第18話 変った日常


 一週間ぶりに登校した。地元の駅では星世とも穂香とも会わない様に早い時間の電車に乗った。

 登校して直ぐに担任の先生の所に行き、一週間の欠席を謝ったが、まだ二年生の一学期十分挽回できるから頑張るように言われた。父親からも何か言われているのだろうか。


 クラスに戻ると、クラスメイトが寄って来て色々聞いて来たが、適当に流した。穂香は何か言いたそうな顔をしていたが無視をした。


 連休明けから俺は予備校に行く事にした。高校のある駅から更に四つ先の街にある予備校だ。そこの街はこの辺では大きく予備校も一杯有った。その中でもレベルトップの予備校だ。

俺のレベルではちょっときつかったが、集中すれば色々な事が忘れられる。


 一学期の中間と期末は、今まで通りの成績だった。張り出された五十位までの順位では十五位まずまずだ。だが、二十位前後に居たはずの穂香の名前は無かった。


 俺の成績が変わったのは夏休み明けからだ。夏季集中特訓とかも受けた。もちろんその前後も勉強だけに集中した。


 気晴らしに一人でプールに行ったり、夏祭りも少しだけ覗く程度に行ったが、気晴らしにはなった。


 学校の教科書は二学期の中ほどで予習は終わってしまったので、問題集を集中して行っている。

偶に本屋でクラスメイトと会うと帰りに少し話もするようになった。星世や穂香と付き合っていた時から比べると大きな違いだ。


 二学期末の成績は学年一位。全国模試でも五十位に入った。驚いたのはクラスメイトや先生だった。


「頑張ったな。立花」

「凄いな立花。いつの間にか軽く抜かれたよ」

「私も、気が付いたら抜かれていたわ」

「全国模試五十位ですってね。凄いじゃない立花君」


「皆、ありがとう。でも気を抜いたらすぐに落ちてしまうから、皆に追いついて行くのが精一杯だよ」

「うわーっ、余裕の一言」

「立花。これからは思い切りライバル視するからな。もちろん勉強でな。でも偶には話もしようぜ。学校来てから誰ともほとんど話してなかったんじゃないのか」

「そうだな。ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」


それからも気を抜くことは無かった。クラスメイトはほとんど眼中にない。全国模試で上位に入る事、それが目標だ。


三年生になっても勉強以外は、本を読むかビデオで好きな映画を見る位で碌な運動もしなかったせいか。ちょっと体が硬い感じがした。



 国立トップの大学の合否判定はA。何とかいけそうだ。もう夏休み終わりだ。このまま一気に行けば問題ない。

 学年一位は当たり前で、全国模試でも二十位まで上がった。穂香の名前が学年試験結果に載ることは無かった。



周りの俺を見る周りの目が変わって来た。特に女の子の。


「星世。大北高校に行った友達から聞いたんだけどさ。立花君、全国模試で二十位ですって。うちの先生たちが母校の威信にかかわるとか言って成績上位の子にはっぱかけているらしいわよ」

「全国模試二十位」

「まあ、星世は、高田君だけだからもう成績も興味ないかもしれないけど。私、立花君にアタックしようかな。彼は必ず国立トップの大学を狙う。私もまだB判定の合格圏内だからね」

「美緒………」

「星世が選んだ道だから仕方ないんじゃない。でも今の成績じゃ、私立二流でしょ。クラスはあいつと同じCクラスだから良いのだろうけどさ。

 でも私がっかり。星世は立花君を選ぶと思っていた。まさかあいつを選ぶとはね。まあ仲良くね。あっ、私予備校が有るから。じゃあね」


 隼人と別れてから私は坂を転げ落ちる様に成績が下がった。理由はあいつの遊びに付き合わされたからだ。断ることが出来なかった。もう写真の事なんて関係なかった。隼人に振られた。違う振ったことが原因。


 最近はお姉さんもまともに口を聞いてくれない。高田君のうわさは良くない。生徒会役員の妹がそんな人間と付き合っているという事と、成績がガタ落ちしていることが原因。最近は私を蔑む様な目で見る時もある。


 隼人は通学時間を変えているのか、もう二年の一学期から姿も見なくなった。今年の夏祭りの時、一人で歩いている後ろ姿を見た。その時私は高田と一緒だった。

美緒の後姿を見ながら自分で捨てた道が遠くに感じた。


帰りの電車に乗った時、吊革に立っている女の子たちが、話していた。


「ねえ、聞いた。Aクラスのミスターイケメン。全国模試で二十位だって」

「えっ二十位。凄すぎる。全国模試なんて受ける気もしないのに」

「立花君って。背が高くて、イケメンで、友達にとても優しいって噂のあの男の子。勉強も超優秀か。弱点無いじゃん」

「そう、今この辺の高校の女子達のターゲットNoワンよ。でも高値の花過ぎて遠いの」

「頑張れば。チャンスはみんなに平等よ。彼女になれば明るい未来が約束されるわ」

「そうね。今度声を掛けて見よ」


 隼人。その一番近くに居たのが私だったのに。女の子達の話声に耳を塞いでしまった。




 今日も午前中の授業はつまらなかった。既に何回も予習復習をし終わっている。でも聞いていないと内申点低くなるからな。

 

キンコーンカンコーン


さて、購買にでも行くか。


「立花君」

クラスメイトの女の子が話しかけて来た。


「うん、何」

「これ、作って来たの。食べて貰えないかな。腕には少し自信あるんだ」

「えっ、でも」

「いいの。立花君の為に朝から一生懸命作ったんだ」


「あっ、ずるい。立花君。だったら私のお弁当も一緒に食べて」

「それないよ」

「良いじゃない」

「「「じゃあ、私のも」」」


 俺こういう状況苦手。こんな時、穂香が居れば。………忘れよう。もう人の奥さんだ。

結局、作ってくれたお弁当と分けてくれたお弁当でお腹がいっぱいになってしまった。



三学期になると授業も中抜けで学校へは出席日数の為に最低限登校した。


「お母さん行って来るね」

「頑張って。お姉ちゃんには言ってあるから」

「わかっている」

俺は受験の為東京に行く。お姉ちゃんが既に東京暮らしをしていて二日だけ泊まることにしていた。


慣れない場所での試験はとても緊張したが、試験自体は、難しいとは感じなかった。既に過去問やハイレベルの演習問題でこなしていた問題ばかりだった。


 もちろん合格。それも入試成績順位五位で。俺も喜んだが、驚いたのは、高校の先生たちだった。

 学校創立以来、初めて国内トップの大学東都大学に合格。それも五位という結果で。

 実言うと結果は、発表当日の朝一番の速達で来てしまうのだが、あのテレビにも出る雰囲気を楽しみたくて発表会場に行って見た。

 テレビ以上の賑わいだった。


「立花君」

後ろから声を掛けられた。

「柏木さん」

「ふふっ、やっぱりここを受験したのね。良かったここを受験して」

「柏木さんも」

「もちろんよ。その顔だともう合格は分かっているんでしょ。こんな所に居るより喫茶店にでも行こうよ。つもり過ぎた話もあるし」

「…柏木さんもここ」

「当たり前でしょ。このレベルを合格できなかったら、これからどうするのよ。さっ、行きましょ」

「………。星世は」

「ああ、あの子。どこかの二流大学にでも行ったんじゃない。馬鹿な子よね。立花君を振るなんて。そんな話は良いわ」



いきなり腕を取られた。


―――――


あらら、まさかの柏木美穂との再会。

星世との別れ、そして穂香との別れを経験した隼人は、そのエネルギーを勉強に集中してついに国内トップ大学に入学出来ました。

前半はここまでです。いかがでしたでしょうか。


さて、次回からはいよいよ後半になります。

隼人をめぐり絡み合う人間模様を描きます。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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