(4)
『―でも、原口夢果チャン、大変やね』
突然、フジワラモエコが言った。
『アイツらとちょっと関わっただけで、変な噂流されて…。
相当広まってるから、嫉妬してる女も多そうやしな』
スズキマリノが反応した。
『絶対、多いってもんじゃないでしょ。
アイツら、”イケヤン”とかって言われて、もてはやされてるんだから。
あー、怖ーい、女の嫉妬!』
『あんた、女たちから半端なく嫌われてるもんね』
『そうそう、だから女の怖さは誰より知っ…て、うるさいわね!
あんただって嫌われてるくせに』
『まあ、あんたとは違う理由でねー』
そう言うヤマグチノゾミは、イジメを受けた経験があるのだろうか。
あたしをじっと見下ろして、こんな爆弾発言をしてきた。
『もしや、嫉妬されてイジメられてんじゃないの?』
…!?
特別科の女たちが、一斉にあたしを注目した。
あたしは驚いて、肩に掛けていたカバンをずり落としてしまった。
『…そうなの?』
スズキマリノとフジワラモエコが、険しい表情で尋ねてきた。
『…あ、いや、』
何と答えようか考えた結果、ひとまず頭を下げることにした。
『あの…信じてくださって、ありがとうございます』
急ですが。
この女たちは、初対面の普通子(あたし)の言うことを信じてくれた。
これは、そのお礼だったのだけど……誰も何も返してはこなかった。
誤魔化そうとしたのがバレたかな。
『いや、ちげーよ』
沈黙を破ってツッコんできたのは、ヤマグチノゾミだった。
『うちらが求めてんのは、お礼じゃなくて答え。
イジメられてんの、イジメられてないの、どっち?』
いや、ドストレートすぎないか。
そんな風に聞かれたら、答えられるもんも答えられないわ。
と思っていると、スズキマリノがヤマグチノゾミを肘で突いた。
『あんた、それじゃ、ただ脅してるだけみたいでしょ!
心配してるんだったら、もうちょい優しく言ってやりな』
『うるさいなぁ、お母さん!』
『あんたの母親になった覚えはない!まったく、ふざけないでよ』
スズキマリノとヤマグチノゾミは、やっぱり仲良しのようです。
それが分かったところで――
『上靴履いてないのは、ただ単に忘れたから?』
フジワラモエコが尋ねてきた。
この人、やたら上靴のことを気にするな…。
ギャルや女ヤンキーたちから見ても、
学校内を靴下で歩いている生徒の姿は異常なのだろうか。
そんなことを思いながら、あたしは首を傾げた。
『…それは、どういう反応?』
『えっと、……失くしたんです』
『上靴を?』
『…はい』
本当は、あたし、そこまでの間抜けじゃないはずだけど。
まあ、”失くした”というのは嘘にはならないだろうから。
『さすが、ボケメガネ』
ハシモトアイランが急に入ってきた。
『イジメられて、かわいそうに』
『……』
このチビ、どうにかして捻り潰せないかな?
とか考えていると、やはり…
『おい、今、”このチビ”って思っただろ。
二度と思考が回らないようにしてや…ぐへっ!』
デジャヴ。
しかし、違ったのは、ムラオカツバキがハシモトアイランを殴った点だ。
『いってー…お前、鍛えすぎなんだよ、ツバキ!』
ハシモトアイランが怒鳴ると、ムラオカツバキは真顔で言った。
『ただでさえイジメられて可哀想な子を、そうやって脅しちゃダメでしょ。
原口夢果チャン、あんた、周りからスゴイ目で見られてるよ』
あたし、もうイジメられてることになってる?
これじゃ、誤魔化した意味!
ということは、一旦置いといて…。
あたしは一通り、周囲を見渡してみた。
『……』
ぎ、ぎゃあああ―――!!!
心の中で絶叫した。
なぜなら…、知らぬ間にたくさんの視線を浴びていたから。
原因は絶対、この女たち(特別科ガールズ)。
すでにイケヤンとのことで恨みを買っているあのメガネが、
今度は特別科ガールズと話をしている…!
そういう心の声を、あちこちから肌で感じた。
――ああああ、またやらかした。
これは、もう、おしまいですね。
人生終了へのカウントダウンが始まった…!!
『あの目には、憎しみと恨みがこもっている』
ムラオカツバキが言いだした。
『単純に、わしたちといるからじゃない…。
原口夢果チャン自体が、あいつらから恨まれているんだ』
もうちょっと、オブラートに包んでくれない…?
まあ、当たっているんだけどさ。
『やっぱイジメられてんだ、ボケメガネちゃん』
ハシモトアイラン……”ちゃん”を付ければ良いってことじゃないよ。
この勘違いおチビの隣で、ムラオカツバキは神妙な面持ち。
『オブラートに包みなよ、アイラン』
君もね!
本能でツッコんでいると、フジワラモエコが悲しげな表情でこう呟いた。
『アタイたちの嫌われ方、尋常やないからね…そのせいかもよ』
うーん、と首を捻るスズキマリノとヤマグチノゾミ。
彼女たちの様子を見て、あたしは感じた。
――特別科の女たちも、本当は今の状況に納得がいっていないのかも。
有名な分、嫌われているということに、傷ついてもいるのかもしれない。
こうして実際に接してみると、案外、悪くない人たちのようだから…
ちょっと可哀想な気もした。
けれど、もちろん…
あたしには他人に同情していられる余裕など無いし、
イケヤンの時と同様、特別科の女たちを信じたというわけでもなかった。
ただ、少し…イメージよりは悪くないと思っただけ。
そう、それだけだったんだ。
『……』
特別科の女たちが、全員で、じっとあたしを見てきた。
あたしは、その視線に圧倒されたけど……
決してバカにされているとか、嘲笑われているような感覚は無かった。
『…もし、』
スズキマリノが口を開いた。
『敬悟と来登の件とかで嫉妬されてるんなら、アイツらに言おうか?
アイツらなら、きっと何かしら対処してくれるはずだけど』
あたしは迷わず、首を横に振った。
『だ、大丈夫です!
気遣ってくださって、本当にありがとうございます…!』
イケヤンのせいでイジメに遭っているんだから、相談なんかするわけない。
それに、あたし、イケヤンとは縁を切ったんだからね…お忘れなく!
ただ――
『ほんとに大丈夫?』
特別科の女たちに、こんな思いやりがあったとは想像もしていなかった…。
特別科ガールズの良さを知れたこと、それが唯一の収穫だ。
まあ、悪いことだけではなかったかもね!
『大丈夫です』
あたしは答え、カバンを肩に掛け直した。
『それじゃあ…すみませんが、もう戻ります。ありがとうございました』
三年八組の教室の方を向いた途端、手首を掴まれた。
フジワラモエコだった。
『お節介かもしれないけど…何かあったら、言いに来な。
マリノとノゾミとアイランは隣のクラスだし、
アタイたちみんな、困ってる女子を守る主義だから』
…困ってる女子を守る主義?
何それ、ちょっとカッコイイ。
と思ったけれど。
『本当に大丈夫です。それでは』
これ以上、問題を大きくしたくないという一心で、
特別科の女たちに対し、塩対応(!)。
ヤマグチノゾミやハシモトアイランの声が聞こえた気もしたけれど、
決して振り返らなかった。
そうして、あたしは、教室という名の地獄に突入していった――。
あの良くも悪くも有名な、特別科の女たちと初めて話をした!
しかも、いざ話してみたら、意外と悪くない人たちだった!
そんな余韻に浸っていられるほど、あたしの学校生活は平穏じゃなかった。
正確には、平穏じゃなくなった。
少し前までは、孤独ではあったものの、穏やかに生活できていたのに…。
あの頃が、遠い昔のように思えた。
特別科ガールズと話をした直後、
あたしは自分が新たな嫉妬の目を向けられているということに気が付いた。
これまで、あたしを睨んでいる者の多くは女子だった。
けれど、ついに、男子たちからも睨まれるようになったのである。
おそらく、その男子たちは、特別科ガールズのファンで……
どうやら新たな妬みを買ってしまったようだった(!!)。
イケヤンと同様、特別科ガールズも、
一般生徒たちには「なかなか関われない人たち」だから。
それは分かるんだけど…男子どもまで、あたしに嫉妬することなくない??
なんというか、いろいろと絶望的。
でも、まあ、あたしに直接何かをしてくるのは魔女たちだけだ。
もしかすると、靴箱の嫌がらせなどは他に協力者がいるのかもしれないけど…
少なくとも直接手を出してくるのは、あの二人だけだった。
…あ、もちろん、中谷美蝶を除いてだけど。
残り少ない高校生活でイジメてやろうなんて、
あの魔女たち以外は考えないってことだ。
『―みんないい、”明日は我が身”だからね』
ホームルーム中、林田先生が言った。
明日は我が身…先生がよく言う言葉だ。
他人に起きた悪いことが、いつ自分に降りかかってくるか分からない…
そういう意味らしいけど。
ちゃんと聞いてるか、魔女たち!
あたしをあんまりイジメてたら、アンタたちも同じような目に遭うかもよ。
いや、ぜひ遭ってほしいものだね!
そしたら、この苦しみが少しは分かるだろうに。
よほど教育に良くない顔をしていたのか、林田先生から声を掛けられた。
『大丈夫?原口さん』
『あ、はい』
『ちょっと話があるから、ホームルーム終わったらおいで』
…マジか。
何の話だろう?
嫌々ながら、ホームルーム終了後、教卓の方へ向かった。
『校内を靴下でウロウロするの、やめてくれる?』
『ウロウロなんかしてません。スリッパを借りに行くのが面倒で…』
『原口さんって、けっこうズボラだよね。しっかりしてよ、女子でしょ』
『それを言うために、呼び出したんですか?』
去年からの、いつも通りのやり取りだった。
地味子にも容赦なくズケズケ言ってくる、林田先生。
この人、教師としてどうかと思うよね…そう思っていると。
『こんな中途半端な時期に持って帰っちゃったの?
そうじゃなきゃ、忘れたりしないよね』
いきなりの尋問。
その瞬間、ピンときた。
林田先生はきっと、あたしがイジメられていることに勘付いている。
想像以上のスピーディーさだった。
『顔色も健康的といえないし……最近、何かあったんじゃない?』
『何か…?』
『実は、応援団員決めの時から怪しいと思ってたんだよ。
まさか、桐島さんと岡本さんが、原口さんを誘うとは思わなくてね。
それに原口さん、本当はなりたくなかったでしょ』
『そ、それは…』
『別に、原口さんには出来ないだろうとか、そういうことじゃないよ。
ただ、かなり不自然に見えたから』
林田先生の目は鋭く、あたしの口から事実を聞き出そうとしていた。
けれど、あたしはまだ何も答えなかった。
今、ここで相談すべきなのか…迷っていたからだ。
『体育祭の応援団は、かなりキツイよ。
原口さんみたいな、体育の授業で怪我するようなタイプには特にね。
大怪我するかもしれないし、熱中症でやられるかもしれないし、
誰かに気付かれずに踏み潰される可能性だってある』
『脅しすぎじゃないですか。あと、サラッと馬鹿にしてますよね』
『原口さんのツッコミはキレがあって面白いんだけどさ、
今はちょっと真剣に話し合おう。
もし無理そうなら、今からでも辞めて大丈夫だけど…どうする?』
『え』
『あと、俺に何か相談することはない?
言ってくれれば、それなりに対応するつもりだけど』
…本当に?
と、心の中で尋ねた。
あなただって、この高校の教師の一人にすぎない。
この高校の教師たちのせいで、ママと進真は病んでしまったんだ。
それでも、信じろって?
この高校は、イジメの問題を悪化させた上、
うちのママの相談を無視し、進真を見捨てたのに。
進真は、散々傷ついて、退学することになるんだよ!
誰も何もしてやれなかったんだ、あの子のために…。
『原口さん?』
でも、林田先生は、こんなに早い段階で話を聞こうとしてくれている。
これが、きっとマトモなんだ…と思った。
可哀想に――、進真は運が最悪に悪かったんだ。
あたしが知っていることを話したら、林田先生はどんな反応をするだろうか。
有り得ないと非難する?
そんなものなんだと、あたしを説得しようとする?
林田先生は、この高校の教師たちの中でベテランの方なんだから、
学校の汚い部分に目を背けてきたんじゃないだろうか。
そうじゃないと、こんなにずっとはいられないはず。
…信じてみようという思いが、不信感と疑惑に覆いかぶされた。
そして、あたしは答えた。
『何も、特に無いです。相談すること』
林田先生の一歩間違えるとヒラメみたいな顔は、
少し残念そうな表情を浮かべているように見えた。
『…そう。じゃあ、応援団員の件は?』
辞めれるものなら、辞めてしまいたかった。
どう考えても、あたしには無理な役目だし、やろうと思ったことすらなかったから。
けれど、最終的にやると言ったのはあたし自身で、
今になって辞めたりしたらクラスメートたちの反感を買うことになるだろう。
もちろん、あの魔女たちも黙っちゃいないはず。
頭の中でぐるぐると思考を巡らせていると、
突然、ある人物がこちらに近寄ってきた。
『は、原口さん…』
松木さくらだった。
その急な登場に、あたしも林田先生も驚いた……
なぜ、このタイミングで話しかけてくる?
『……』
て、何も言わないんかい。
林田先生が笑みを浮かべて声を掛けた。
『松木さん、どうしたの。
今ちょっと話してるところだから、もう少し待っててくれる?』
『…あ、すみません。でも、その、あの、』
相変わらず、ハッキリしない女!
あたしはイライラした。
急に話しかけてきたと思ったら何?
何をモゴモゴ言ってるのよ!
どうせまた、魔女たちに利用されてるんじゃないの。
…その疑いは、正しかったらしい。
『あの、話があるから……すぐ来てほしくて』
松木さくらは、小さめの声で言った。
『ど、どうしても…今、話したいんだけど。……無理かな?』
その様子には、どことなく緊迫感が感じられて。
…さては、あたしと林田先生の話をやめさせようとしているな?
魔女たちは恐らく、あたしの行動に目を光らせている。
林田先生があたしの話を聞こうとしていることにも、すぐ気が付いたと思われた。
そして、松木さくらは、そのパシリ。
あたしは、そんな彼女を、苛立ちと呆れを込めて見つめた。
『松木さん、だから今は――』
林田先生が言いかけた時。
『…大丈夫です、先生!』
あたしがそれを遮った。
『え?』
あたしは林田先生に向かって、頷いてみせた。
今は、先生に相談する気になれない。
一度決まったことを辞めるという決断も出来ず、そのための判断力も無い。
魔女たちがその気なら、あたしはあの女たちと話をするしかない。
そう思ったからだった。
『あたしは大丈夫なので…』
林田先生に向かって言った。
『松木さんと話してきても、いいですか?』
『…ああ、構わないけど』
林田先生は、困惑した様子だった。
『本当にいいんだね?原口さん』
――本当に、応援団員を辞めなくていいの?
あたしは迷いつつも、首を縦に振った。
どうして、こんな判断をしてしまったんだろう。
素直に辞めてさえいれば、
状況がさらに悪くなるということはなかっただろうに。
ただ、一気にいろいろなことがありすぎたせいか、
あたしはもうマトモな判断をすることが出来なくなっていた。
そう、本格的に頭がおかしくなりはじめていたのである。
『……』
林田先生はきっと、驚いていた。
あたしが何の相談もせず、応援団員を辞めるとも言わなかったことが、
意外だったのだろう。
でも、相談をしなかったことについては、あたしの判断は
だって、林田先生も岩倉先生も、
あたしと中谷美蝶の関係については触れたこともないじゃない。
どうせ、校長たちと同様、
警察署のお偉方とかいう中谷ファザーの存在に気を使っているんだろう。
所詮、教師なんて皆同じ…特にこの高校においてはね。
というわけで、相談なんて初めからしない方がマシなのだ。
『――まさか、麗華と杏奈のことをチクろうとかしたんじゃないわよね?』
林田先生が去っていった後、魔女一号に言われた。
ちょっと待って、とあたしは思った。
なぜかサングラスをつけている魔女一号の姿に、
ツッコミを入れないわけにはいかなかったのだ。
なに、どっかのスター気取りですか!
全く似合ってないんですけど(ww)。
心の声が聞こえてしまったのか、魔女一号から思い切り突き飛ばされた。
近くにあった机と椅子にぶつかって倒れたあたしを見て、松木さくらが叫んだ。
『は…原口さん!ケガはない!?』
あたしに手を差し伸べた松木さくらを、魔女二号が怒鳴った。
『いいって!あんた、どっちの味方なわけ!?』
松木さくらの動きが止まった。
怯えた顔で魔女二号を見つめていたと思うと、今度はあたしの方に目を向ける。
…罪悪感。
それが彼女の表情には浮かんでいた。
『さくらって、ほんと、何に関しても中途半端だよね』
魔女二号が言いだした。
『杏奈と麗華の友達なら、おとなしく協力しなきゃでしょ。
地味に反発して、かといって原口さんの味方になるわけでもない…
あんたって一番卑怯だと思うけど』
一理あるとは思ったものの、
松木さくらの表情を見れば、「言い過ぎだ」と感じた。
本当に友達なら、こんなひどい言い方しないはずだよ……
いい加減、気付け、松木さくら。
結局、あたしは、誰の力も借りることなく立ち上がった。
『意外と根性があるっていうか、図太いっていうか…。
何なのよ、その顔!』
魔女一号が言ってきた。
『今、麗華の目、腫れてるの。なんでだと思う?
昨日、あなたにイケヤンを馬鹿にされて、泣いたからよ。
だからサングラスを付けてるの』
あ、そういうこと。
て、全然納得できないわ!
単にアンタが意味不明なことで泣き出しただけであって、
それで目が腫れたからといって、学校にサングラスなんかつけてくるなよ。
ほんと、馬鹿な女。
こんなのからイジメられているあたしは、もっと馬鹿なのかもしれないけど。
『あなたのせいで、この自慢の目が無残なことになったわ。
よって、今から、罰ゲームを開始する!』
…本当に馬鹿だ。
いきなり変なことを言いだした魔女一号を、呆れて眺めた。
ところで…、罰ゲームとは一体?
『そうねぇ…さくらに頼もうかしら』
魔女一号、一体何を言う気だ。
『ねえ、さくら、原口さんのこと殴ってみてよ。
それで、麗華と杏奈の友達って証明してみせて!
出来るでしょ?』
――なぬ?
空気が固まったようだった。
『…麗華、何言ってるの?』
松木さくらは、驚愕した様子だった。
『何を言ってるのか、理解できないよ…。
わたしには、暴力なんて出来ない。…分かってるでしょ?』
『それは、友情の証明が出来ないって意味?』
『…え?』
『杏奈も言った通り、さくらには友達への協力が無さすぎ。
麗華も杏奈も、ずーっと不満だったの。
だから、今ここで証明してって言ってるんだけど?』
『……あ、あの、』
松木さくらは、珍しく口を動かし続けた。
『わたし…分からない。
どうして…原口さんに、暴力を振るうことが……友情の証明になるの?』
魔女たちは、二人して鼻で笑った。
そして、まず先に、魔女二号が答えた。
『このブス女(原口夢果)が、杏奈と麗華の敵だから。
さくらにとっても、敵なんじゃないの?
共通の敵を攻撃することが証明になるのは、ごく当たり前でしょ』
しかし、魔女一号の答えは、少し違った。
『調子に乗った女(原口夢果)に罰を与えるのは、当然のこと。
しかも、その女は、
麗華と杏奈の友達のはずの、さくらとも馴れ馴れしく喋って…。
だから、さくらが自分で、裏切り者じゃないってことを証明しなきゃならないの。
さあ、分かったら、さっさと殴りなさいよ!』
それを聞いて、あることが分かった。
魔女二号は置いといて、魔女一号は……
イケヤンの件だけで、あたしに嫉妬しているわけではなかったらしい。
前提として理解しておくべきなのは、魔女一号が嫉妬体質であるということ
(何それ、お近づきになりたくない)。
今思えば、去年――二年生の頃から、薄々感じていた。
たまに、あたしが松木さくらと話している時、
魔女一号が恨めしそうな顔でこちらを睨んできたこと。
あれは、嫉妬の眼差しだったんだ。
わたしの友達と、気安く話さないで的な?
かなり歪んでいるように見えるけど、
魔女一号は松木さくらを嫉妬するほど友達と思っているってことだ。
…意外な展開だね、こりゃ。
もしかすると、魔女たちが今年まであたしと一切の口を利かなかったのは、
ただ毛嫌いしていたからというより、嫉妬していたせいなのかもしれない。
その嫉妬は、イケヤンの件によって大爆発したのだと思われた。
まあ、どちらにしろ憎いよね、イケヤンは。
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