第31話 予定外の出来事


 また眠ってしまった。隼人と二回目をしてから。隼人はまだ寝ている。今のうちにもう一度シャワーを浴びておこう。


 彼の頬にキスをすると起こさない様に毛布を取った。下着一つ着けていないけど誰も見ていないからと下着と部屋着をバッグから取り出してお風呂場に向かった。

 ちょっと歩きづらいけど仕方ないか。



先輩の後姿綺麗だな。本当にしちゃったんだ。

何となく流れでしたけど。先輩の事は好きだけど、体を合せるほどではなかった。でも誘われて、あの状況であそこまで言われて断るのは無理だよ。

 これからどうなるのかな。塾やサークル、大学の生活も何か変わりそう。何とかしないと。

 そんなこと考えながらウトウトしていると先輩が戻って来た。


「あ、起きたんだ。おはよう隼人」

「おはようございます。素世さん」

「ぶー、素世でしょ」

「でも何となく素世さんのが言いやすくて」

「そうなの。隼人がどうしてもというなら良いよ」

「素世さん、ありがとうございます」


 彼女は僕の顔の近くベッドの脇にお尻を乗せると僕の髪の毛を触りながら

「今日は、日曜だね。何しようか」

「俺は素世さんと一緒に居るのが嬉しいけど…。良いですか」

「いいよ。私も隼人の側に居たいから」


「分かりました。朝食作りましょうか」

「うん、でももう十時半だよ。ブランチになるね」

「えっ、もうそんな時間」

「ふふふっ、二人で頑張ったから」

俺は毛布を顔に掛けた。



 結局、素世さんが作ってくれたベーコンエッグとパンにコーヒーでブランチを済ますと二人で十二時半位に俺のアパートを出た。


素世さんは昨日と同じ紺のロングジャケットとミニスカートだけどTシャツは淡いピンクに変えている。少し歩きづらそう。


俺は、昨日と同じ紺のセットアップ白いTシャツだ。肩に素世さんの大きなバッグを掛けている。


彼女が自然に手を繋いできた。俺も抵抗なしに手を繋ぐ。彼女が俺の方を見て微笑んだ。

「ふふっ、嬉しいな」

「えっ」

「こうして隼人と普通に手を繋いで歩ける事」

「………」




夏休みも残り二週間。流石に東京に戻らないと思い、キャリーケースとバッグを持ってアパートのある最寄りの駅の改札を出ようとした。


えっ、なんで。隼人が女の人と手を繋いでこっちに向かって来る。誰あの人。あっ、まさか星世のお姉さん。そんな………。

 私に全く気付かずに二人して微笑みながら改札に入って行った。


 隼人………。どういう事。あの大きなバッグ。手を繋いで歩いている。来た方向は、多分アパートから。えっ、えっ、えーっ。


 東京について直ぐに私の頭の中は混乱という名の嵐が吹き荒れている。とにかく落ち着いて。アパートに帰ってから考えよう。


 油断していた。隼人の知り合いは私だけ。アパートも同じ。夕食も一緒に出来る様になった。後は少しずつ近くなって行けばいい。そう思っていた。まさか如月姉がいるとは。


 考えれば分かるはずだが、あの人は医学部三年生。隼人の接点はどこにもないはず。なのに先を越された。どうして。

 隼人に聞く?でも、でもでも。でも聞かないと………。


 その日、隼人が帰宅したのは夜の零時を過ぎていた。流石にこの時間で聞く事は出来ない。そうだ。明日、田舎からのお土産という事で訪ねればいいんだ。




ピンポーン。

誰だろう。玄関のカメラを見ると柏木さんだ。久しぶりだな。

ガチャ。


「おはよう。立花君。実家に帰った時のお土産持って来たんだ」

「ありがとうございます。コーヒー飲みます?」

一応慣れた知人への礼儀と言う事でお誘い。


「うん、ありがとう。上がるね」

「どうぞ」


「リビングで座って待っていて下さい。直ぐコーヒー淹れます」


彼がコーヒーを淹れている間に、部屋の中を見た。特に変わったところは。えっ、食器が二人分。やっぱり。


「コーヒー入りました」

「ありがとう。これお土産。立花君と同じ地域だから珍しくないだろうけど、まあ久しぶりの挨拶代わりと言う事で」

「ありがとうございます。助かります」



「立花君実家一週間って言っていたけど。帰ってどうだった」

「はい、賑やかでした。親戚の人達が来て質問攻めでした」

「やっぱり。私も同じよ。従妹なんて東京に出たら私と同居できるかなと聞いてくるし」

「あははっ、俺の所も同じ事聞いて来た子が居ました。流石に無理と言いましたけど」

「そうだよね」



「バイトは始めたの」

「はい、少しずつですが何とか出来ています」

「凄いな。私もそのバイト出来ないかな」

「うーん、聞いてみても良いですけど。募集しているのかな。俺はたまたま空きが出来たから入れたけど」

「そうか。でも一応聞いてみて」

「分かりました」



「ねえ、立花君。聞きずらいし。怒らないでね」

「えっ」

「昨日、駅の改札で如月さんのお姉さんと一緒に居る所見たんだ。偶々、私が改札を出た時」

「そうなんですか」

「あの人とは接点有ったの」

「ええ、サークルに誘われて」

塾の事は話さなかった。


「サークル?」

「はい、未来医学創造研っていうサークル」

「未来医学創造研。医学部のサークル」

「そうなんですけど。如月さんにこれからの医学は他分野とのコラボが必要だ。意見が欲しいとか言われて、入らされました」

「そうなんだ」

「昨日一緒だったよね」

「ええ、この部屋でブランチ食べて映画見に行きました」

「えっ、それって。まさか」

「いや、如月さんが十一時位に来たので、外で食べるより良いからって言われて。一緒に食べたんです」

「えっ一緒に」

「はい」



立花君、ちょっと嘘ついている感じ。でもここでそれを聞いても仕方ないし。私に聞く権利無いし。

「そうか。そうだったのか」

「どうしたんですか」

「うん、何でもない。私部屋に戻るね」

「あっ、はい。お土産ありがとうございました」

「うん、気にしないで」



 不味い。作戦変更しないと。隼人を如月さんに渡すわけにはいかない。それに星世の姉。同じ目に合うかもしれないし。考えないと。



―――――


いやはや。柏木さんと会ってしまうとは。隼人君、運が悪いで済まないよ。

柏木さん、どんな作戦。やっぱり、隼人の前には暗雲が。

どうなるんだろう。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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