13・地獄の日々〈1部〉
(1)
……ママが倒れてから、一週間ほど経った。
我が家はすっかり暗く、死んだようになってしまっている。
家庭の中心がいなくなるというのは、こういうことなのか…
と痛感しているところだ。
ママは、あれから、食欲がなくなり、ほとんど寝て過ごすようになった。
きっと、ここ数年の疲労とストレスが爆発したんだろうけど……
ママがこうなったのは、あたしにとってかなり大きなダメージだ。
元々、ママが風邪を引いて少し寝込んだりしただけで、
だいぶテンションが落ちてしまうのに。
今回はさらに深刻なので……相当、しんどい状況だ。
学校でどんなに疲れても、家に帰るとママが待っていてくれた。
そして、必ずこう尋ねられる。
『今日は学校、どうだった?』
リビングでママと会話することが、毎日の支えだった。
けれど、今は…、疲れて帰って来てもママはリビングにいない。
当たり前だったことが、失われてしまったのだ。
そんな中、パパが仕事を休んで、
ママがこれまでのように家事を出来なくなったので、
パパが代わりにするようになったのだ。
パパは元々、男のわりに料理などの家事が得意で……
生活面においては、きちんと家族を支えてくれている。
けれど、精神面においては…?
あたしも進真も、パパに癒された経験など無い。
今まではママが間にいてくれたから、まだ良かったんだけど……
パパだけとなると、逆に精神がやられる。
パパって、なんか…いっつも陰鬱なオーラだから。
こっちまで暗くなるし、ただただ気を遣ってしまうんだ。
たわいもない会話なんか出来ないし、悩みを打ち明けるなど絶対に無理。
リビングで一緒にいても、ほぼ無言なんだから当然だけど。
パパには、ママの半分ほども人間味が無い。
家事だって、ただ義務的にこなしている感じだし……
あたしと進真を気遣おうという気は、さらさら無いんだろう。
ママや進真の状況についても、どう思っているのやら…。
親子だけど、全く分からない。
とはいえ、今のあたしはパパに頼るしかない。
何しろ、家事の一つも出来ないし、お金のことも分かってないし、
生活力がまるで無いのだから。
ママに甘やかされて育ってきたせいで、こんなヒドイ人間になってしまった。
高校三年生にもなる女子が、カップ麺しか作れないって…やっぱりヤバいよな?
自覚はあるんだけど、今のこの精神状態じゃ……努力する気も起らない。
元々、努力なんか大嫌いだしね!
それに、今、あたしを取り巻く状況は本当に散々なのです…。
大好きなママと可愛い弟は鬱で、基本的に家では大嫌いなパパと二人きり。
そして、学校では…非常にいろいろなことがあった。
まずは、覚悟していた月曜日――
クラスで、もうじき体育祭があるという話をされた。
うわ、もうそんな時期か…と嫌々ながら聞いていると、
クラスの中から応援団員を数人選出しなければならないと林田先生が言った。
『まずは立候補者の確認から。応援団員になりたい人は手を挙げてー』
…誰も手を挙げなかった。
いつも教室でパーティーを開いている連中さえも。
日ノ学生はみんな、責任や面倒なことを嫌う傾向にあるらしい。
そんなことを分析していると、林田先生が言った。
『まったく、若いのにやる気がないねぇ。
じゃあ、悪いけど、俺が決めるよ』
決断、早ッ!
もっと生徒たちの意思を聞きなさいよ!!
さすがは見た目の良さで救われているクール男…、
本当に独断と偏見で生徒たちの指名を始めた。
特に男子に対しては容赦がなく、わりとすぐ四人ほどの犠牲者が決まった。
その後、林田先生は、あたしたち女子生徒の方を見渡して…
有り得ないチョイスをした。
『桐島さんと岡本さん、やりなよ』
え、と思わず小声で呟いちゃった。
まさか、あの魔女たちを応援団員に!?
絶対勝てないし、むしろ呪われるよ…!!
本人たちも自覚があったのか、すぐさま抗議しだした。
『無理ですぅ!』
しかし、そこで譲らないのが林田先生という人だ。
『生まれ変われるチャンスじゃない。
たまには汗水垂らして、苦労を知ることも大切だよ』
『汗なんか垂らしたくないです。
しかも、なんで生まれ変わらなきゃいけないんですか?』
魔女たちは、ムカついているようだった。
無理もないけど、あたしには林田先生の言いたいことが分かった。
きっと、先生は、あの魔女たちの性悪さを分かっているのだ。
だから、応援団員にでもなって考えを改めろ、ってこと。
うーん、でも、魔女は変わらないと思うけどな……
絶望視していると、林田先生はニッコリ笑って言った。
『じゃあ、代わりに中谷さん、やってくれる?
桐島さんと岡本さんがしたくないって言うから』
おい!!
さっきから、アンタ、ダメなとこばっか当たってるよ!!!
もしや、わざと?
自分から
女子全員が恐怖と好奇の目を向ける中、中谷美蝶が言葉を発した。
『冗談でしょ、先生。…ねえ?』
その恐ろしい目は、魔女たちを捉えていた。
ビクッとした様子で、魔女たちは林田先生に言った。
『中谷さんに代わりをさせる気なんて無いです!』
『そうですよ、何言ってるんですか!』
林田先生は、満足げに笑みを浮かべた。
どうやら、こうなることを想定していたらしい。
…悪質すぎる。
『それじゃあ、やってくれる?桐島さん、岡本さん』
もちろん、魔女たちは簡単には頷かなかった。
二人でテレパシーでも送ってコソコソ話し合い、結果的に…――
『さくらも一緒になるなら、やってもいいけど』
ということになった。
そうなった以上、松木さくらは断れるはずもなく…。
まあ、ここまでは想像の
ところが、この次、
応援団員決めは想像もしなかった展開を迎えることに…。
それは、桐島麗華(魔女一号)の発言からだった。
『あ、そうそう。先生、原口さんも一緒にさせてください』
『…は?』
間抜けな声を出したのは、あたしだけじゃなかった。
林田先生もポカーンとした顔で、状況が呑み込めていない様子だった。
『…原口さん?』
先生だけでなく、クラス中から視線を浴びた。
あたしは、突然の事態に、驚きのあまり言葉も出なかった。
ど、どういうこと…?
『わたしたち、最近、原口さんと仲良くしてるんです』
魔女一号は言った。
『だから、一緒になってくれたら、楽しそうだなーって思って』
ウソつけ!
今言ったこと、ぜーんぶウソだって白状しろ!
心の中で怒鳴っていると、林田先生があたしに尋ねてきた。
『原口さん、応援団員になりたいの?』
いやいや、なりたいわけない!
これまでの人生、玉入れくらいしかしたことないのにッ!
あたしは首を左右に振り回した。
すると、魔女たちが、二人して睨みつけてきた。
『残り少ない高校生活で目立ちたいんでしょ?
だったら、応援団員になってみた方がいいじゃない』
何それ、そんなこと言ってませんけど?
そもそも思ってもないし。
あたしの目標は、ただ静かに卒業することなんだってば!
応援団員になんかなったら、絶対に叶わない。
あたしに出来るわけがないでしょ!
首を振り続けていると、魔女たちが松木さくらに話を振った。
『さくらも、原口さんが一緒の方がいいでしょ?』
『…え?』
『あんたからも言ってよ、一緒にやろうって!』
あー、また利用されてる。
あたしは内心、溜め息をついた。
…どうせ、何も言い返せないんでしょ。
ハッキリしないから、都合良く使われるんだよ。
想像通り、松木さくらは引きつった表情を浮かべるだけ。
一瞬、久しぶりに目が合った気がした。
…そして。
『わたし、』
彼女は弱々しい声で言った。
『原口さんと一緒がいい…。原口さん、わたしたちとならない?』
魔女たちに反抗できなくて言っただけ。
そうだと分かっていたけど……、
なんだか一瞬、嬉しくなった自分がいた(!?)。
…年かな?
いや、多分、ママのことで精神的に弱っているからだ。
松木さくらが、本心からあたしを誘ってくれたんじゃないかって…思ってしまった。
首を振るのをやめたあたしを見て、魔女たちが勝手に話を進めだした。
『さくらもそう言ってるし、原口さん、断る理由ないでしょ?
さっさと決めちゃおうよ~』
『先生、もう決まりでーす!
桐島麗華と岡本杏奈、松木さくら、原口夢果が応援団員やりま~す』
…あたしは完全に油断していた。
自分は絶対、応援団員なんかならないって。
誰もあたしになんか、させようとも思わないだろうって思い込んでいた。
だから、心の準備が出来ていなくて…、何と言うべきなのか分からなかった。
魔女たちが、あたしへの嫌がらせを開始していると知りながら…。
『―原口さん、どうする?』
林田先生のわりには、少し心配そうな様子だった。
どう考えても、クラス…いや、学年一の地味子が応援団員になるとか、
有り得ないもんね。
普通、ないもんね、そんなこと。
あたしは、ふと周りのクラスメートたちに目をやった。
みんな、”早く終わらないかなー”みたいな感じで、ダルそうに座っている。
人の気も知らずにね!
やっぱり、人間って、自分さえ良ければいいんだ……そう思った時。
後方から、クスッと笑う声が聞こえた。
恐る恐る顔を向けると、
魔女たちをもビビらせるクイーン―中谷美蝶が笑みを浮かべていた。
ちょ、お前、なに笑ってんだよ!
カッとなったあたしは、つい口走ってしまったわけ。
『はい、やります。あたし、応援団員になります…!』
馬鹿、馬鹿、馬鹿。
この世で最も情けない馬鹿…それが、あたしだ。
これまで自分なりに強い意志を持って生きてきたつもりだったのに、
全てが水の泡。
あんなビッチサイコパスの笑みなんかにイラついて、
応援団員になってしまうなんて!!!
それも、あの関係性グチャグチャの三人組と一緒。
もう死んだ、生きていけない。
あたしは、人生初の応援団員になってしまったばかりか、
自らイジメを受ける運命へ突入してしまったのだから。
あの魔女たちは、あたしをイジメることを目論んで、
一緒に応援団員になろうなんて言い出したんだ。
まあ、それは、後々分かることで――
応援団員になってしまったあたしは、一人恐怖に震えていた。
なぜなら、体育祭とは、この日ノ出学園高校における一大行事だからだ。
一年生、二年生の頃、あたしはそれを目の当たりにしている。
日ノ出学園高校の体育祭は、一風変わっていて――
赤・青・黄・白の色組があり、そのリーダーはみんな「組長」と呼ばれる。
普通は「団長」か、「ブロック長」だと思うんだけど……
さすがは悪名高い不良高校、センスがチンピラだ。
組長には大抵、運動神経抜群の人物、もしくは人気者が選ばれるのだけど……
その組長率いる応援団は、体育祭における
毎年、応援歌やパフォーマンスを披露する”演技”が注目を浴びる。
もちろん本番当日までは大変な練習期間があり…、
そのため暗黙の了解で応援団員には意識高い系の人物しかいないと思われる。
この不良だらけの高校が、本当に体育祭になると熱心になるのか?
きっと疑問に思われている方もいるだろうから、ここで言っておく。
最初は乗り気じゃない生徒も、応援団の熱量に
だんだんガチになっていく…本当だ。
去年も一昨年も、体育祭当日は想像以上の盛り上がりだった。
ほら、大体、ヤンキーってお祭りとか好きじゃない?
多分、それの延長みたいなもんだと思う。
正直、あたしは去年も一昨年も、暑さとキツさで死んでたけどね。
そんなんで応援団入りだなんて……、今年こそ本当に息絶えること間違いなし。
…あ、そうそう、日ノ出学園高校の体育祭にはまだ変わった点があった。
それは、ある種目について。
これを一番言いたかったんだ!
その変わった種目とは――、「喧嘩チャンピオン決定戦」。
聞いた途端、”何それ!?”ってなるよね。
これは、種目名の通り、
生徒たちがチャンピオンを争って喧嘩するという(謎の)コーナー。
あたしの知る限りでは、毎年、数名の生徒がこれに出場する。
応援団の演技を除けば、恐らく一番注目度の高い種目だ。
格闘技の観戦でもしているかのように大勢の生徒たちが見守る中、
出場者たちはルールに従って喧嘩を繰り広げていく。
最終的にチャンピオンとなった人物は、
日ノ出学園高校の王者として君臨することが出来るとされている。
いわゆる、名誉の問題ということだ。
とにかく、いろいろと沸き上がる行事…、それが体育祭なのである。
その中で応援団員は、だいぶ重要な役割を果たすわけで……
うん、完全にやらかした。
もしかすると、これは、あたしの人生で最も悪い黒歴史になるのかもしれない。
いや、間違いないだろう。
なんで、あの時、自分で「やります」なんて言っちゃったんだ。
この大馬鹿者!!
思えば、昔から、その
小学五年生の頃、自然教室の係決めで、
あたしはキャンプファイアーの担当になったのだけど。
人気が無くてなかなか決まらなかった「努力の神」というやつに、
自らなってしまったのだ。
理由は、ずっと決まらなくて面倒だったから。
自分がなればいい、とその時は思ったんだ。
でも、すぐに後悔した。
まず、あたしは、努力の神を
それに、他の神を祀っていたのは全員男子で、女子のあたしは変に目立っていた。
あの頃は、成長が早くて妙にデカかったし…。
まあ、とにかく、最悪だった。
キャンプファイアーでも散々だったのに、
今回はさらにハードルが上がって、体育祭の応援団…。
マジ、オワタ。
絶望の淵に立ったあたしは、家でママに事情を説明しようとした。
けれど…。
『ママ、あのさ…』
『ごめんね、夢ちゃん。…もうちょっと寝かせてくれる?』
『あっ…。そうか、ごめん』
苦しんでいるママに、相談など出来なかった。
応援団員になると言ったのはあたしで、悪いのはあたし自身。
だから、たまには一人で抱え込んで、自力でどうにかしなくちゃ。
そう思うと、イライラとストレスが溢れてきた。
どうして、こんな目に遭わないといけないんだ!
どうして、パパはずっと家にいるんだ!
どうして、ママと進真はこんなに病んでるんだ!
どうしようもなく腹が立って、大音量でメタルを聞きながら鬱憤をぶちまけた。
…このように、応援団員になった時点で精神が掻き乱されていたあたし。
間もなく、さらなる災難に襲われることとなる。
まあ、それまでも、いろいろとあったんだけどね……
聞く準備は出来てるかい?
それじゃあ、いくよ(テンションがおかしい)!
火曜日から、魔女たちが本格的に動き出した。
朝、あたしの靴箱にメモ紙が何枚か入れられていて、見てみると…。
[ブスの男たらし!死ね!]
[くたばれ、クソメガネ]
[オバサンは地獄に堕ちろ]
このような、辛辣な言葉が書き込まれていて。
なに、この酷い悪口。
よくもここまで書けたもんだね、と思ったのと同時に…
いや漫画かよ、とツッコミを入れてしまった。
靴箱や机に嫌がらせを仕掛けるのは、漫画の世界じゃ定番。
でも、まさか、それを現実で行う人間がいるとは…!
さすがは馬鹿女コンビ、やることが幼稚すぎる。
嫉妬に狂って、こんなにも露骨に攻撃してくるなんて。
付き合いきれないと思いながら、メモ紙をグシャッと丸めた。
ここで落ち込んでいる素振りでも見せれば、あの魔女たちは調子に乗るだろう。
だから、あたしは、敢えて平然とした態度を取ると決めた。
前に約束したしね――強く生きるって。
あれは、あたしが小学六年生の時だった。
大好きだった祖父(ジイ)がもう長くないと告げられ、
別れが近づくのを感じながら怯えていたあたしに、ジイはこう言ったのだ。
『夢果、お前は脆い部分もあるがな、芯のしっかりした子だ。
すぐには無理でも、いつかきっと夢を叶えて、立派な人間になれる。
時には、ママとパパと進真のことを、夢果が支えてあげるんだ。
お前には大きな愛情と癒しの力があるんだからね』
ジイは、ママのお父さん。
ワガママで陽気な性格で、孫娘のあたしを特別に可愛がってくれていた。
あたしもそんなジイのことが大好きで、あたしたちはいつも一緒だった気がする。
あたしが誰かに意地悪をされたと知れば、誰よりも怒ってくれた。
あたしが何かで悩んでいれば、話を聞いて、アドバイスをくれたりもした。
ジイの存在は、あたしにとって凄く大きかった。
けど……ジイは、長生きできなかった。
ある日、
頑固な性格でもあったので、なかなか病院へ行こうとせず、
それが寿命を縮める原因となったらしい。
ジイがもうすぐ死ぬと分かった時、
あたしはショックと悲しみで胸が張り裂けそうだった。
『ジイがいないと、あたし…やっていけない』
ずっと堪えていたけれど、ある時、本音が口からこぼれ出た。
以前と変わって、すっかり痩せ細ったジイは、
妙に目立つ大きな目であたしをじっと見た。
『ママもパパも、進真もいるだろう。バアだっている。
みんな、お前を大切に思っている』
『でも、でも、ジイもいなきゃ…!』
『夢果…、人はみんな死ぬんだよ。早かれ遅かれ』
『いや!誰にも死んでほしくない』
どんどん身体が衰え、日増しに死へ近づいていたジイは、
どんなに辛かったことだろう。
そんなことも想像できずに、あたしは自分の思いだけをぶつけた。
けれど、ジイは、あたしを諭すように優しく言った。
『死は絶望的なものだが、決してそれだけじゃない。
死が、終わりがあるからこそ、思う存分生きなきゃいけないんだ。
死ぬ時に、ああすれば良かった、
こうすれば良かったと後悔するのは嫌だろう?
ジイは自分の人生に満足してるんだ。
バアと結婚できて、ママたちに恵まれて、夢果や進真にまで出会えたからな』
『……』
『でも、正直…、お前が大人になるのを見られないのは悲しいな』
『そ、そうだよ、ジイ。あたし、まだ中学生にもなってないんだよ。
もっと長生きして、お願い…』
ジイは力ない腕で、あたしを包み込んだ。
温かい胸の中で、あたしは必死に涙を飲み込んだ。
せめて、泣いたりして心配をかけたくなかったのだ。
『ジイ…。あたしも頑張るから、ジイも頑張ってね』
『ありがとう、夢果。
お前の人生は長いから、これからきっといろいろなことがあるだろう。
辛いことがあっても、挫けちゃいけないよ』
『…分かった。あたし、強くなるね』
ジイと交わした約束だった。
ジイの思いが伝わってきて、当時のあたしなりに誓ったのを覚えている。
――なるべく、強く生きよう!
ジイは、あたしがさまざまな壁にぶつかることを予想して、
事前に助言してくれたようだった。
ジイの優しさが、今はさらに理解できる。
『ジイ、また来るね。おやすみ』
『おやすみ、夢果』
…そのやり取りが、最後だった。
ジイは亡くなり、お通夜とお葬式が行われた。
亡くなる寸前だったのに、あんなに話せていたのは奇跡だったはずだ。
『可愛い夢ちゃんと話したい一心だったのよ』
祖母(バア)はそう言って、泣きながら笑っていた。
ママも、進真も、みんな泣いていたけど……
あたしはなぜか、その場では涙が出なかった。
あんなに元気でムードメーカーだったジイが、死んだなんて……
実感が湧いていなかったのだけど、それを確認しようとも思わなかった。
あたしは、怖くて、棺の中にいるジイの顔を見れなかったんだ。
今思えば…、いくら怖くても、見ておくべきだった。
あたしは、その後、何年もジイの死を引きずることになったのだから。
大好きなジイがいなくなった上、勉強にも周りの生徒たちにもついていけない……
中学生の頃のあたしは、かなり病んでいたように思う。
まあ、今、高校でもヒドい有り様なんだけどね。
そういうわけで、ジイとの約束を思い出し、気持ちを立て直したあたし。
靴箱を後にして、教室へ入ると……ゴミを投げつけられた。
足元に落ちた塊に視線を落とした瞬間、
『ヒーヒッヒッヒ!!』
なんとも不快な笑い声を浴びた。
顔を上げると、そこにはやはり魔女たちがいた。
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