(2)
……とは言ったものの。
やはり知らない方が良かったようだ。
最後がまた、かなりの爆弾だった。
今からお話しするのは、恐るべき宗教「希望の園」についてだ。
”希望の園とは、日本発祥の宗教団体で、
一九××年に
遠藤秀実は神の化身であるとされ、団体の教祖であったが、
その死後、娘の
国内における信者は数を増すばかりで、海外へも広がりつつある”。
この説明を見ただけで、嫌な予感はした……神の化身って何。
絶対ヤバいやつだなって予想ついたよね。
希望の園という検索結果には…。
{希望の園 ヤバい}
{希望の園 洗脳}
{希望の園 カルト}
{希望の園 家族崩壊}
こういった内容がずらりと並んでいた。
世間の人たちはみんな、あたしと同じように嫌な予感がしたんだろう。
そう思って、関連で出てきた記事をクリックしてみた。
[私の家族は、「希望の園」という宗教に壊されました。
希望というのは名だけで、あの宗教には絶望しかないと言っておきます。
私の母が、父の死をきっかけにあの宗教に入ったことがきっかけでした。
当初は母が明るくなっていたので安心していたのですが、
だんだんとおかしな言動が増えていき、
娘の私もあの宗教に入ることになりました。
姉は母と同様、あの宗教に陶酔していったのですが、
私はあの宗教の独特な雰囲気が怖くて堪りませんでした。
あの宗教を開いた遠藤秀実という人物は神の化身で、
人々を成功と幸福の道へ導いてくれると教えられました。
それだけでも違和感を感じていたのですが、
他にもたくさんのおかしな決まりがあって…
私は母と姉を連れて、あの宗教から脱け出そうとしたんです。
ですが、母と姉は頑なに私の言うことを聞き入れず、
私にはもっと信仰の力が必要なのだと言いました。
あんなに悲しんでいた父の死さえ、与えられた運命だったのだと言いました。
母と姉は、洗脳され、人格が変わってしまったのです。
結局、私は一人で、あの宗教を出ました。
母とも姉とも、あれきり会っていません。もう二度と会うことはないです。
とても辛いですが、ああいう形でしか、あの宗教と決別できませんでした。
皆さん、どうか、あの宗教には入らないようにしてください。
それまであった幸せまで失ってしまいますから…]
どこの誰が書いたか知らないけれど、家族崩壊というのは実体験の上みたい…。
この人、信仰を始めたことで孤独になってしまったんだ…
文面から悲しみと恨みを感じる。
まあ、希望の園でなくても、宗教が壁を作るということは言い切れる。
あたしの母方の祖母と伯母たちも、とある宗教に入っていて、
ママはそれが原因で家族との間に距離を作っているのだ。
本当はもっと一緒にいたいのだけれど、
信仰をしている人とそうでない人の価値観の違いは大きく、
家族であっても距離を取るほかない。
あたしも進真も、そういう状況を知っているので、宗教には警戒心がある。
でも、もしかすると、精神的に弱っている時なら別かも。
あたしの祖母は、この書き込みをした人の母親のように、
祖父の死をきっかけに信仰を始めた。
伯母は、伯父が病気になった頃に信仰を始めて……
あたしにもその遺伝子があるから、いつか同じようになるのかもしれない。
そんなことを考えると、とても怖くなってしまう。
人間は誰でも、宗教や洗脳と紙一重のところにいる。
希望の園や、その他多くの宗教団体は、そうして派生してきたのだろう。
迫り来る宗教、恐るべし!!
そう思いながらさらに見ていると、
希望の園についてのバッド評価がたくさん出てきた。
[希望の園は、日本の宗教の中で特にヤバい類]
[神の化身とか、マジでイカれてるw]
[教祖も信者も病気だと思います]
このように、滅茶苦茶に書かれている有り様だ。
《日本の危険な宗教》というページでも、希望の園が上げられていた。
まあ、いろいろな理由があるみたいだけど、
神の化身とかいう時点でアウトですよね。
遠藤虎男は、そんなクレイジーな世界で育ってきたのだろうか。
あの赤頭が神の化身とか言い出した時には、卒倒するかもしれない。
…よし、もういいだろう。
これで「イケヤンの闇」調査は終了だ。
「ん――!」
思い切り体を伸ばし、またベッドに寝転がる。
あー、なんか無駄に疲れた。
だって、虐待とか死んだとか…重い情報ばかりなんだもん。
頭の中の半分以上では”事実だろう”って思ってるから、
ショックもあって疲れてるんだと思う。
けれど、本当に事実だとすれば……
新木純成は母親から虐待を受けていて、
金城亜輝はもう母親を亡くしているということになる。
正直、ちょっとくらい不幸ネタがあってもいいとは思っていたけど…
これはさすがに過ぎるよ。
イケヤンに対して溜まっていた憤りが、少しだけ落ち着いた。
本当にそういう不幸があったのだとしたら、
あんな風に性格が捻じ曲がっても仕方ない。
今までずっと妬んできたけれど、初めて分かった気がする。
多分、イケヤンも、幸せばかりの人間じゃない。
だから、あんなにグレてしまったのだ。
もっと普通の環境で育っていれば、少しはマトモになれたかもしれない。
そう思うと、あたしって幸せだ。
自分の部屋のベッドで寝て、こんなにゆっくり過ごすことが出来ている。
――今、初めてイケヤンに勝った気がした。
「……」
今さらだけど、本当はこうしている場合じゃないんだ。
アナの写真を見たり、メタルを聞いたり、
イケヤンのあれこれを調査していたのは…ただ気を紛らわせるため。
…昨日、実は。
家に帰ってから、ママと今日のことについて話をした。
『夢ちゃん、明日、ママ一人で日ノ学高校に行くことになったから。
進くんをよろしく、ちゃんと留守番しててね』
そう言われ、あたしは即座に質問した。
『パパと一緒に行かないの?』
すると、ママは浮かない顔をして答えた。
『一応、パパには連絡してみたんだけどね。
仕事があるし、急に休んだり出来ないから、ママ一人で行くことになったの。
パパは一緒に行こうかとも言ってくれたんだけど…ママが断った。
だって、パパは進真の問題にさほど関わってないでしょ。
だから、どっちみち自分一人で行かなきゃと思ってたんだよ』
そう言いつつも、ママの表情は曇っていた。
もうパパに期待するのをやめてしまったのかもしれない…と感じた。
昔から、あたしと進真を全面的に支えてきてくれたのはママだった。
パパは、そんなママを手伝おうともせず…。
『父親失格ですね』
そう言ったら、ママは悲しげにあたしを見た。
そして、言った。
『夢ちゃん…、いつもパパのこと聞かせてごめんね。
こういうことを話せる親友でもいたら良かったんだけど。
いつも聞いてもらって本当に助かってるよ、ありがとうね』
『…いいよ、別に』
あたしは、ちゃんと自分で見て考えて、パパのことを判断している。
ママから聞いた話の影響がゼロとは言い切れないけど、
あたしがパパを嫌っていることの原因がママにあるわけではない。
それに、ママはパパと結婚してから、
しょっちゅう引っ越しをするようになったので、
そのせいで地元の友達とも疎遠になってしまった。
ああ見えて、交友関係に積極的なタイプでもないし…
ママには心の内を話せる友達がいないのだ。
だから、娘のあたしが話を聞くぐらいしてあげないといけない。
だって、あたしは…
『さすがは心の友よ』
そう、ママの娘であり、心の友でもあるのだから。
あたしにとってのママも同じ。
ね、あたしとママ、本当に仲良しでしょう。
ママがいなくなったらどうしよう……そう思うくらい、心から愛してるんだけど。
実はママにも、”イジメ”という暗い過去がある。
部活で先輩たちから伝統的な洗礼を受けたり、
イジメられていた子をかばってクラス中で無視されたり、
モテることを妬まれて嫌がらせを受けたりと……
実はかなりドラマ的な壮絶人生を送ってきていた(!)。
だから、結婚してからは特に、友達を作ったりすることを避けるようになったのだ。
なんか、こうして改めて考えると…、あたしと進真はママによく似たんだね。
進真はイジメられる運命を受け継ぎ、
あたしは友達を作らないという選択を受け継いだ。
進真の不登校にも、あたしの孤独にも、ママは理解が良いけれど…
遺伝的なものもその理由と思われる。
と、まあ、実は話はこの辺にして…。
あたしは不安だった。
『明日かぁ…どんな感じの話し合いになるのかな。
ママ、本当に一人で大丈夫?』
日ノ出学園高校は、きちんと話し合いに応じてくれるのか。
信じたい部分もあったけど、どうも嫌な予感がしていた。
なぜなら、すでにママは学校との話し合いで地獄を見ている。
進真が中学で不登校になった直後のことだ。
ママは、星野ヶ丘第一中学校へと出向いていた。
ちなみに、その時も、パパは一緒に行かなかった……
ちょうどその頃、ママと揉めていたからだった。
話し合いの内容より先に、
中学時代の進真を巡るイジメに後日談があったことを話さなくちゃいけない。
あたしとママが、どうやってイジメの事実を知ったか。
それは、ある人物が教えてくれたからだった。
『…進真に、”待ってる”って伝えてもらえますか』
そう言って鼻を啜っていた…彼の名は、上原良人。
不登校になるまで、進真が最も仲良くしていた子だった。
上原良人は、ある日突然、我が家を訪問してきた。
あたしはその時、部屋にいて……玄関でママと彼が話しているのを聞いていた。
上原良人は、自分が事実を伝えたせいで進真が不登校になってしまったと、
同じ部活にいながら何もしてやれなかったということを悔やんでいるようだった。
彼の苦しげな声は終始震えていて、ママもだんだん涙声になっていった。
『教えてくれてありがとう…』
真相を全て聞いた後、ママはお礼を言った。
『きっと、相当な勇気を出して来てくれたんでしょう。
本当にありがとうね』
あたしは、しばらくの間、衝撃から抜け出すことが出来なかった。
阿部奏志のことは、小学生の頃から知っていた。
進真を「デブ」や「豚」などと言ってイジメていた憎き悪ガキで、
一度あたしは注意をしたこともあった。
それなのに…より酷いやり方で、再び進真をイジメたのだ!
こんなことになるくらいなら、いっそあの時ボコボコにしていれば良かった…
と、後悔が胸に沁みた。
その上、さらにショックだったのが…
進真の友達だったはずの長谷川燿による裏切りだった。
あたしでもこんなにショックなんだから、進真はどれほどしんどいだろうかと、
思わずにいられなかった。
長谷川燿がイジメに加担した理由は、妹の長谷川灯が進真にフラれたからだった。
また、阿部奏志が再び進真をイジメた理由も、
長谷川灯と進真の関係に嫉妬したせいであり…。
長谷川灯って女は何なんだ、疫病神か、とあたしは思った。
少なくとも「悪女」と言える。
そんな女に好かれてしまったことが、進真の運の尽きだったのだ。
うーん、今考えてもムカムカが爆発しそうだ。
なんで、あたし、星野ヶ丘第一中を爆破しなかったんだろう。
ママが経験した”悪夢の話し合い”を考えれば、テロでも起こすべきだった…。
上原良人が訪れた日の夜、あたしとママはショックを分かち合った。
あたしもママも、進真の様子がおかしいとは感じていた。
けれど、二人とも何の力にもなれなかったばかりか、
進真はあたしたちに相談一つしてくれなかったのだ。
それがショックだったし、悲しくもあった。
『家族って、何なんだろうね』
そう呟いてしまったほどだ。
しかし、ママは落ち込んでいたのが怒りに変わっていた。
『良人くんは、進真の件を先生にも相談してみたらしい。
ということは、先生たち、進真がイジメを受けているのを知ってたんだよ。
なのに、未だに何の連絡も無いってどういうことなのかね。
生徒のことを、知らぬ存ぜぬってわけ?』
うちのママは、本気でキレると手が付けられない。
次の日、朝早く、ママは星野ヶ丘第一中へ電話を入れた。
あたしも寝つきが悪く、いつもより早く目が覚めたので…
ママが話すのを聞いていた。
『息子がイジメを受けていたこと、知っていらしたんですよね?
それなのに、生徒の方が先に打ち明けてくれて、
先生方が何の動きも見せないとはどういうことなんですか?』
もっと言ってやれ、と思った。
あの中学校には良い思い出などほとんど無いので、
あたしとしてはなくなってもらっても構わなかった。
けれど、わりと早い段階で、ママの調子は穏やかになった。
『今回のことは、先生だけの責任じゃありません。
わたしたち親の責任でもあって、
もっと早く気付いてあげられたら良かったんですけど…。
先生方には、もう今後、進真のような生徒が出ないよう、
見守っていただけたらと思っています』
後から聞いてみれば、進真の当時の担任は、
『私の指導不足で、本当に申し訳ありません』
と謝罪した後、
『なんとか、進真くんに、また学校に来てほしいんです』
などと言っていたそうだ。
もちろんママだって、進真がまた学校に戻ることを期待していた。
というわけで、後日、
ママは話し合いのため、星野ヶ丘第一中学校へと向かったのだった。
そして、”悪夢”を経験することになる。
話し合いの場に集まったのは、うちのママと、進真の担任の先生、
阿部奏志の母親、長谷川燿と長谷川灯の両親、長谷川燿の担任の計六名だった。
悪夢は、すぐに始まった。
『うちの息子は気が弱いんですよ、原口さん』
阿部奏志の母親は、これを繰り返した。
『イジメなんて出来るわけがありません』
そりゃあ、ママはカチンときたに違いない。
まず、こう言ってやったそうだ。
『過去のことをいつまでも言う気はありませんけど、
息子たちが四年生の頃の担任だった黒木先生を覚えてらっしゃいますか?
今でも連絡先を知ってますから、
ぜひ息子さんが周囲の生徒とどうだったかを確認してみてください。
わたしの息子は、しょっちゅうあなたの息子さんから暴言を吐かれたり、
暴力を振るわれたりしていたんですよ』
『そんなこと、あるわけ…』
『確認してくださいと言っています』
それ以降、阿部奏志の母親の態度はガラリと変わった。
まさに、その姿はイジメっ子の母親そのものだった。
『ご自分と息子さんが被害者だと思ってらっしゃるようだけど…
それはどうなんでしょうねぇ。
息子は、むしろあなたの息子さんから意地悪されたと言ってましたのよ。
おまけに、あなたの娘さんからも理不尽なことで責められたとね。
一体、どういう教育をされてきたんですの?』
思わぬことに、あたしと進真を悪く言われ、教育方針まで疑われたママ。
それまで我が子を悪く言われたことは一度もなかったので、動揺したものの、
阿部奏志の母親の発言はママの怒りに油を注ぐこととなった。
『わたしはあの子たちの母親として胸を張って言えます。
わたしの娘と息子は、決して人を傷つけたりしないし、
理由なく相手を責め立てたりもしません!
娘は弟がイジメられていることに腹を立てて、
あなたの息子さんに注意しただけです。
それを、よくも…先に自分たちのことを反省してください』
『偉そうに仰るけれど、どこからその自信がきてるんです?
私だって、自分の息子のことを分かった上で言ってるんですのよ。
それを聞き入れようともしないあなたの方が、よっぽど非常識だと思いますけどね』
『わたしはつい最近まで、専業主婦としてあの子たちを育ててきました。
過保護とも言われますが、ほとんどの時間を子どもたちと過ごしてきたんです。
働く女性を推奨している世の中なので、絶対に批判されることは承知ですが…
生活苦でもないのに働いて、息子を放置状態のあなたよりは、
はるかに子どものことを分かっています。
ヨガとかに行っている暇があったら、もっと息子さんと向き合ってください』
『…ハッ!何ですって?』
阿部奏志の母親は、顔を真っ赤にした。
怒り任せだったのか、次の瞬間、こんなことを口にした。
『何よ、障害の子どもの母親のくせに…!』
『…はい?』
『あんたの子ども二人とも、特別支援学級に在籍してたでしょう。
息子は自閉症で、娘は学習障害だって、ウワサで聞いたけど…
母親のあんたに原因があるんじゃないの?
そうだとしたら、子どもたちが気の毒ねぇ!』
ママは、一瞬、頭の中が真っ白になった。
自分でも気付かないうちに、阿部奏志の母親の方へ詰め寄っていたけれど……
先生たちから押さえられ、止められた。
『阿部さん、原口さん、お互いに落ち着きましょう。
冷静にならなければ、話し合いになりませんよ』
進真の担任と長谷川燿の担任はそう言ったけど、その言い方には人情味が無く、
ママの怒りが静まることはなかった。
ママと阿部奏志の母親、双方が平静を取り戻した頃、
再び話し合いが再開されたが…。
『燿は、妹思いの子なんです。
だから、灯を無下にされたのが許せなかったんだと思います』
長谷川兄妹の両親も、マトモに話し合える相手ではなかった。
阿部奏志の母親との共通点は、自分の子どもの”非を認めないこと”。
むしろ、進真の方が悪いのだという言い方だった。
『ああ、もう、これ以上話せません。燿と灯が可哀想で…』
そう母親が言った後、父親はこんなことを言った。
『灯には、もっと異性を見る目を養わせないといけないな。
働く女性を否定する母親に育てられた息子など、話になりませんからね』
非常に険悪な雰囲気だった。
その場にいた教師たちも気まずそうにしているだけで、
とても話し合いなど出来なかった。
ママは、立ち上がり、最後にぶちまけてやることにした。
『皆さん、もう二度とお会いすることはないでしょうから言いますね。
まず、阿部さん。
今日、こうして話してみて、
あなたの息子さんがイジメっ子である
母親のあなたが人の痛みを分かっていないから、
息子も色恋なんかで人をイジメる人間になったんです。
ヨガをする余裕がある時は、その辺のことをよく考えてみてくださいね』
阿部奏志の母親に向けて言った後、次は長谷川兄妹の両親の方へ向き直った。
『それから、長谷川さん夫婦。
わたしの息子が娘さんを適当にあしらってしまい、申し訳ないと思っています。
でも、それは、息子も圧力をかけられていたからなんです。
それがなければ、絶対に、息子はそんな態度を取らなかったと確信があります。
それに、息子さんが妹思いというのはいいですが、
だからといってお友達をイジメても良いということにはなりません。
あくまでイジメを受けたのはわたしの息子ですから、
くれぐれも勘違いはしないようにお願いします』
そして、最後は、教師たちに向かって言った。
『せっかく話し合いの場を設けてくださったのに、本当にすみません。
でも、これじゃあ、話し合いなんて出来そうにありませんので…
もう帰らせていただきます。
きっと、息子はこの学校へは戻らないと思うので…
短い間でしたが、お世話になりました。
それでは、さようなら』
そして、ママは、星野ヶ丘第一中学校を後にした。
正しいといえるのかは分からないけど、よく一人で頑張ったと思う。
でも、多分、泣いて帰ってきたんじゃないかな……
その日、あたしが高校から帰宅すると、ママはしくしくと泣いていた。
話し合いはどうだったのかと尋ねると、涙ながらに答えてくれた。
何も解決せず、むしろ悪化して、散々バカにされた。
初めはよく分からなかったけど、だんだん理解するにつれ怒りが湧いてきた。
…よくも、うちのママを泣かせやがったな。
本気で殴り込みに行ってやろうと思ったけど、ママから必死に止められた。
『夢ちゃんにも進くんにも、これ以上、傷ついてほしくない!
ごめんね、夢ちゃん、ママが悪いの』
ママは、かなり打ちひしがれた様子だった。
『ママ…どうしちゃったの?』
尋ねてみて、分かった。
ママは、あたしと進真を悪く言われたこと、
母親としての自分を否定されたことに傷ついていたのだ。
さらに、だいぶ経ってから、
あたしと進真の”事情”についても言及されたことを知った。
あたしは、傷ついたママの肩を抱き寄せることしか出来なくて……
もうママを一人では行かせられないと思った。
せめてパパが一緒にいてくれたら、少しは違ったかもしれない。
けれど、今回も、パパは一緒に行かなかった。
『…あたしが、一緒に行こうか?』
気乗りはしなかったけれども、一応言ってみた。
また泣かされそうになったら、あたしが
けれど、ママは首を横に振った。
『ううん、大丈夫。進くんと留守番してて』
あたしの不安な気持ちが伝わったのだろう…、ママはこう付け加えた。
『前の時みたいに、感情論で自滅したりしないから。
冷静でいることを意識して、もう一度頑張ってみるよ!』
そして、今日、ママは一人で日ノ出学園高校へと出掛けていったのだ。
そういうわけで、あたしは(進真と)留守番中である。
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