。ちなみに塾の単金が上がるようだから助かるが。

素世さんは、親が裕福だから羨ましい。


「隼人、お喋りはここまで」

「うん」


………………。



 私は三月上旬に実家に帰った。目的は妹の東京での暮らしだ。隼人との生活を妹に壊されたくない。


「星世、結果はどうだったの」

「合格しました」

「そう」

この子は元々頭がいい。合格して当たり前か。


「素世、四月からは、今のマンションに星世も一緒に住まわせてくれ。お前と一緒ならお父さんも心配がない」


「お父様。星世も一人暮らしさせるべきです。私の所に来たら自立出来ません。私も今年から四年生です。星世とは行動時間が違います。妹を気にしては満足に勉強も出来ません」


「そうは言っても今からマンションを探すとなると…。せめてGWまでは、お前のマンションに居させてあげてくれ」


「四月いっぱいですか」

「実際は三月中旬からだが」

冗談じゃないわ。三月中旬からは隼人と一緒に居たいから妹に来られても困るわ。


「お父様。星世は私と同じ学部です。大学入学時の手続きは私が良く分かっています。四月一日からでいいのではないですか」

「素世、何か不都合な事が有るのか」

「いえ、ありません。ただ四年次からの準備があるので、いきなり再来週から来られても困ります」

 本当は四月からだけど。この際何とか三月中旬から星世が来ることを阻止しないと。


「分かった。では三月最終週からではどうだ。星世も初めての東京暮らしだ。その辺は姉としてフォローしなさい」

「分かりました」

さすがに妥協点か。これ以上お父様にたてついて、逆鱗に触れる事は止めておこう。


「星世、聞いての通りだ。三月最終週に素世のマンションに行きなさい。四月早々には、新しいマンションを見つける。素世の近くがいいだろう。細かい事は素世と相談しなさい」

「分かりました。お父様」

「まったく、お父様は星世に甘いのよ」


さすがにマンションのロケーションまで口を出すことは出来ない。私のマンションの近くを選択することは当たり前か。まさか、同じマンションにはならないと思うけど。

 いずれにしろ、隼人の件は、星世も知ることになる。その時はその時ね。



 姉は、相当に私を嫌いになっている。仕方ない事、私が悪いのだから。東京で四月一杯同じマンションに住めるだけでも良いと思うけど、お父様が探してくれたマンションに早く移るのが良さそう。一緒に居ても辛いだけかもしれない。

 何とか、医学部に合格した。最初の二年は、教養課程と聞いている。隼人も今年はまだ二年生。授業で会えるかな。……星世さん。無理と思います。



私は、お父様との話が終わると急いで東京に戻った。隼人にはその前の日には連絡してある。マンションの最寄りの駅で待ち合せた。


 電車がホームに着くと改札で隼人が待っているのが見えた。急いで改札を抜けると

「隼人、待った」

「いえ、時間が分かっていたので。十分位です」

「そう良かった」

隼人が私のキャリーバッグを持ってくれた。この辺はもうお互いの距離感が出来ている。


「隼人、今日夕飯食べれるよね」

「そのつもりで来ました。楽しみにしています」

「ふふっ、そうか。そうか。じゃあ、スーパーに寄って行こうか」

「はい」

隼人が嬉しそうに言っている。私もつい微笑んだ。



夕飯も終わり二人でコーヒーを飲んでいる。リビングのソファに座る素世さんと一握りの空きも無い。ほとんど密着している状況だ。

 最近はこの形が多い。偶に彼女がこのまま、俺の膝の上に体を乗せて来る時もある。なんかとても慣れた感じ。


「隼人、ごめんね。来週から四月いっぱいは、部屋に呼べない。週末は隼人の部屋に行きたいけど良いかな」

「俺は構わないですけど。理由は妹さんですか」

もう名前を口から出したくない。


「そう、だから隼人とマンションで会えるのは今週だけ。だからいっぱい会おう」

「いいですよ。今何も予定入ってないですから」

「アルバイトは?」

「塾講師、二月一杯の予定が、今月二週までずれ込みまして。他のバイトをしそこないました」

「そうなの。でも仕方ないね」

「ええ、今年と来年は塾講師するつもりですから」

「四年は?」

「まだ分からないです。先過ぎて」

「そうだよね」

隼人は単に勉強が出来るというだけ子じゃない。それが私は心の底にある不安だった。その時私が隼人と一緒に居れる事それが大切。


………………。



四月になり。


嫌われていると思った姉だけど、授業計画や大学HP、その他のWEBページの使い方を一通り教えてくれた。やっぱり素世お姉さんは優しかった。一人だととても大変だったと思う。隼人は一人でこなしたのかな。


そして授業が始まった。隼人と授業で会えるかと思ったけど、一年生と二年生では科目が違う。会えるはずがなかった。


スマホは、あの時以来、ブロックされていて全く連絡できない。でも会いたい。そのうち会えるかな。同じ大学だから。………。星世さん。キャンパスは広いです。



妹が来て三週間。2LDKだから住む事には問題ない。だけど同じマンションの部屋にいる限り隼人を部屋に呼ぶ訳にはいかない。妹の手前週末の外泊程度しか出来ない。全く早く出て行って欲しい。お父様からは、マンションの事は何も連絡がない。もう四月も半ばを過ぎたというのに。



―――――


さて、星世さんが上京してきました。今は、素世お姉さんの所に居ますが、一人住まいとなると、どうなる事やら。

 しかし、星世さん。まだ心の中にしっかりと隼人がいるみたいですね。どうするつもりですか。

 今は、まだ波が穏やかに見えます。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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