第27話 夏休みだ その2


俺は、実家に戻ると何故か、親戚の女の子まで来ていた。何故なのか理由は分からない。


「母さんただいま」

「お帰り隼人。また大きくなった」

「うん少し」


家の天井から降りている縁をかがんでよけながら家に入って、自分の部屋に行った。ドアを開けると風通しをしてくれていたのか。湿気感がない。そして何も変わってなかった。

スポーツバッグを床に置いて机の前にある椅子に座ると

「ふーっ、あっという間だったな」


 少しだけ休むと一階に降りた。なぜかリビングに人がいっぱいいる。

「皆いるけど、今日何かあるの」

「何言っているの。皆隼人に会いに来たんだよ。我が家系始まって以来の秀才に」

「はっ?ソ、ソウナンデスカ」

「ささ、ここに座って。話を聞かせてくれ」



「隼人、背が伸びたね。いくつあるの」

「どうやったらあの大学に入れるのか」

「ねえ、勉強見てくれないかな」

「東京に行ったら一緒に暮らせる」

「彼女はいるの」

「………。順番に。一度に聞かれても答えられないよ」



何とかしてよと父さんと母さんを見るとこんな状況を見てニコニコしているばかり。

結局帰って来てから一時間半、質問攻めに会ってしまった。

一通り聞き終わると夕飯の時刻が近くなったのか、親戚の人達が帰って行った。


「疲れた。どうしたの。あれ」

「いやあな。隼人が帰って来ると言ったら、会いたいと言う事になってな。そしたらさっきの様になってしまった」

「そうなんだ」


実家に帰れば静かな時間を過ごせると思っていた俺の予定は、早くも初日で崩れ去った。明日は、ゆっくりしよう。zzz…。



昨日は帰省時間と実家に帰ってからの質問攻めで神経を減らした俺は、ぐっすり寝込んだみたいだ。机の上に置いてあったスマホを見るともう九時半。

「そろそろ起きるか」

思い切り背伸びをすると足がベッドをはみ出した。


一階に降りると両親は朝食を食べ終わったみたいで、テレビを見ていた。

「起こしてくれても良かったのに」

「ぐっすり寝ているみたいだったからな。まあ実家に帰った時位、ゴロゴロすればいいさ」

「ありがとう、父さん」


俺は遅い朝食を取ると何気なしにサンダルを履いて外に出た。やっぱり東京より空気は綺麗な感じがする。

久々に歩いてみるか。何気なしに穂香の家の方へ歩いて行った。


穂香の実家が見えて来た。外から見ると大きな家だ。作業場が敷地内にあるからだろう。

入り口まで着くと何気なしに中を見た。穂香と夫の家はそのままだった。


 なにも変っているはずがないか。何となく少し寂しさを感じながら引き返そうとすると

「立花さんかい」


振返ると穂香のお父さんが、声を掛けてくれたようだ。付き合っている時は何度も会っているので顔は覚えている。まだ三年しか経っていないのに大分老けた感じがした。


「穂香を訪ねて来てくれたのか」

「えっ、まあ、元気かなと思って」

「そうかい、そうかい。嬉しいな。でも悪いね。穂香今仕事の用事で出てるんだ」

「そうですか。戻ったら宜しく伝えて置いて下さい」

「ああ、分かった。来ても貰ったのに悪かったね」

「いえ、それでは失礼します」


人妻だものな。会いに来る方がおかしいか。

帰り道を歩いて十分も経たないうちに、後ろから俺を追い抜いたと思ったらすぐに脇道に軽四輪が止まった。ドアが開くと

「立花君」

三月に会ってから約五か月経ったが、あの時よりすっきりした顔をしている。


「穂香、元気だったか」

「うん」

俺の方に寄って来るといきなり抱き着いた。

「穂香」

「少しだけこうさせて」

俺の背中に手を回して胸に顔を押し当てて来る。穂香の大きな胸もしっかりと当たって来る。ちょっと理性と感情が交渉中。


少ししてから穂香は離れると

「私ね。離婚したんだ。だからこうしてもいいの」

「離婚?」

「夫の父が五月に急性クモ膜下出血で突然亡くなって、跡継ぎ問題で会社の中が散々だったの。でも誰も夫には声を掛けなかった。相手にされていなかったのね。

 結局、事業分割で今も大騒ぎよ。そんな状況だからお父さんの仕事への援助も無くなって。

そうしたら、お父さん。夫に『家を追い出されたバカ息子の会社の援助もなくなった。居られても迷惑だ。娘とは離婚して貰う』そう言って、強引に夫に迫ったの。

 もちろん夫は抵抗したわ。でも弁護士を立てて、仕事もせずに酒と女に遊んでいた夫が勝てるはずもなく、浮気の慰謝料とかの話になったけど、離婚するならお金は要求しないと言ったら簡単に離婚は成立よ。今月から私フリーだよ。隼人」

 もう一度抱き着いて来た。


「良かったな」

「うん、でも隼人にお嫁にしてとは言わないから。あんな別れ方をした女が言える言葉じゃないからね。当分一人でいる。お父さんの仕事も手伝わないといけないし」


「……そうか。頑張れよ。心の中で応援しているから」

「家まで送ろうか。軽四輪だけど」

「気持ちだけでいいよ。もう少しのんびり歩きたいから」

「そっか。じゃあね隼人」


穂香は、軽四輪に乗ると笑顔を見せながら帰って行った。


「穂香、離婚したのか」

独り言を呟くとまた元来た道を歩きだした。このまま行けばあいつの家の前を通る。どうする。あの時の二の舞はしたくない。立ち止まらなければいいんだ。


星世の家が見えて来た。少し早足になる。そのまま通ればいいものをつい星世の部屋の窓を見てしまった。

 だれもいない。良かった。俺はそのまま。通り過ぎた。



机にある塾の問題集を解いていた時、何気なく窓の外を見た。

えっ、隼人。下からはカーテンが遮ってこちらは見えないけどこちらからは見える。

隼人の姿をじっと見てしまった。その時部屋のドアが開いた。


「星世。何見ているの。今、見るのは彼じゃないわ。塾の問題集よ」

「はい、お姉様」


 立花君に星世は近寄らせない。あの馬鹿男は死んだけど、だからって隼人の側に戻れるなんて思って貰っては困るのよ。




―――――


穂香、つらい時期は終わったけど、これからだね。頑張って。

星世、素世お姉さんの言う通りだと私も思います。



次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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