第32話 大学の友人


もう十一月。

夏休みも終わり、十月初めに履修登録をした私は、いつものように教室移動の為、構内を歩いていると夏休み前は一度も会う事の無かった人を見つけた。

 でも声を掛けようとして止めた。如月さんと一緒に歩いている。まるで恋人同士の様だ。やはり二人の間は………。


考えるのは止そう。意味のない事だ。なるべく立花君に気付かれない様に次の授業の場所へ行った。


あの二人、この前の件といい間違いなく既に関係を持っているはず。私は軽はずみなことはしたくない。順当に彼と接しながらはっきりと彼の気持ちが私に有る事が分かったら……。それまではしたくない。

でもこのままでは不味い。何とかしないと。




 俺は授業を受ける為、教室のなるべく後ろの方で座った。階段式の大教室でもちょっと後ろの人は気になるようだ。




「立花さん」

俺の名前を知っている人って誰という気持ちで振り返るとそこに一人の男と二人の女の子が立っていた。


「はい」

「ごめん、いきなり声かけて。私高橋音羽、こっちが宮崎優菜、それでこいつが金田一郎」

「………」

「立花さん申し訳ない。この子達が君と話したいって言ったんだけど、自分達だけじゃ難しいと言うんで僕も一緒に」

「話?」

「あっ、難しい話じゃなくて友達になれないかなと思って」

始めてだ。この大学に来て話しかけられたのは。今まで素世さんとサークルの人達だけだったからな。



「ああ、いいですけど」

「ここ座っていいかな。私達もこの授業受けるんだ」

「どうぞ」


俺の左に金田一郎が座り、右に高橋音羽、宮崎優菜が並んで座った。

直ぐに講師が入って来たので、話は後になった。


授業が終わると丁度お昼の時間。

「もし、この後良かったら皆で学食行かない。立花さん、用事ある」

「いえ、無いですけど」



なぜ俺の名前を知っているんだろう。三人共会った事無いのに。

髪の毛が肩より少し長くて細面切れ長の目にすっと通った鼻筋に可愛い唇。胸は特に目立たない普通の美人系の子が高橋音羽。

ショートヘアで丸顔、目がぱっちりして胸がしっかりと出ている子が宮崎優菜。

目も隠れる様な前髪に黒メガネを掛けた男が金田一郎というらしい。

二人の女の子はどちらも百六十センチ位、男の方は百七十五センチ位だ。



 俺達は、教室の有る建物のすぐ裏にある食堂で四人共定食を選択した。安くて美味しい一番無難な選択だ。

「立花さん、いつも一人ですよね。希望専攻は何なの」

一人じゃ悪いのかな。何か突っ込んでくるな。


「物理学です」

「凄い、僕は建築学」

「私達は化学」

どうも主導的に話すのは高橋さんの様だ。


「何故僕の名前知っているんですか」

「立花さん、授業後、講師と良く話していますよね。その時聞いたんです」

なんと、壁に耳ありだな。


俺はその後、世間話をして次の授業が近くなったので三人と別れようとすると

「あの、連絡先交換出来ませんか」

「えっ」

「無理かな。中々会えないし」

この位の背の女の子はどうしても上目遣いでくる。苦手だ。


「わ、分かりました」

「良かった」



始めて有ったのに連絡先を交換することになってしまった。引き摺られるのは嫌なのだが。

結局、また会おうという事になった。まあ大学で話し相手が出来るのは悪くないか。

ただ、女性には要注意だ。会う時は必ず金田さんを混ぜよう。


時間がギリギリになったので

「すみません。次の授業がもうすぐ始まるので、失礼します」

「あ、ごめんなさい。また」


俺は、ストライドの長さを駆使して次の授業に向かった。



「優菜、結構手強そうだね」

「まだ、初めてだし」

「そうだよ。時間あるから。何かイベントとかすれば。あっ、もうすぐクリスマスじゃん。これ利用しよう」

「そうだね。何も二四日や二五日に会わなければいけないなんて無いし」



それから数日して金田一郎からスマホに連絡が入った。

『ちょっと会えない。少しで良いんだ』

何だろう。無下に断るのも悪いか。


『良いですよ』

『じゃあ、場所と時間は……』


三限後に会った。

「忙しいのにごめん」

「いいよ。もう帰るだけだったし」

「立花さん。クリスマスの時期、用事入っている」

「うーん。多分。二四と二五は開けておきたい」

「そうだよな。立花さんモテそうだし」

「いや、そう言う訳じゃないけど」

実はそう言う訳なんだ。素世さんと会う予定。


「じゃあ、二四前にどこかで四人でミニクリスマスパーティでもやらないか」

どうしようかな。まあいいか。


「いいよ」

「そうか。じゃあ、細かい事決まったら連絡するから、調整しようか」

「分かった。あ、それから立花でいいよ。さん付けはお互いやめようぜ」

「そうだな。ありがとう立花」

「じゃあな金田」

二人が別れようとした時、


「立花君」

声の方を振り向くと

「柏木さん」

金田が目を丸くしている。


「立花君。お友達?」

「うん、最近知り合った」

「そうか。この後、授業あるの」

「ないよ」

「じゃあ、一緒に帰らない」

「…いいけど」


「な、なあ。立花この人は」

「ああ知合いの柏木美緒さん」

「へえ、僕金田一郎と言います。宜しく」

「はい」

誰この人。いきなり馴れ馴れしい感じ。


「柏木さん。同じ理学部の人だよ」

「あ、すみません。いきなりでしたね」

「いえ、こちらこそ。文学部の柏木美緒です」


「立花。今日はこれで。また連絡する」

「分かりました」



 もうすっかり銀杏も葉を黄色くして大分落ちている。ここに来た時は青い芽が出たばかりだったのにな。

 門に向かうまでの構内を歩きながらそう思っていると


「立花君。金田さんと何か約束したの」

「うん、ミニクリスマスパーティしようって、誘われた」

「ミニクリスマスパーティ?」

「うん、僕と彼と女の子二人でやるらしい」

「えっ、女の子二人」

「その人たちも最近知り合った。同じ理学部の人」


「そう。ねえ今日、ご飯一緒に食べようか」

「いいですよ」

すっかり慣れてしまった。一人より良いし、彼女料理美味いから俺も助かっているけど。



 これは油断していた。素世さんに気を取られて、まさか足元から湧き出てくるとは。対策を打たないと。夕飯食べながらでも聞いてみようかな。



―――――


柏木さん。まさかの灯台下暗しでしたね。またまた出て来ました。ライバル候補者。

どうするんでしょう。

しかし、隼人君。君女の子に弱すぎ。過去の経験生きてないよ。

はてさて、これからどうなるのかな。

そう言えば、もうすぐ受験シーズンだよね。なんか過去の亡霊(星世)が………。まさかね。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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