第23話 接近する隣人


少し慣れて来た大学の駅からアパートの有る駅まで乗って来た電車を降りて改札を出た。夕飯をどうするか思っていると冷蔵庫がだいぶ空いていることに気が付いた。


 スーパーに寄って帰るか。駅とアパートの間にスーパーが有るのは助かる。買うものはインスタント系だけ。昼の学食は安いからいいが、夕飯を外食は高くつく。簡単に済ませられるし、電子レンジでチンすればそれなりの物が食べれる。

 そんな事を思いながらスーパーの入り口で買い物かごを取って中に入ると


「立花君」

「………」

最近会わないからと油断していた女性(人)から声を掛けられた。


「柏木さん」

「今大学から帰って来たの。これから買い物」

「ええ。そうです」

「私も同じ」


そう言って柏木さんは、俺の隣に寄って来た。

「一緒に買い物しようか」

「えっ、いやでも。俺電子レンジでチンするか、お湯を掛けて食べれる物だけだから。柏木さんは料理できるんでしょ。行く所違うし」

「良いじゃない。私のパートは、私が買い物。君のパートのところは君と私が買い物。一緒だよ」

「は、はい」

「それに偶にはお魚やお肉、野菜は生から調理したものを食べた方が心にゆとりが生まれるって聞いたわ。立花君は、自分で調理とかするの」

「今、話した通りです」

「ねえ、私が作ってあげようか」

「へっ、いやいや。そんな事頼める訳無いじゃないですか。勘弁してください」

「なんで。同じアパートよ。作ったらすぐに君の部屋に持って行けばいいし、もし良かったら君の部屋で作ってあげても良いよ」

「いや、それは………。さすがに」

「そうね。急は無理だから。じゃあ、今日だけでも作ってあげようか。もちろん私の部屋で作った物を君の部屋に持って行ってあげる」

「はあ~。有難いですけど。良いんですか」

「なに言っているの。私がしたいと言っているんだから」

「………」



 結局、今日買った食材は、俺と柏木さんの分といつも購入しているインスタント食品。少し高くついたが仕方ない。



ピンポーン。

「立花君出来たよ」

玄関の監視カメラを見るとお鍋とタッパそれに何故かお茶碗、お皿が入ったバスケット。


ガチャ。ドアを開けてお鍋を受け取る。

「ありがとうございます。食べた後、洗ったら返します」

「何言っているの。それだけじゃないよ。こっちもね」

そう言ってタッパを見せた。

「入っちゃダメかな」

うっ、上目使いで俺の顔を見て来る。


「わ、分かりました」

部屋に上がった柏木さんは、テーブルにタッパとバスケットを置くとバスケットからお皿やお茶碗を出し始めた。


「えっ、それって」

「うん、せっかくだから一緒に食べようかなと思って。私も一人暮らしだから、偶には誰かと一緒に食べたいなと思って」

「………」



「あ、ごめん。いきなりだったよね。やっぱり駄目だったかな」

悲しそうな顔をしてバスケットから取り出した食器を元に戻そうとする。


「……。いいですよ。一緒に食べましょう」

「えっ、良いの」

「はい」



あんな顔されて帰れなんて言えない。柏木さんの気持ちも分かる。俺も一人の時、寂しいと思う時もある。女の子一人じゃ、余計そう思う時もあるのだろう。


「じゃあ、俺の食器もそっちに出します」

「うん」


柏木さんが急に明るい顔になって、テーブルに持ってきたものを並べ始めた。

一通りテーブルに並ぶとそれなりに雰囲気がある。お肉多めの肉野菜、クレソンとトマトを合せたサラダ、箸置き代わりの柴漬け、焼きししゃも。それと白いご飯。


「ごめんね。スープはインスタント」

「いいえ、凄いです。久々だな。こんな豪華な夕飯」

「えっ、そうでもないよ」

「頂きましょうか」


美味しそうな料理を目の前にしてさすがにお腹が空いた。

「「頂きまーす」」


柏木さんが作ってくれた料理はとても美味しかった。それとこちらに来てから初めて人と会話しながら食べる食事は、とても楽しかった。


二人で食べ終わると

「インスタントコーヒーなら入れられますが。コップは適当なんですけど」

「ありがとう」


「大学慣れました」

「うーん。ボチボチです。授業受けるだけで精一杯って感じですね」

「そうか。私も同じかな。高校の時の様な訳には行かないね。当たり前か。隣に座る子も早々話しかけられないし」

「そうですね。それは同感です」



食器を流しに片付け洗おうとすると

「いいよ。私がやるから」

「それは出来ないです。作って貰ったから俺が洗います」

「じゃあ、二人でやろうか。ここは私の部屋と違ってキッチン広いし」


結局、二人で洗いサッと拭いた。

「じゃあ、これで帰るね。あっ、出来たら連絡先交換できない。また夕飯一緒に食べれるかもしれないし」

まいったなあ。今日は女難の日なのか。如月先輩からも聞かれたし………。


「あっ、ごめんね。無理だよね。ちょっと一緒に夕飯食べたからって、調子に乗っちゃった」

寂しそうな顔をしてスマホをポケットに仕舞おうとしている。まいったなあ。あまり関係したくないのだけど。仕方ないかな。


「良いですよ。連絡先交換しましょう」

「ほんと」

パッと花が開いたように笑顔になると一度しまったスマホをポケットから取り出した。



「じゃあ、帰ります」

明るい顔で言う柏木さんに

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

「今度またね」

「はい」

「えっ、いいの」

「あ、はい」

「やったー」

何をやったのだろうか。そのまま、笑顔で柏木さんは帰って行った。また、部屋番号聞くの忘れた。


 ふふふっ、やったね。柏木君の部屋で私の手料理。これからも一緒にいいと言ってくれた。連絡先もう交換できたし。大きな進歩。まずは胃袋掴むところから。



―――――


押しに弱い隼人。早くも如月先輩と柏木さんからの一次攻勢に陥落。

隼人、初心忘れるべからずです。

でも、どうなるのかな。二人との関係。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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