第29話 アルバイトそして如月先輩


 塾の講師を始めてから二週間。今は休みなので一日二回週三日入れて貰っている。

如月先輩のサポートも特に教え方、生徒への接し方に問題が無いと言う事で

最初の三回で終わった。


来月からは、担当枠数を減らして貰う予定だ。二週目も最後の担当枠が終わって日次報告と言ってもその日の課題などが有れば書くだけだが、それを提出し終わった俺は、タイムカードを押して塾を出ようとすると後ろから声を掛けられた。


「立花君、終わったの」

「はい、今終わったばかりです」

「そう、私も今終わった。せっかくだからコーヒーでも飲んで行かない」

「いいですよ」


二人で近くの喫茶店に入る。塾講師になって以来、如月先輩とは話す機会がとても増えた。先週はほぼ毎日。もっとも講師サポートして貰っていたので、その指導内容の反省や改善点の話だけだが。


「講師慣れた?」

「まだまだです。生徒の前に立つと結構緊張します。始まってしまえばそうでもないのですが」

「それが普通よ。私も一年近くやっているけど最初の一ヶ月は緊張の連続だったわ」

「そうなんですか」

「ねえ、明日、明後日何か用事ある」

「明日明後日って、土日ですよね。特に無いですが」

「映画でも見に行かない」

「はっ?僕と映画ですか」

「他に誰が居るの」

「…まあ、構わないですけど。俺なんかで良いんですか。如月先輩綺麗だから友達とか彼とかいると思っていたんですけど」

何を言っているんだ、こいつ。


「普通に話す友達はいるけど彼はいないわ」

「そうなんですか。意外だな」

「意外?」

「だって、如月さん、綺麗だし、明るいし、話していて楽しいし。同じ学部の人でなくても言い寄る人多いんじゃないんですか」

うーっ、こいつ。それだけで十分だってーの。それ以上言うな。


「そっ、そう見えるんだ。ふーん。確かに告白された人は何人かいるけど、皆断ったわ」

「そうなんですか」

「君、そうなんですかばかりだね」

「…すみません」

「ところで返事は、明日か明後日」

「明日で良いですよ」

「良かった。ちなみに明後日も空いている」

「え、ええ」

どういう意味だろう。

「じゃあ、明日私のマンションのある駅に十時で良いかな」

「はい」


如月先輩が腕時計を見た。結構高そう。

「ねえ、今日夕飯一緒に食べない」

「はっ。い、いや。………いいですけど」

「どっちなの」

「大丈夫です」

「私が夕飯作ってあげる。こう見えても少しは作れるのよ」




その後、喫茶店を出た俺達は、如月先輩のマンションの最寄りの駅で降りてスーパーに寄った。


「何食べたい」

「任せます」

「何か言いなさい」

「では鶏ももの甘辛煮」

「分かった」

先輩抵抗なくOKしてくれた。つい柏木さんの時と同じものをお願いしてしまったけどいいか。


先輩のマンションには何度も来たけど、夕飯をご馳走になるのは始めてだ。少し緊張する。


「先輩、何か手伝う事ありませんか」

「そうね。テーブル拭いてくれる。それからランチョンマット引いてから箸置きとお箸を置いて。それだけでいいわ。後はリビングでテレビでも見ていて」

「はい」

食器二人分あるのだろうかと思いつつ食器棚に行くとしっかりと二人分あった。お客様用か。言われた通りにしてからリビングのソファに座った。


ちらりと先輩を見るとエプロン姿が良く似合っていた。長い髪の毛をアップで止めている。良い奥さんになるんだろうな。どんな人が夫になるんだろう。先輩医者になるんだろうから、やっぱり医者かな。



「立花君。私のエプロン姿気に入ったの」

「えっ」

「だって、ずっと見ているじゃない」

「いや、あの。その通りです。とても似合っているなあと思って」

「ついでに私の未来の夫は誰かなとか思っていたでしょ」

「………」

この人読心術でも持っているのかな。夫になる人大変だ。


「立花君。君でもいいよ」

「えっ………」

下を向いてしまった。顔が熱い。ちらりと見ると先輩も顔を赤くして手が止まっている。



「あははっ、冗談よ」

「な、なんだ。驚いたじゃないですか」

「あっ、このサラダ持って行って」

「はい」


彩の綺麗な大きな皿にルッコラの葉とトマト、モッツアレラチーズを挟んで盛り付けられている。上手だな。

俺がお願いした鶏ももの甘辛煮も大皿に盛りつけられている。後は、鱈のトマトスープ煮だ。超豪華。

 真っ白なご飯が湯気をたてている。美味しそう。


「どうぞ召し上がれ」

「はい。頂きます」


先輩は、何故か缶ビールを先に飲んでいる。

「先輩はいつもビールを飲むんですか」

「いつもじゃないけど。偶にはね。立花君なら安心だし」

「………」

「はい、食べて」


一通り食べるとさすがにお腹がいっぱいになった。少しして先輩が食器を片付け始めたので

「俺も手伝います」

「ありがとう。食器下げて」

「はい」

「俺が洗いますよ」

「いいわ。食器少ないから。リビングでテレビでも見ていて」

「すみません」


食器を洗い終わった先輩がコーヒーカップを二つ持ってリビングに来た。俺の隣に座る。


「一人で食べるより楽しいわ。立花君。偶には私と一緒に夕飯食べてくれると嬉しいな」

「俺なんかで良かったら」

「ありがとう。それと二学期もサークルの時はお願いね。立花君だけが頼りだから」

「はぁ」

「十月からの授業計画は出来ているの」

「いえまだ、十月入ったらすぐに登録しないといけないのですが、中々面倒です。前期は初めてだったので、大変でした」

「ふふっ、皆そうよ。でも慣れないとね」

話の流れで授業計画教えてくれるのかと思ったら突き放された。まあ、これは当たり前か。俺自身の事だからな。


俺がテレビを見ていたら肩に重さが掛かって来た。先輩が寝てしまったようだ。ちらりと横目で見ると胸元から淡い青色のブラが丸見えだ。

上半分位までが見えている。胸元の緩いTシャツを着ている所為だ。しっかりと見てしまった。結構大きい。何となく洋服の上から小さくは無いと思っていたけど。

唇は赤く吸い込まれそうだ。髪の毛が顔に少しかかっている。更に足に目線を下げると素足が膝上のスカートから綺麗に伸びている。

不味い。不味い。感情と理性が話し合いをしている。感情やや優勢。

色即是空、色即是空………。


必死テレビを見ているとやっとドラマが終わった。もう九時。俺は先輩にそのままの姿勢で

「如月先輩。起きて下さい。もう九時です。帰ります」

「う、うーん」

先輩が腕を伸ばしてあくびをした。


「あっ、ごめん寝ちゃったね。肩重くなかった」

「いえ。全然」


肩から頭を離した先輩が立ち上がるのと同時に俺も立ち上がってリビングに置いてある、塾の資料が入っているバッグを肩にかけた。



「それでは帰ります。明日駅に十時ですね」

「うん。楽しみにしている」




立花君をマンションの入り口まで送った。彼の後姿を見ながら

あの時、キス位しても良かったのに………。少しは効果有ったかな。まあ急ぐ必要はないか。


―――――


如月素世さん。やっぱり計画的でしたか。

隼人、明日と明後日は如月さんと一緒だよ。どうなるかな。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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