第33話 年の瀬は賑やかです


十二月も半ばを過ぎ、大分寒くなって来ている。


今日は土曜日、ここ最近土日は素世さんのマンションで過ごすことが多くなった。

大学の授業も慣れて来た。友達も出来た。塾も慣れて来ている。素世さんとも上手く行っている。

 上手く行きすぎている感じがする。こういう時は偶に不安を感じる。その理由は分からない。でも気を付けないと。好事魔多しとも言うしね。


「隼人、講師もだいぶ慣れたみたいね。塾長が褒めてたわよ」

「塾長が褒めてた?」

「うん、立花君の説明はとても理解しやすいと生徒の親から話が有ったそうよ」

「へーっ、生徒の親から」

「うん、クレームも有るけど、いい講師は長くいて欲しいから生徒の親にはアンテナを張っているのよ。多分生徒が親に言ったんじゃない。立花君の事」

「そうなんだ。でも監視されているみたいであまりいい感じしないですね」

「気にしなければいいだけよ。それよりクリスマス二四日から私のマンションで良いよね」

「はい、楽しみにしています」

「ふふっ、私もよ。ねえ、そろそろ」


………………。


素世さんと体を合すことも慣れてしまった。




 最近、立花君、土曜日は外泊が多いな。何処にいるんだろうか。如月さんの所かな。あまり考えたくない。前は土曜日二人で夕食を取る事も有った。もちろん週中も有った。

最近はあまり二人で夕食を取ることが少なくなった。少し寂しい。でも私は私のやり方で立花君に思いを伝える。手遅れって無いよね。




「立花君。ミニクリスマスパーティの件だけど、今週の金曜日で良いかな」

「あっ、高橋さん。いいですよ」

その日は、素世さんとも会う予定がない。


「立花。お願いが有るんだけど」

「金田。どうした」

「一応、高橋さんと宮崎さんには許可取ってあるんだけど、柏木さん呼べないかな」

「はっ?柏木さん」

なんで柏木さんが出て来るんだ。はて?


「なんで、柏木さんなんだ」

「いや、前に立花と居た時に声を掛けてくれただろう。あれからちょっと頭に残ってさ」

「ぷっ、そう言う事か。一応聞いてみるけど。彼女にも都合あるだろうから返事は分からないよ」

「いいんだ。ダメもとだから」

「分かった」


 俺は、今の時点で柏木さんとアパートが同じとか出身が同じとかばらしたくなかったので、アパートに帰ってから柏木さんと連絡を取った。スマホのチャットだ。

『柏木さん、今時間あるならちょっと話したいんですけど』


しばらくして

『今いいよ』

チャット機能についている電話に変えた。お金が掛からないので助かる。


『すみません。いきなり連絡して』

『ううん、嬉しいよ。立花君から電話貰えるなんて。ところでなあに』

『クリスマスパーティの事だけど、一緒に行かないか』

『えっ、クリスマスパーティ』

立花君が私をクリスマスパーティに誘ってくれている。信じられない。


『うん、前に会った金田と二人の女の子達とのやつ。今週の金曜日なんだけどどうかな』

なんだ。いきなり期待しちゃった。でも立花君と居れる。


『うん。いいよ』

『分かった。参加って伝えておく。じゃあ』

『ちょっと、待って』

『えっ、なに』

『明日、夕食一緒にどうかな。最近食べて無いから』

明日は塾がある。少し遅くなるな。確かに最近一緒に食べてない。素世さんにはなんて言おうか。


『明日は、バイトが有るから、帰って来るの八時過ぎるけど』

『うん、全然いいよ。作って待っている』

『済みません。ありがとうございます。明日、駅に着いたら連絡します』


やったあ。これで久しぶりに立花君と二人で夕食食べれる。……私の部屋じゃダメかな。誘ってみようかな。いや、いやいや。変に勘違いされても困るし。



翌日塾の終りに

「隼人。帰ろう」

「素世さん。今日、大学の友人と食事することになっていて」

「へえー。珍しいね。残念だけど仕方ないね」

少しは余裕見せないと。最近ちょっと隼人に依存気味。いいんだけど……。




テーブルに置いてあるスマホが鳴った。あっ、立花君からだ。

『もしもし。立花君』

『はい。今駅に着きました。急いで帰ります』

『はい、待っています』

ふふっ、嬉しいな。久々に立花君と一緒に夕飯食べれる。

……誘ってみようかな。最後までしなくても言い訳だし。彼優しいから無理はしないと思うし。でもどうやって。……取敢えず私のお部屋で食べる事から始めてみよう。うん、急がなくてもいい。


立花君から直接電話がかかって来た。

『今部屋に戻りました』

『あの、立花君相談なんだけど。今から立花君のお部屋に持って行って準備とかすると食べるの遅くなるから私の部屋で食べない』

確かにもう八時半。これから準備すると九時近くなる。それに最近、素世さんの痕跡多いし。

『俺は構わないけどいいんですか』

『うん、いいよ。直ぐ来て。料理温めてあるから』

『あの、部屋の場所。実はまだ知らなくて』

そうか、彼に言っていないし。私が部屋に出入りするの見た事無いはずだよね。

『一〇三です。待ってます』


女の人の部屋に入るのは初めてじゃないけど。何故か緊張する。彼女の部屋の前でインターフォンを押した。


ピンポーン。

ガチャ。

「いらっしゃい。さっ、早く入って」

「おじゃましまーす」


うっ、女の子特有の匂い。当たり前か。確かに俺の部屋より少し狭い感じがする。

玄関を上がると直ぐにダイニングキッチン。右手にバスと洗面台。トイレは別の様だ。右奥のドアが占められている。


「立花君。君のとこより少し狭いでしょ」

「確かにですね」

「洗面所で手を洗ったら椅子に座って」


俺は洗面所に立つととても女の子らしい雰囲気が有った。俺の所とは大違いだ。

「あっ、タオル使っても良いよ。新しいから」

「ありがとうございます」

手を洗いタオルで拭くととても柔らかくいい匂いがする。少しドキッとする。


「立花君。久しぶりだね。一緒に食べるの」

「そうですね」

「私、立花君とこうして一緒に食べれるのってとても嬉しいんだ。毎日でも食べたい位。

さっ、食べて」


テーブルの上には、俺の皿に大きなハンバーグとサラダの盛り合わせ。柏木さんの皿には小さめのハンバーグ。別のお皿にポテトサラダ。箸置きとお味噌汁。凄いな。

ハンバーグをお箸で少し取ろうとすると中から肉汁が出て来た。一口食べると口の中が肉汁と肉の旨味のハーモニーが凄い。


「このハンバーグ、柏木さんが作ったんですか」

「うん、昨日一緒に食べれるって聞いたから、ちょっと気合入れちゃった」

「とっても美味しいです」


俺がまた口にハンバーグ入れて噛んでいると柏木さんが嬉しそうな顔をしている。

「立花君が美味しそうに食べていると嬉しいわ。作り甲斐があるわ」


モグモグ、ゴク。

「本当に美味しいです」


俺達は食べ終わった後、柏木さんが食器を片付けている。

「手伝います」

「いいよ。狭いから」

「そんな事無いです。食べさせてもらって何もしないのは、申し訳なさすぎます」

「じゃあ、洗うから食器拭いてテーブルに置いてくれる」

「はい」


柏木さんが洗い終わった食器を籠に入れると直ぐに俺が布巾で拭いてテーブルに重ならない様に置いた。

「なんか、嬉しいな。こうしていると。毎日でもいいんだけど」

「………」

「あははっ、冗談です」

「済みません」

「立花君が謝る事無いわ。でも偶にはこうしたい」

「柏木さん……」


彼女が何を言いたいのか何となく分かったような気がした。でも俺は素世さんを裏切りたくない。でも素世さんに会わない時なら良いかな。


「柏木さん、毎日は無理ですけど、偶には良いですよ。月曜日と水曜日のいづれかなら空いてます」

「本当。じゃあ、月曜日」

「分かりました。それから食費は割り勘で行きましょう」

「うん、でも月四回だから月末ね。実費負担半分ずつで」

「僕が七割持ちます。水やガスだって使うし、作って貰っているから」

「ふふっ、ありがとう。助かるわ」


 彼が帰った。ふふっ、これでまた一歩進んだかな。


―――――


ふむ、隼人君。君は自炊しないのかね。確かにチンだけとは聞いているが。

柏木さん。今まで隼人の前に現れた女の子とは違うタイプです。応援したいですね。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る