(3)




『あたしは、三年九組のスズキマリノ。


この男みたいなのは同じクラスのヤマグチノゾミで、


この黒ギャルみたいなのは二年八組のフジワラモエコ。


あと――』





自分とギャルと男勝りの紹介を終えたスズキマリノは、背後を振り返った。




そこには、あと二名の人物がいて。





『この小さい子は、ハシモトアイラン。


で、このお団子は、ムラオカツバキっていってね。


アイランは三年九組で、ツバキは二年八組なんだ』





紹介を聞きながら、頭の中を整理した。




ハシモトアイランと、ムラオカツバキだって?




もちろん知っていた、悪い意味で。





『初めましてぇー』





髪をお団子にまとめた、すらりと細い女が、手を差し出してきた。




この一見お上品そうな彼女が、「化け物」といわれるムラオカツバキ……




恐怖を抱きながら、断ることも出来ずに謎の握手を交わした。




手を握り合った瞬間、想像も出来ないほどのパワーを感じたけれど。




なんとか痛みに耐えて、笑顔を作った。





『は、初めまして』





あたしが内心、青ざめていることに気付いたのか、





『こら、ツバキ。


普段は十分の一の力で生活しろって言ってるでしょ』





スズキマリノが注意を入れた。




当人は、キョトンとしていたけれど。




…うん、噂通りの恐い女だ、と思った。




もうお分かりだろうけど、ムラオカツバキが「化け物」といわれている理由は…




彼女が見た目からは想像も出来ないほどの”力持ち”だからで。




聞いた話によると、素手で樹木を倒すことも出来るんだとか。




女子高生というのはもちろん、もはや人間というのも信じられない…。





『……』





脇から鋭い視線を感じて、見てみると――




チビなのに威圧が凄い女…ハシモトアイランが、こちらを睨んでいた。




な、何でしょう、何か気に食わないのかしら?




怯えながら考えていると、





『…いたっ!』





突然、頭を叩かれた。




あたしは驚いて、ただじっと叩いてきた人物(ハシモトアイラン)の方を見た。





『今、あたしのこと、チビだって思っただろ』





怒りに燃えたような、ハスキーボイス。




うちのママは学生時代の部活動で喉が潰れたせいだけど、




この女はきっと酒や煙草でなったのに違いない。




そう予想が出来るほどの、危なそうなオーラを感じ取った。




というわけで、あたしは首を横に振り回した。





『そんな…!思ってないですよ』





ここで、「はい、本当にチビですね!」なんて言えるわけ。




元々、知っていたしね……




ハシモトアイランが、身長を何よりものコンプレックスに思っていること。




だから、彼女には絶対、何があっても身長のネタを出してはならないのだ。




もしも、本人の面と向かってチビなどと言えば…




八つ裂きにされるか、殺されるか、どちらかの運命が待っている。




そう噂で聞いた、けど。




あたし、何も言ってないのに叩かれましたよ。




ハシモトアイランに関しては、実物の方が酷そうだ…そう思っていると。





『嘘つくな。あたしには分かんだよ』





少し下の位置から、小突かれた。





『メガネしてても、目を見れば見分けつくんだよ。


あたしのこと、ナメんなや』





なに、このチビ…!




って、正直思っちゃったよね。




あたしの身長が一五二くらいだから、それよりも小さいってことは…




絶対、一四五前後だろう。




普通は愛おしく思えそうなもんだけど、この女に関しては全然可愛くない。




ピンクの混じった金髪で、デブと見られやすいハイウエストの体型…




せっかく見た目は可愛らしいのに。




中身がガラ悪すぎて、結果「チビデブ」と言われ嫌われている有り様だ。




あー、もう、やっぱりメンツが悪いもん。




これだから、特別科は浮いてるんだよ!





『あ?なんか文句あんのか?』





ハシモトアイランがジリジリと近づいてきて、




あたしはどんどん後ろへと下がっていった。




…その時。





『ちゃんと前見て歩けよ』





ん?




後方から声が聞こえた、次の瞬間。




目の前を、イケヤンの三人―高橋敬悟、新木純成、金城亜輝―が通り過ぎた。




…不意打ち!




どうやら、ちょうど教室に入ろうとしていたところに出くわしたようだった。




最悪なことに、三人それぞれと目が合ってしまった。




高橋敬悟は少し驚いたように目を丸くし、新木純成は一瞬で目を逸らし、




金城亜輝はじーっと見つめ返してきた。




あたしは…突然すぎてどうしようもなく、露骨にそっぽを向いた。





『あ!』





そう声を上げたのは、特別科の女たちだった。





『いいタイミングで来てくれた!


今、ちょうど、原口夢果チャンを捕まえて話聞こうとしてたんだ~』





すると、高橋敬悟が一瞬、立ち止まった。




新木純成はそんな彼の背中を押し、金城亜輝はなぜかあたしの方をずっと見ていた。




…心臓が嫌な音を立てた。





『―朝っぱらから、くだらねぇことで騒ぐな』





高橋敬悟が言った。





『お前ら、それじゃ集団でイジメてるように見えるぞ。


迷惑になるだけだから、さっさと解放してやれ。いいな』





特別科の女たちは、それぞれ違う反応を見せた。





『ハア?うちらがイジメたりするわけないじゃん!』




『アタイたちより、あんたの方が強面だろうが!』




『朝から人聞き悪いこと言うな!』




『殴られたいんなら、後でやってあげるー!』




『消えろ、デカ男!』





皆が恐れおののく高橋敬悟が、言われっぱなし…。




ちょっとだけ「ざまぁ」と思った…、何もされてないけど。





『お前ら、そんなこと言ってたらモテないぜ~。


やっぱ、女子は可愛くなきゃな』





金城亜輝…。




コイツの発言によって、女たちは本気モードになったようだった。





『敬悟、素直になれって。


好きな子のこと守りたくて、そんなこと言ってんだろー』




『若干、優しさ感じるもんね。ピュアだな~』




『ただ問題は…原口夢果チャンの気持ちだよねぇ』




『そうそう。アンタ、どう思ってんの?』





一気に注目を浴び、あたしは咄嗟に首を傾げた。





『…はい?』





気が付くと、女たちに取り囲まれていて。




ヤマグチノゾミがあたしの首根っこを掴み、




フジワラモエコが腕を組みながら尋ねてきた。





『原口夢果チャン、アンタ…―敬悟と来登、どっちが好きなの?』




『……あ?』





どういうことか分からず、とんでもない反応をしてしまった。




ハシモトアイランが、またあたしの頭を叩いてきた。





『その態度は何だ!ちゃんと質問に答えろや!』





衝撃を受けた頭を撫でながら、ふと横目で見てみると……




イケヤンの三人が、こちらを窺うように見ていた。




新木純成は即、首を振りながら教室に入っていったけど…




高橋敬悟と金城亜輝に関しては、まだそこに立っていて。




あたしの気のせいかもしれないけど、なんだか少し心配そうな様子に見えた。




もしかすると、あたしが泣き出すと思ったのかもしれない。




でも、だったらハズレ…あたしは人前で泣いたりしないもん!




あんなに不機嫌だったくせに、ちょっとでも心配してくれるとは……




イケヤンにも情はあるらしい。




そんなことを思っていると、高橋敬悟と金城亜輝がきびすを返した。




隣のクラスだから事故で鉢合わせしちゃったけど、




さすがにもう会うことはないだろう(そう信じたい)。




というわけで、さようなら。




別れの挨拶をした、その時だ。




金城亜輝がこちらを振り返り、ペロッと舌を出してきた。




その顔にはうっすら笑みが浮かんでいて、




あたしのこの状況を嘲笑っているかのようだった。




…いや、多分、そうだ。




アイツ、情なんか全くねぇじゃねーか。




いくら心が折れそうな状況にあっても、やはり簡単に人を信じちゃいけない。




改めてそれを学んだ、あたしだった。





『アイランが二回も叩くから、原口夢果チャンがおかしくなっちゃった』





ムラオカツバキが言い、




それを聞いたヤマグチノゾミがあたしの耳を握って引っ張ってきた。





『ちょ、大丈夫、この子。全然話進まねーじゃんか』





あの、とりあえず耳を放してくださいませんかね。




特別科の女たちは、すぐに手を出してくる。




ひょっとすると、イケヤンより、馴れ馴れしくて手荒かもしれなかった。




スズキマリノが、困った顔をして言った。





『ちょっと、みんな、普通の子相手にやりすぎだって。


アイランは叩いたこと謝って、ノゾミは初対面の人の耳を引っ張るな』





普通の子…まあ確かに、普通科だけど。




この女ヤンキーたちから見れば、あたしはごく普通の女子高生なんだろうか。




――嬉しい。




だって、あたしは今まで、ずっと普通になりたいと願ってきたから。




もっと普通の趣味嗜好を持っていたら、こんなに心を閉ざすこともなかった。




みんなが良いと言うものを好きになれば、もっとメジャーな分野を知っていれば…




あたしももう少し生きやすかったに違いない。




まあ、スズキマリノは、




モテない地味子という意味で”普通”と言ったのかもしれないけどね。





『マリノのくせに、ウザいんだよ!』





ヤマグチノゾミが、スズキマリノのお尻を蹴った。




…お行儀が悪すぎる。





『ちょっと、何すんのよ!足グセ悪すぎ!』




『マリノのくせに生意気だって言ってんだよ。このバカ女!』




『ハア?あたしのどこがバカ女?』




『しょっちゅう男のことで病むくせに、付き合うのをやめないとこ。


うちらみんな、迷惑してんだよ!』





…スズキマリノは、やっぱり男なしじゃ生きられないタイプなのか。




それがなければ、特別科の女たちの中では一番付き合いやすそうなのに。




少し残念だった。





『いつも話聞いてもらって、みんなには感謝してる』





スズキマリノは言った。





『でも、ノゾミ、あんたって本当に精神年齢が幼いし、デリカシーが無いよね。


こんなとこで、それを言う必要ないでしょ!』




『本当のことを言ったまでじゃん』




『言っていいことと悪いことの分別も分かんないの?このバカ』




『バカって言った方がバーカ!』




『あんたのがバーカ!』





ちょ…何ですか、この言い合いは。




一瞬、本気まじの争いが始まるのかと思った。




仲が悪いのか良いのか、関係性がさっぱり分からない!





『うるさいなぁ、いつもいつも』





フジワラモエコが溜め息交じりに言った。




あ、いつもなんですね。




金城亜輝と遠藤虎男の女子バージョンって感じなのかな?




どうでもいいけど、なるべく平穏に過ごしましょうよ…。





『アイラン、早く謝っちゃいな』





ムラオカツバキが言った。




けど、ハシモトアイランは首を横に振る。




すると、今度はフジワラモエコが見兼ねた様子で言った。





『うん、アイラン、早く謝りなさい。


勝手に話しかけたのはこっちなんやし、一方的な暴力はいけないよ。


アタイたちは、決してむやみに手を出したりしない…そう決めたやろ?』





フジワラモエコ、意外にも常識人説!




しかし、それでも、ハシモトアイランは反抗を続けた。





『なんであたしが謝らないといけないんだよ?


悪いのは、このボケメガネじゃん。敬悟と来登をそそのかしたんだから!』





ボケメガネにも不満だったけど、それより……




あたしが高橋兄弟をそそのかしたって?




混乱状態ながらも、自分が呼び止められた理由が少しずつ分かってきた。




やはり、この女たち…。





『もう、ノゾミとアイラン、あんたたちはちょっと引っ込んでて!』





スズキマリノが怒ったように言い、




フジワラモエコとムラオカツバキは困ったように顔を見合わせた。




ヤマグチノゾミとハシモトアイランは、不満そうに腕を組んで立っており……




雰囲気、最悪。




そんな中、とうとう話は本題へと移っていった。





『―あたしたち、風のうわさで聞いたんだけどね』





スズキマリノは、そう始めた。





『原口夢果チャンが、さっきのデカい金髪男…


高橋敬悟と付き合ってるって、』




『違うよ、付き合ってるのは来登の方でしょ』




『え、両方と付き合ってんじゃなかったっけ?』




『一旦、黙ろうか。今、あたしが聞いてるでしょ』





情報が錯乱する中、スズキマリノは呆れた顔で話を再開させた。





『えっとね…、いろいろ噂があって、どれが本当なのか分かんないんだけど。


まあ、総合的にまとめれば、


原口夢果チャンが高橋敬悟と弟の来登を弄んだって話が流れてるんだよね。


それは理解できるかな?』





…出来ませんね!




あたしは首を横に振り回した。




あの兄弟を弄ぶとか…どんな悪女がやることだよ!!




でも、やはり――




この女たちは、あたしとイケヤンを巡る噂の真相を知るべくやって来たのだった。




まーた、誤解を解かなくちゃいけないの!?




もうウンザリだわ!!




そう思っていると。





『敬悟と来登は、大事な仲間なんよ』





フジワラモエコが真面目な調子で言った。





『だから、流れてる噂が本当なのか、


原口夢果チャンに直接聞いてみようと思ったの。


アイツら、ああ見えて、意外と女関係には真面目っつーか奥手っつーか…


だから気がかりでもあってね』





高橋兄弟が、女関係に真面目?奥手?




スズキマリノとムラオカツバキも、フジワラモエコと同意見のようだった。





『いやー、ホント、純粋に興味もあるんだよね。


今まで、あの二人、女の噂は全然無かったから』




『それで、今は一人の女の子を取り合ってるとか…。


わしたちが飛びつかないわけないよねー』





あたしは、恋愛経験ゼロの超純潔女子だ(言い方おかしい)。




けれど、あのイケヤンともあろう方々が初心うぶだなんて、ほぼ信じられない。




あの容姿で、とんでもない富裕層で、しかも有名な不良ですよ。




女経験が無いわけないよね?




いくら、この仲間の女たちが言うことでも…信じられなかった。




だって、金城亜輝は、彼女(杉崎永未)を妊娠させた上に捨てたんでしょ。




他の四人はきっと、それを容認したんだ。




だから、今も五人一緒なんだろう。




多分、男って生き物は、女に比べるといろいろと寛容だ。




だが、しかし、許しても良いことと悪いことがある。




金城亜輝の件はアウトだ。




イコール、それを容認した者もアウト。




そんな連中を、このあたしが弄んだだって…?




変な噂を流すにも程があるだろ、まったく!




あたしは、自分の潔白を訴える必要があった。





『もし、噂の内容が本当なら、うちらも黙ってはいられないよ』





ヤマグチノゾミが威圧的に言ってきた。





『うちらがギリ許せるビッチは、このマリノだけなんだかんね。


仲間に有害な奴は、この手でぶっ潰す…それがルールってもんよ』





さすがは、女ヤンキー……




無実の地味子に対しても、脅しをかけてくるんですね。




すでにイライラしていたけど、さらに追い打ちをかけられる羽目に…。





『おい、さっさと本当のこと言えよ、ボケメガネ』





ハシモトアイランだった。





『敬悟と来登に二股かけてんのか、そうじゃないのか、ハッキリしろ!』





イライラが最高潮に達した。




あたしは、ほぼ半ギレ状態で言った。





『ハッキリ言います…、あたしは高橋敬悟とも高橋来登とも付き合ってません。


ただ、何回か話したことがあるので、


その時に周囲から誤解されてしまったんです。


話したといっても、ほんの少しの時間だけで、全く何もないんですよ!


イケヤンの皆さんも、さぞ迷惑されてるだろうと思います』





…シ――ン。





『嘘っぽ』





沈黙を破ったのは、男勝りで無神経なヤマグチノゾミだった。





『嘘じゃありません』





あたしが瞬時に否定すると、





『何もないって言う時ほど、何かあるんだよねー』





と、三大ビッチの一人・スズキマリノ。




いや、マジで…。





『本当に何もないんです!』





精一杯の強さを込めて言うと、次はムラオカツバキが言った。





『んー、でもね、少なくとも来登はあんたのこと嫌いじゃなさそうだよ。


わしたちがこの件について聞いても、全くキレたりとかなくて、


むしろちょっとニヤついてたくらい』





キモいな、高橋来登。




っていうか、ムラオカツバキって自分のこと、やっぱり「わし」って言ってるよね?




フジワラモエコの「アタイ」の方が、まだ可愛げある気がする…。




とか、くだらないことを考えている段ではなかった。





『まさか、来登を期待させておきながら、敬悟と付き合ったとか…』




『ないです。断じて、ないです』




『誓える?どうやって?』




『そこの窓から飛び降ります』





特別科の女たちは、あたしの指差した方…廊下にある窓を見た。




ムラオカツバキは、こくこくと頷いた。





『もし噓だって分かったら、飛び降りてもらうね。約束』




『はい』





そうして、あたしたちは再び、謎の握手を交わしたのだった。




…何これ?




ムラオカツバキ、いろいろな意味で恐すぎるんですけど。




まあ、あたしが自分から「飛び降りる」なんて言ったのが悪いんだけども。




この女たちから嘘つき呼ばわりされた時には、もう最後……




命は無いだろうから、だったら自分であの世へ逝ってやろうと思ったわけ。




あれ、あたしの頭、おかしくなってきてる?





『…本当に付き合ってないの?』





スズキマリノが、改めて尋ねてきた。




あたしは頷いた。





『はい、本当です。


…あの、どう見ても、あたし、イケヤンと付き合ってる可能性ゼロですよね?』




『そうかな?オーラが可愛らしいし、十分あり得ると思うけど』




『…え?』





まさかの返答に、思わず口があんぐり開いた。




フジワラモエコが、そんなあたしを見て小さく笑った。





『なんかね、どことなくユーモラスやしねぇ。


ひょっとしたら、アイツら、勝手に気に入ったんやないの』





…ユーモラス!




思わぬ褒め言葉に、つい笑みが出てしまった。





『可愛い!』





すかさず、スズキマリノがまた言ってきた。




え、何なの、このセクシー女。





『…もういいわ、尋問なんて』





と、スズキマリノは言い出した。





『こんなピュアな年下の子を追い詰めるなんて…あたしの性には合わないわ。


ねえ、みんな、もうやめようよ。


原口夢果チャンの言うこと、信じてあげよ?』




『いや、キモいわ。急にどうしたよ』




『だって、可哀想でしょ。


あんた(ヤマグチノゾミ)は耳引っ張ったりして脅すし、


アイランは暴言吐く上に叩くし…。


あたしは、この子(原口夢果)を解放してやる気になった!』





ムラオカツバキが素早く手を挙げた。





『賛成!元々わし、敬悟と来登の恋愛とかどうでもいい!!』





あたしに窓から飛び降りることまで誓わせといて?




やっぱり、この女、恐い…。




その隣で、フジワラモエコがこくんと頷いたのが分かった。





『まあ、確かに、嘘を言ってるとも思えない。


アイラン、目を見れば真偽が分かるんやろ、よく見てみ。


ほら、ノゾミも』





そう促され、ヤマグチノゾミとハシモトアイランがあたしの目の前にやって来た。




二人の悪名高い女に見つめられ、固まっていると――





『…どうよ?アイラン』





ヤマグチノゾミが心配そうに尋ねた。




すると、ハシモトアイランは…――





『……嘘じゃない』





見た目に似合わない低い声で、そう答えた。




スズキマリノとフジワラモエコとムラオカツバキが、ニヤッと笑った。




それは、あたしの潔白を分かってもらえた、素晴らしい瞬間だった。





『…その、ごめんね』





ヤマグチノゾミが、頭を掻きながら謝ってきた。




あたしは首を横に振った。





『耳引っ張ったりして、あと脅して、ホントにごめん…。


アンタの耳、小っちゃくて可愛いね』




『あ、ありがとうございます』





耳を褒められたのは初めてだったけど、




その時はヤマグチノゾミが決して憎めない少年のように見えた。





『もし嘘だったら、インチキメガネって呼んでやるからな!』





そう吐き捨てたのは、もちろんハシモトアイラン。




ヤマグチノゾミが、上からその頭を押さえつけた。





『ノ、ノゾミ、放せ!』




『いや、お前も謝れ。はい、ごめんなさーい!』





無理矢理ではあったものの、




こうしてハシモトアイランもあたしに謝罪したのであった。





『……』





あたしは、目の前にいる女たちのキャラが掴めず、困り果てていた。




…え、許してくれたよ、この人たち。




てっきり、生きては戻れないんじゃないかと思っていたけど。




噂で聞いていたよりも、全然いい人たちじゃん(?)。




イケヤンとあたしの噂について聞いてきたのも、嫉妬しているからではなく、




あたしがイケヤン(仲間)を傷つけているかもしれないと思ったからで――




もはや、ただの仲間思い。




そりゃあ、多少の手荒さや粗暴さは否めないけど……




最近、特に悪い女たちと関わっているせいか、




特別科の女たちが根は悪くないのだということを知った気分だった。





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