第30話 如月先輩とデート


 俺は如月先輩との約束の時間より三十分前に最寄りの駅に着いた。改札周りに先輩らしき人はいない。


 改札を出た所で先輩のマンション方向を見ると、姿は見えない。早く来すぎたかなと思ってスマホを見ながらチラチラと先輩が来る方向を見ていると先輩が現れた。


 大きなバッグを持っている。映画を見に行くだけじゃないのか。他に何かあるのだろうか。

考えている内に直ぐ側まで来た。


今日の先輩は、白いTシャツに紺のロングジャケットとミニスカート、茶色の靴を履いて、大きなバッグ以外にベージュのバッグを持っている。唇に赤いルージュと大きめのイヤリング。結構お洒落な感じ。


「立花君。待ったあ」

「いえ、さっき来た所です。ところでそのバッグ何ですか」

「気にしないで。ちょっと必要なものが入っている」

「そうですか。持ちましょうか」

「いいわ。私が持っているから」

「分かりました。如月先輩、今日一段と素敵ですね」

「分かる。立花君とデートだから気合入れたのよ」

「デート?」


「普通、男と女が映画を見に行くと言ったらデートでしょう」

「まあ、そうですね。でも俺なんかで良いんですか」

「いいの。それは私が決める事」

良いのかなあ。後々何も無いと良いんだけど。


「さ、行こうか」

「はい」


俺達は、いつもとは違う少し郊外のショッピングモールにある映画館に行く予定だ。

改札を通ってホームで電車を待っていると先輩が周りから視線を向けられている。分かるよ諸兄その気持ち。でも俺には冷たい目線。仕方ない。

電車の中でも同じだ。



「先輩、結構見られていますね」

「そうかな。でも立花君が一緒だから安心」

「先輩、やっぱりそのバッグ持ちますよ。俺手ぶらだし。女性がバッグ二つ持っていて、男が手ぶらだと恰好付かないから」

「そうか。立花君優しいね。バッグを持つ為の上手い言い訳だね。ありがとう」

「………」

そんな上目遣いで見ないで下さい。辛いです。

「なに、顔赤くしているの」

「い、いえ」


ふふっ、立花君可愛いな。やはり早めの行動が良いか。



映画館の有る最寄りの駅に着く。

「何見ようか」

「先輩が誘ってくれたので、先輩に任せます」

「ありがとう。実はこれ見たいんだ」

先輩が指差したのは、今流行りの恋愛物の横にあるスペースオペラ。スタートラックスだ。耳が長いお兄さんが出てくる奴。


「良いですよ。意外ですね。先輩がこういう映画好きなんて」

「立花君。ちょっといい。今日位その先輩という言い方止めて。名前で呼んでくれないかな」

「はっ、名前ですか。それはちょっと急すぎて………」

「とにかく、言ってみて」

「も、素世さん」

「もう一度」

「素世さん」

「さんも要らないけど、今日はいいわ。私も隼人って呼ぶから」

「………」



如月先輩どうしたんだろう。先輩って呼び過ぎたのかな。如月さんって言っておけばよかったのかも。でも遅いか。素世、素世、星世………うーっ、やばいな。名前が似ている。

忘れていたのに。


「隼人行こう」

「あっ、はい」

押されっぱなしだ。



中々面白かったけど、二時間十五分も掛かった。もう二時だ。お腹空いたな。

「先輩」

無視された。


「素世さん」

「なに」

「お腹すきませんか」

「うん、空いている。どこかで食べようか。ここは色々あるから」

「はい」



俺達は、映画館を出て、エスカレータを降りると昼の賑わいが引いた後みたいでレストランフロアは空いていた。

「何食べようか」

「素世さんの好きなもので」

「ありがとう。じゃあ、あそこに入ろう」


辛めの中華料理屋さんだ。

「ここでいい」

「全然いいです」



注文した料理が運ばれてきた。真っ赤なスープがグツグツと煮立っている。素世さん、辛い物好きなんだ。俺も好きだけど。


「ふふっ、好きなんだな。ちょっと辛そうな料理って。今度作ってあげようか」

「嬉しいです。」

「じゃあ、また私の所でね」

「はい」


素世さんがハフハフ言いながらお豆腐とご飯と赤いスープを一緒に口に運んでいる。見ていると本当に先輩、綺麗で可愛いな。本当に彼氏いないのかな。


「隼人。私の顔に何か付いている」

「いえ、可愛いなと思って」

「えっ………」

素世さん顔を赤くして下を向いしまった。


「あっ、すみません」

「い、いいのよ。うん。さっ、食べましょう」

食事中に何を言うかと思ったら。もう少しムードのあるところで言ってよね。



 俺達は、遅い昼食を取るとレストランフロアから一つ降りてそのまま、ショッピングモールの奥に歩いて行く。そのまま、ついて行くと小さな庭園風の公園が有った。

「ここで少し散歩しましょう」

「はい」


先輩のバッグを持つ手の反対側にいる素世さんとさっきから手がぶつかっている。どうしたのかなと思ってちらりと見ると、俺の手を素世さんの手で遊んでいるように見える。

 こちらからも素世さんの手に意図的に当たるようにする。俺の指先が素世さんの手の平に着いた瞬間、握られた。

ちらっと横目で見ると顔を赤くして俯いている。


「素世さん。手つなぎます」

「え、え、良いの」

やっぱり。


「良いですよ。俺も光栄です」

しっかりと握って来た。嬉しそうな顔をしている。風景の事や十月からの大学の事等話していたら、もうだいぶ暗くなって来た。夜のとばりが降りる直前だ。

 先輩が立ち止まった。俺を見上げている。


「素世さん?」

「隼人、お願いがある。………今日隼人のアパートに行きたい。良いかな」

「はっ?」


頭の中が素世さんの言葉を理解しようとして全回転している。どういう事。俺のアパートに来たいって。夕飯だけならいいか。まさか泊まる訳でもないだろうし。


「だめかな」

素世さんのその上目遣い弱い。懇願するような目で俺を見ている。


「わ、分かりました。いいですよ」

「えっ、本当。やったー」

何をやったのだろうか。


急に明るい顔をして

「夕飯私が作ってあげる」

「嬉しいですけど、食器が俺の分しかないです」

「そんなの問題ないわ。ここで買って行けばいい事よ」


 素世さんの行動力凄い。あっという間に一人分の食器類を購入した。


「隼人、今日は何食べたい」

「素世さんの食べたいもの」

「スパゲティ系で良いかな。隼人は食があるから別途お肉も買おうか」

「はい」

 うーっ、家計費にインパクト大。


近くのスーパーで買い物をして俺のアパートにやって来た。

ガチャ。

「狭いですけど。入って下さい」

「お邪魔しまーす」


寝室片付けてないな。

「すみません。散らかっていて」

「いいよ。突然来たんだから」


さっと寝室のドアを閉め、リビングに置いてある雑誌・・いかがわしくないです・・を片付けて素世さんが座るスペースを作る。


「素世さん。座って下さい」

「うん、ありがとう。思ったより広いね。1LDKなんだ。キッチンも広いし」

「はい。両親に感謝です」

これなら十分ね。


「じゃあ、食事作るから。あっ、洗面所で手を洗いたい」

「はい、そこのドアを開けるとあります」

なるほど、洗面所とお風呂が対面であるんだ。おトイレは別なのね。良かった。



あっという間に夕飯も終わり、時間も九時を過ぎていた。

「素世さん。もう九時です。かえ………」

「隼人。私泊まる」

「えっ、………」

俺は大きなバッグの意味がやっと分かった。しかし、しかしだよ。寝るとこ一つだし。お布団無いし。まさか、同じベッド。いや、いやいやいや。それない。俺の理性が飛んでしまう。


「素世さん。急に泊まると言われても、ベッド一つだし、追加のお布団無いし。それに…」

「それに、なあに」

「分かりました。寝袋があるので、俺がベッドの下で寝ます。素世さんはベッド使って下さい」

「うんいいよ。ねえ、お風呂でシャワー浴びたい」

「わ、分かりました」


素世さんがお風呂に行った隙に、俺は寝室で…片付け、片付け。分かるよね。男だもの。

寝袋も出して。


「隼人、出たよ。あなたも入ったら」

寝室から戻ると、素世さんタオル一枚。流石にちょっと。なるべく彼女の方に目を向けない様にしながら


「お風呂入ってきます」

「ふふっ、どうしたの赤い顔して」

「いえ」


参ったなあ。と思いつつ、お風呂場のドアを開けると、うーっ、素世さんの香で充満していた。だめだ。理性君頑張って。君負けているよ。


なんとか、あそこもおとなしくさせてパジャマ姿で出てくると、素世さんもパジャマ姿になっていた。良かった。


二人分の冷たい飲み物を持ってリビングの小さなソファに二人で座る。

「素世さん。これ」

「ありがとう」

飲み物をテーブルに置いたまま、俺の顔をじっと見ている。近い。


「ねえ、隼人。君のアパートに女の子が泊まりに来たんだよ。ベッドだって一つしかないって知っていて来たんだよ」

「………」


「隼人。私、君の事が好き。初めて会った時から段々好きになった。私じゃダメかな。私じゃ君の彼女になれないかな」

「そ、そんなことないです。俺なんかで良いんですか」


返事の代わりに素世さんは目を閉じた。



………………。




目を開けた。いつもと違う天井が見える。あれって結構痛いものなんだな。違和感があるあそこを触ってみた。ちょっとヌルとしている。安全日を考えて来たから大丈夫だけど。

「あげちゃったんだ隼人に。ふふふっ、寝顔が可愛い」


おでこにキスをした。可愛い。

「うーん。うん。あっ。先輩」

「ぶぶーっ。素世でしょ」

「あっはい。素世さん」

「もう、素世って呼んで。隼人に初めてをあげたんだから」

「はい、素世」

「良く出来ました」


彼女の肌を直接感じる。二人とも何も着てないしな。

俺は彼女の唇に優しく口付けすると

「好きです。素世」

「はい。私も好きです。隼人」


もう一度、体を合せた。



―――――


あーあっ。しちゃったよ。隼人と素世さん。しかし素世さん、いつも計画的ですね。

この後どうなるんだろう。隼人の前には晴天か暗雲かはたまた大嵐か?

私も分からなくなりました。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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