(3)




「……」





やっぱり、一緒に行くべきだったかもしれない。




ママは今ごろ、あの高校でどうしているんだろうか。




また酷いことを言われて、傷つけられていたらどうしよう。




前回の話し合いの時と同様、結局は見送るだけだったあたし……




これじゃあ、あの冷酷非道なパパと同じなんじゃないだろうか。




パパのことは、日増しに嫌いになっている。




だから、あの人のようには絶対なりたくないのに…。




ああ、イラつく。




パパは、息子が不登校になっていても無関心だ。




ママは今回、パパをかばうような言い方をしていたけど…




何がどうであれ、パパは二回とも話し合いに立ち会わなかったのだ。




本気で来ようとすれば来られただろうに…、それがパパの意思というわけ。




あたしだって行かなかった立場だけど、パパがいてくれさえすれば問題はなかった。




今回のことで露呈ろていしたよ、パパは家族のことがどうでもいいんだ。




本っ当に、酷い奴!!




あんな奴のことは忘れて、何か他の話題に移ろう……




そうだ、今なら話せる気がする。




前回の話し合いで阿部奏志の母親が怒り任せに言ったこと…――




あたしと進真が障害を抱えているという問題についてだ。




あのクソ母親が言った通り…




あたしと進真には、確かに他とは違う”ハンディ”がある。




ずいぶん前、あたしたち姉弟はそれぞれ正式な診断を受けた。




あたしは学習障害で、進真は自閉症の傾向、と。




幼い頃の進真は今よりも個性が強く、異常に何かを怖がったり、




多動でしょっちゅう迷子になったりと騒ぎを起こすことが多かった。




そこで、ママは「子どもの発達障害」などについて調べはじめ、




たくさんの先生たちに相談したりして、




そういった診断を受けられる施設へと辿り着いたのだ。




その結果が、進真の自閉的傾向、あたしの学習障害だった。




自閉症も学習障害も、最近になってやっと知られるようになったみたいだけど…




どちらとも単純ではない。




まず、その人がそうだということは見ただけじゃ分からないし…




一つの障害の中にいくつも種類やタイプが存在する。




あたしの場合、学習障害(LD)の「算数障害」といって……




数字や算数(数学)の勉強が極端に苦手であるというものだ。




この障害のせいで、小学生になった瞬間から苦難が始まった。




授業の内容に全くついていけず、周囲のレベルがどんどん遠ざかっていく…




そうして劣等生人生を歩むことになり、ますます自信を失っていったのだ。




一度、そうしたことが原因で、登校拒否になったこともある。




ついに、ママは、あたしを特別支援学級に入れることを決意した。




通常の学級ではついていけない算数の授業だけ、そこで受けさせることにしたのだ。




おかげで、あたしはまた学校へ行けるようになり、




ゆっくりと自分のペースで算数を学ぶことが出来たのだから、




ママには感謝しかない。




その後、進真もあたしと同じで、一部の時間を特別支援学級で過ごすことになった。




なので、時々、姉弟で一緒に授業を受けることもあった。




特別支援学級は、先生たちも優しく、穏やかな雰囲気の場所だった。




けれど、あたしと進真よりはるかに障害の重い子たちが多く、




そのことが通常学級の生徒たちを混乱させていたらしい。




あたしは、同級生の数人からこう尋ねられた。





『なんで、あそこにいるの?何か病気でもあるの?』





まあ、ほとんどの生徒たちは受け入れているようだったけどね。




中には、不思議がって、そういうことを言う者もいたわけだ。




そんなこんなで中学生になると、




高校受験にも影響するという理由で、特別支援学級を卒業することになった。




途端に、通常学級で潰されることになる。




ただ授業に参加するだけの状態が続き、あっという間にあたしは劣等生と化した。




ついには、友人からもバカにされることに。





『ほんっと、バカだね』





そんなあたしに残された選択肢は、




県内屈指(?)の不良高校に通うことしかなかった。




確かに日ノ出学園高校は、学力のレベル的にはあたしに最適の学校だ。




こう言っちゃなんだけど、周りがアホばかりなので、




このあたしが優等生になるというミラクルまで起きた。




でもね…、本当はあたし、ただのハンディがあるバカなんだよ。




メガネをかけているせいか、頭良さそうに見られるんだけど、それが逆に辛い。




最初から、バカと認識されたい。




バカと言われるのは嫌いだけれど、




優秀そうなイメージを抱かれて期待されるよりはマシ。




あ、ついつい、勉強の世界での底辺を生きてきたコンプレックスが…。




そう、そういうわけで、あたしは障害持ちなんです。




でも、家族以外の周囲には、ほとんど話したことがない。




だって、学習障害というもの自体、知らない人が多いし。




「障害」というワードを出すことで、”逃げ”などと認識されたくないから。




けど、明らかに、あたしは人より理解力が乏しい。




だから、バカにされるか、イラつかれるかしかない。




そういうことを考えたら、生きるのが無性に嫌になってしまう。




あたしがいつも書いている日記は、まさに「鬱日記」のようなものなので…




『アナの日記』のように、誰かに読んでもらうということはNGだよ★




さて…と、気分転換に小説のネタでも考えようか?




そう思って身を起こした時、隣からガチャッという音が聞こえた。




あたしは瞬時に、部屋のドアを開けに行った。





「…進真?」





やはり、進真が部屋から出てきていた。




寝てるのかと思っていたけど、目の下にクマができている。




こちらを眩しそうに見ながら、進真は口を開いた。





「…母さん、まだ帰ってきてないよね」




「うん、まだ」





進真は不安そうな様子で、トイレに入っていった。




あたしはリビングへ行き、冷蔵庫から炭酸ジュースを取って飲みはじめる。




進真がトイレから出てきて、ソファーの端っこに腰を下ろした。





「ママがね、おにぎり作ってくれてんだけど。一緒に食べる?」




「ううん、大丈夫」




「じゃあ、水飲む?」




「…ついでくれるの?」




「ついであげますよ。ちょっと待ってて」





コップに水を注ぎながら、ふとベランダの方に目を向ける。




今日は天気が良くないらしく、灰色の空が広がっていた。




雨も降りそうなので、洗濯物を取り込んでおいた方が良さそうだ。




テーブルに水を入れたコップを置き、ベランダに出る。




すると、もうすでに雨が降り始めていた!





「うっそ、最悪!あーもう!!」





一人で叫び、大急ぎで洗濯物を取り込んでいく。




この慌ただしさをさすがにスルーできなかったのか、進真がノロノロとやって来た。





「大丈夫?手伝うよ」




「あ、ありがとう!よーし、急ぐぞ!!」




「夢ちゃん、ズボンの裾が下についてる」




「ああっ!」





ただただうるさい姉に呆れたのか、進真はクスッと笑った。




我が弟ながら、本当、笑ったら天使みたいに可愛いんだよね…




て、姉バカを発揮している段じゃない!




早く洗濯物を雨から救出しなければッ!!




進真と二人、せっせとベランダを行き来する。




掛かっていた洗濯物を全て部屋の中に入れ込むと、あたしたちは息をついた。




雨に晒されてはいたものの、そこまで濡れていない。




これで、ひとまず安心だ。




ただ、問題は…。





「ママ、大丈夫かな」





ただでさえ大変なのに、こんな雨で、きっと嘆いているだろう。




車で行ったとはいえ、ちゃんと傘を持って行っただろうか。




空を包む黒い雲を見つめながら、憂鬱な気分になっていく。




天気に左右される人生ではありたくないけれど、




なんだかこんな天気だと嫌な予感しかしない。




今回の話し合いも、上手くいかなかったんじゃないか…。





「――母さんには悪いんだけどさ」





突然、進真が言った。





「俺、今回の話し合い、ほとんど期待してないんだ」





電気もつけていないリビングは薄暗く、進真の表情がより曇って見える。




…期待してないって?




一体、誰のための話し合いと思ってんのよ。




そう言おうとした時、進真の方が先に口を開いた。





「俺が高校でイジメられた経緯、聞いただろ?


俺が馬鹿だったっていうこともあるけど、


周囲にろくな教師がいなかったからこうなったんだ。


そんな教師たちと話し合いをしたところで、どうにもならないに決まってる。


母さんは、純粋すぎるんだ」




「そうかもしれないけど…、


さすがに学校はイジメの相談を無視できないでしょ。


アンタの担任たちがどんだけクソでも、学校自体は……」





前回のことも踏まえて、考える。




話し合い自体は、ほとんど無駄に近いヒドいものだったのだけど……




あの後、星野ヶ丘第一中学校は、意外にも進真のために動いてくれた。




その中心人物が、進真の三年生での担任だった先生。




不登校の進真とは会ったこともなかったのに、




うちのママと度々連絡を取っては気遣ってくれていたらしい。




そして、高校受験の時期が迫ってくると、




出席日数が足りない生徒でも受け入れてもらえる学校を熱心に探してくれた。




進真は学習面では何も問題がなかったので、




学校によっては特進科に入ることが出来るかもしれないとも教えてくださった。




そして、結果、進真は日ノ出学園高校の特進科に入ることが出来たのだ。




ママもあたしも、あの先生にはとても感謝している。




結局、進真は三年生になってから一度も学校へ行かなかったのに、




最後まで見捨てることなく協力してくれたのだから。




二年生の時、あの先生が担任であれば…。




上原良人が同じクラスであれば…と、今でも考えることがある。




中学での不登校がなければ、進真はきっとそれなりに優秀な高校へ進んで、




こんな有り様にはなっていなかっただろう。




もしも、今回の話し合いがダメだったら、進真は…。





「学校も同じようなもんだよ、きっと」





暗い調子で、進真は続けた。





「でも…無駄だとか言ったら、母さんに申し訳ないから。


今日は、行ってもらうようにしたんだ。


ほんとに最悪な息子だよ、俺」




「…そんなことない、アンタはママの自慢なんだから。


それに、話し合いがどうだったか、まだ分からないでしょ。


だから、信じよ…」




「俺が自慢なわけない!そんなわけないだろ!」




「…進真?」





いきなり大声を出した、進真。




次の瞬間、空がピカッと光って……ゴロゴロ、ドーン!




大きな雷鳴が響き渡り、あたしも進真も少しビクッとした。




外を見ると、雨は土砂降りになっていた。





「ママ…」





呟いた、その時。




玄関のドアが開いて、暗がりに人影が現れた。




…ママだ、ママに違いない。





「ママ!!」





玄関の方へ駆け寄っていくと、目の前の人影が二つになった。




ママの後ろに、何者かが立っていたのだ。




その人物は、こちらを静かに見下ろしてくる。





「……パパ?」




「ああ。ただいま」





久々に聞く、トーンの低い声。




ちょ…、急すぎでしょ!




今、一番会いたくない人が、帰ってきた!




我が家の冷血モンスター、マイ・ファザーだ!!!





「……」





呆然と立ち尽くすあたしの後ろから、進真がやって来た。




あたしと同じく戸惑った様子で、パパの方を見上げる。





「…父さん、」





パパは、息子の呟きに無反応。




代わりに、あたしに向かって言った。





「ママが大変だ…、タオルなどを持ってきなさい」





やっと気が付いた。




パパに気を取られて、ママを見ていなかったということに。




暗くてよく見えないけれど、ママがずぶ濡れなのは分かる。




それに、すごく具合が悪そうだ。





「ママ、どうしたの!?」





持ってきたタオルで体を拭いてやりながら、尋ねると。





「ダメだった」





ママは小さな声で言った。





「ごめんね…進くん」





次の瞬間、その体がぐらりと傾いて、あたしは悲鳴を上げた。





「ママ…、ママ!!」




「とりあえず、寝かせてやろう」





パパの冷静な言葉で我に返り、あたしはママを懸命に支えた。




進真が寝室の方へ行って布団を敷いてくれたので、その上にママを寝かせる。




服や髪が濡れているので、タオルと着替えを用意しなくちゃ…。




ああ、どうしよう、あたし何も出来ない!




パニックになっていると、ママがむくっと起き上がった。





「…夢ちゃん、ドライヤーを持ってきてくれる?」




「あ、うん!着替えは、ここにあるのでいいかな?」




「うん、ありがとう。ごめんね」





ママ、一体どうしちゃったんだろう。




何があったんだろう。




不安で、心配で、どうしたらいいか分からない。




パパまで帰ってきちゃったし…、こんなの予定に無かった!




ああ、神様、どうか助けてください(にわか信仰)。





……




聞いたところによると、




パパは結局ママのことが気がかりで、急遽帰ってくることにした。




話し合いには駆けつけられなかったものの、




ちょうど帰ってきていたママと、この宿舎の駐車場でばったり会ったらしい。




まあ、それは良しとして…。




パパ曰く、ママは駐車場で会った時点から顔色が悪かったそうで……




今、そうなった理由をママから聞いているところだ。





「夢ちゃん、進くんはどこ?」





布団の上で寝ているママから尋ねられ、リビングの方を確かめる。





「多分、自分の部屋に行ったかな」




「そう…。夢ちゃん、よく聞いてね」





なんだか、病気がちの母親と娘みたいだ。




そんなことを思いながら、ママの言葉に耳を傾ける。





「今日、ママなりに進真のことを伝えて、話してみたんだけど……


ちっとも聞いてもらえなかったんだ。


進真が中学生の頃より、先生たちの反応が酷くてね…ママは絶望した。


雨が降ってたのに傘忘れてて、精神的にも疲れてて……


もうクタクタなの」




「そんなに酷かったんだ?…話し合いの場にいたの、誰?」




「進真の担任の田代先生と、学年主任の先生と、校長先生と教頭先生」





…進真のネガティブ思考は、正しかった。




学校自体がクズだから、教師たちもクズしかいないのだ。




あたしは再び驚愕させられている……




校長と教頭がいても、聞き入れてもらえなかったなんて。




日ノ出学園高校は、イジメを黙認するどころか、揉み消そうとしているのだ!




これから、”二度目の悪夢”がどんなものだったか、お話ししようと思う…。




ママは、星野ヶ丘第一中での経験を踏まえ、非感情的に話をすることを意識した。




いくらおかしな発言をされても、決して怒りに囚われないよう…。




しかし、その努力には何の意味もなかった。




一年二組の担任・田代はもちろんのこと、学年主任の教師も、




校長と教頭も、全員が話の通じない”病人”だったからだ。




ママは、進真を巡るイジメの事実を訴え、




何とか解決法はないかと探ったけれど…。





『この学校は、確かに不良生徒が多いと言われますが、


それほど大きなイジメなどは起きていません。


息子さんが不登校になっているのは、何か他の理由からではないでしょうか』





などと、話の根底から否定されたという。




ちなみに、そう言ったのは教頭だった。




ママが中谷王我のことを持ち出すと、学年主任が言った。





『中谷王我という生徒について、特に問題はないと担任も言っておりました。


実際、他の生徒からの被害報告もないですし……


彼の人間性を疑う証拠はないかと思われます』





中谷王我と担任の清水は、禁断の恋愛関係なんだよ!!




とママも言ってやりたかったようだけど、そこは理性で口をつぐんだという。




…言ってやれば良かったね、今となっては。




教師と生徒が恋愛して、その関係でイジメの問題を悪化させたとか…




立派な失態ですよ。




どうやら、中谷王我の担任・清水は本当に男ウケがいいらしく……




話し合いの場にいた男四人も、彼女を信じ切っているようだったとか。




まさか生徒と恋愛関係を持っているなど、夢にも思っていないようだった…




と、勘の強いママが言うんだから間違いないだろう。




清純な仮面を被ったメス豚…、本当はそれが本性なのにね。




男ってほんと、バカだ!




ということは置いといて、




中谷王我には担任と恋愛関係という以外にも強みがあるらしい。




それは、警察である父親がバックにいること。




校長は、こんな説明をした。





『中谷王我という生徒の父親は、警察署のお偉いさんでしてね。


この日ノ出学園高校も、ずいぶんお世話になってきたんですよ。


あの方の息子がイジメなど卑怯な真似をするとは思えないですし…


何より、あの方の迷惑になることはこちらとしても出来かねます』




『迷惑?…息子はイジメを受けて、不登校になってるんですよ』




『まあまあ、原口さん、そう深刻に仰らないでください。


どうせ、子どもじみた悪ふざけだったに違いありませんよ。


そうなんでしょう、田代先生』





ママが言うには、田代は校長たちに圧をかけられているようだったという。




そのせいか、終始ビクビクしている様子だった。




校長の問いかけに対し、田代は頷いた。





『はい、担任の私もそう考えております。


イジメに繋がる言動なども見聞きしておりません』





そこで、ママは質問した。





『息子は、田代先生に何も相談しなかったのでしょうか?』




『ええ、はい』





田代はウソをついた。




周りからの圧でそう言うしかなかったのか、単なる自分の保身だったのか。




探りを入れたママも、これにはガッカリだった。




さらに、中谷王我がイジメの主犯であるということも認められず…。




話し合いは後半戦へ突入した。





『――原口さん。私たちはあくまで、問題を丸く解決したいのです』





そう校長は言った。





『なるべく穏便に済ませることが、お互いにとって良いでしょうからね。


くれぐれも訴えたりはしないでくださいよ』




『そんなことをするつもりはありません。


ただ、わたしは…


息子の件を先生方にもご相談して、これからのことを考えようと思っているだけで。


決して争うために来たわけじゃありません』




『そうでしょうな。お若いのに、しっかりしておられる』





校長の視線を気持ち悪く感じたママは、思い切って言った。





『はっきり言いますが…イジメは、あります。


息子自身からも話を聞いて、この高校に通う娘も知っていますし、


他の生徒からの情報もあるんです。


信じてくださらないんでしたら、もっと詳しくお話ししますよ』




『いいや、それは…』





教師たちは、露骨に面倒そうな様子を見せた。




イジメなどの問題によって、自分たちに負担がかかることを恐れているのだろう…




ママはそれを分かって呆れた。




けれど、イジメの存在自体を否定されたまま、引き返すわけにはいかない。




というわけで、粘った。





『中谷王我という生徒の存在を、同級生たちはみんな恐れています。


ですが、誰もどうすることも出来ない…


今の一年生は、学年自体が崩壊しているんです。


きっと今も酷いイジメが続けられていて、たくさんの子たちが苦しんでいる。


どうか、先生方、実態を見てください……お願いします』





ママの訴えに、教師たちは――





『…崩壊している、だなんて』





おかしそうに笑みを浮かべた!





『少々のトラブルがあったにしても、それは大袈裟かと思います。


たった一人の生徒が学年を崩壊させるとは思えませんし…』





ついに、ママはブチッときた。





『どうして、この状況で笑うことが出来るんですか?


どうして、何も信じようとしないんですか?


わたしは真剣に相談しているんですよ!』





すると、校長と教頭と学年主任は、ますます笑みをこぼした。




田代だけは、ママが何を言うかが不安だったのか、引きつった顔をしていた。




ママは、自分がイジメを受けているかのような感覚に陥った。




そして、抑えられない怒りに襲われた。





『…先生方に適切な対応をしてもらえなかったことが、悪化の原因です』





とうとう、思っていたことを口にした。





『息子は助けを求めたのに…、手を差し伸べてもらえなかったんです。


それで、全てが悪い方へいきました。


息子は、問題児たちだけでなく、先生たちからもイジメを受けたのです。


わたしは母親として、あの子がなんとか学校に戻れるようにしてあげたい…


そう思ってここに来たのですが、無理なんじゃないかと思えてきています。


あの子はただでさえ傷を負っているのに、先生方がこんな風じゃ……


正直、絶望しかありません』





担任だけならまだしも、校長と教頭までもが真剣に請け合ってくれない。




そんな学校に再び息子を通わせようとは、ママはどうしても思えなかった。




一年生のうちに問題が発覚して、逆に良かったのかもしれない……




なんとかポジティブ思考に切り替えようとしていると。





『その辺にしませんか、原口さん』





にんまりと笑みを浮かべ、校長が言った。





『あなたの思いは分かりますが、穏便に済ませようと言ったでしょう。


校長の私としても、この学校の評判を落とすような真似をされては困ります。


ですから、こちらも譲ってお話ししましょう』





そうして、驚くべきことを言われた。





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