《特別エピソード》経緯、そして…(1)
近頃、来登の調子が悪い。
一昨日、アイツが倒れて……
死ぬかと思った。
アイツがというより、俺が…。
だから、昨日は、学校を休ませたかった。
しかし…
『嫌だ!』
アイツは…、来登は聞かなかった。
『俺のことは、俺が決める!口出しすんなよ!』
純成と亜輝と虎男も、言い聞かせようとしていたが…無駄だった。
ったく、自分勝手なヤツだ。
人の心配を無視しやがって…こんなヤツが弟だとは。
そう思いながらも、仕方なく頷いた。
その後、
さすがにバイクを運転させるのは危険だと思い、俺の後ろに乗れと命令した。
が、来登はそれも聞かなかった。
『俺には自分のがあるんだよ。だから、いい!』
俺はムカッときた。
この命令が聞けないなら、学校は休めと言ってやった。
すると、来登は、俺を無視して自分のバイクに跨った。
俺が怒鳴ると…
『大丈夫だから、俺を信じろよ!』
そう言ってきた。
お前のことは信じてる、でもな…心配なんだよ。
そう直接言えたら――、しょっちゅう争わずに済むんだろうか。
『安全運転は心掛けるから!』
来登の懸命な様子に、純成も亜輝も虎男も根負けしたようだった。
亜輝と虎男は来登の両脇に並び、
純成は俺を説得しようとするように言ってきた。
『俺らもついてるから、そんなに心配ばっかするなよ。
来登自身が大丈夫なら、俺らはついて行くしかねぇだろ』
それを聞いて、思った。
そうだな、事故った時はその時だ。
来登のことになると心配性になりがちだが、俺もそろそろ変わらねぇとな。
俺がもう少しでも心配しなくなりゃ、兄弟関係も穏やかになるはずだ。
ということで、俺は来登のバイク登校を許可したのだった。
下校時も特に問題はなかったが…。
家に帰ってから、しばらくして、来登の様子がおかしくなりはじめた。
ダルそうに寝転がっているかと思いきや、ハアハアと荒い呼吸までしだして…
現場はパニック状態と化した。
だが、来登は普通に話すことが出来た。
『ちょっと疲れたのかもな…分かんねーけど』
ふと口にした言葉。
いつも強気で、前向きなアイツにしては珍しい発言だった。
その時、亜輝が呟くように言った。
『原口夢果め、この状態を見ても同じことが言えるのか?』
すると、来登は明らかな反応を見せた。
腕で顔を隠し、こう言ったのだ。
『そのこと、もう言うなよ…マジで』
俺の耳にも、その声は悲しそうに聞こえた。
純成と亜輝と虎男と目が合った。
『でも、原口夢果は悪くねぇから…』
来登は続けた。
『悪口言ったりとか、すんなよ。
からかったりするのもナシ。
だって、もう終わったことなんだから』
それからしばらく、俺は来登の
来登はもちろん望んでいなかったが、文句を言っている間に眠ってくれた。
来登の部屋から出ると、純成と亜輝と虎男がいた。
三人とも暗い顔をしていた。
”来登は大丈夫だ”と俺が言うと、揃って安心したように頷いた。
さすがは兄弟、
コイツらも来登を本当の弟のように思ってくれているのだと実感した。
が、それも束の間、亜輝がこんなことを言い出した。
『提案なんだけど…明日、原口夢果ともう一回話してみね?
なんか今のままだとモヤモヤするしさ』
『来登が元気を取り戻すかもしれない、そう言いてぇんだろ?』
虎男が付け加え、亜輝は頷いた。
『来登は明らかにショックを受けてる。
その上、体調まで優れなくて…あまりにも不憫だと思わねぇ?
アイツがちょっとでも元気出してくれるなら、俺は何でもしてやりたい』
亜輝が言いたかったのは…
原口夢果ともう一度話し合い、再び接点を持たせることで、
来登を元気づけてやりたいということだった。
原口夢果から絶縁を告げられたことが、それほど大きなショックだったのか。
そして、原口夢果と和解することが出来れば、来登は元気になるというのか。
それらについて、俺は考えてみた。
だが、正直、あまり納得できなかった。
来登の言う通り、原口夢果とのことはもう終わったのだ。
それに、来登には俺らがいる。
たった一人の女と縁が切れたくらいで、絶望することはねぇだろう。
しかし、亜輝から言われた。
倒れた騒動の後、来登は原口夢果の話ばかりしていた。
今日だって、原口夢果と話している時は格別に楽しそうだった、と。
…確かに、そうだった。
来登はいつも元気だが、あの女―原口夢果―と接している時は…
特に陽気で、生き生きしていた。
つまり…、と俺は考えた。
来登にも、そういう相手ができたということか?
『兄貴たちに心配されてばっかの人生には、もう飽き飽きだろうし…
そろそろ青春させてやりてぇんだよなー』
亜輝は言った。
『まあ、俺は、俺らの可愛い来登がB専じゃないことを願うだけだ。
きっと、倒れた時以来、原口夢果が女神にでも見えてんだろうな』
女神…。
虎男が吹き出した。
『だとしたら、フィルターがヤベェな。
来登がそんなバカだったとは…!』
すると、純成が不快そうに言った。
『くだらねぇことを言うな。
来登はバカでもB専でもねぇし、
あんな無礼者(原口夢果)にもう一度チャンスを与えるなんて馬鹿げてる』
亜輝が言い返した。
『でも、来登のためなんだぜ?
今日、アイツの楽しそうな様子を見たろ』
純成は頑なに否定を続けた。
『お前の言ってることはおかしい。
なぜ、そんなに原口夢果が必要なんだ?
高校生には青春が必要ってか?俺はそうは思わないね。
いいじゃねぇか、こうして俺ら五人でいれば』
『確かに、そうも思うけど…。
ずっと、このままでいられると思うのか?』
亜輝の真剣な問いに、その場の空気が変わった。
『…何が言いてぇんだ?』
純成が尋ねると――
『今は、子どもの頃とは違うだろうけど…
またいつ引き離されるか分からねぇよ?
それに、来登がちゃんと長生きできるのか…不安で仕方ない』
ドクン、と心臓の鼓動が聞こえた。
純成と虎男も戸惑っている様子だった。
これまでのことを走馬灯のように思い出した―――
俺と来登を巡る、ある事実の発覚。
俺らを変えた、一つの死。
俺ら五人の、出会いと、別れ。
―――まるで悪夢のような子ども時代、そして…
これまで何とか理解して、受け入れてきた、
来登の病。
俺らは、いつも頭の片隅で考えてきた…
来登はどうなっちまうんだろう、と。
『バカなこと言うなよ』
虎男が言った。
『俺らは、もう自由の身だ。
あと、来登は長生きする。絶対だ』
珍しく神妙な、そのテンションに…
さすがの亜輝も文句を言えないようだった。
『だよな…。ごめん、変なこと言って』
そこで、ようやく俺が言った。
『俺らは、もう何にも翻弄されない。
来登のことも…大丈夫だから、心配するな』
純成も亜輝も虎男も、俺をじっと見た。
させて堪るか、と俺は思った。
もう何者にも手出しさせねぇし、来登だって…
早死にするとは限らねぇだろう。
だが、最近、心配が大きくなっているのは事実…。
俺らは、常に気を揉んでいる状態なのだ。
しかし、誰にも、それを知られてはいけない。
来登の抱える病に関しては、基本、非公式だからだ。
それを知るのは、
(来登自身を含め)俺ら五人と、高橋家の人間だけなのである。
『敬悟…一番辛いだろうに、マジごめん』
『俺は平気だ。気にするな』
『…で、どうする?』
『……』
『来登のことが一番の理由だけどさ、
あの女がなんであんなことを言ったのか…ちゃんと聞きたいんだよね』
『友達なんていらないと言ってたぞ。
あと、注目を浴びたくねぇとか、なんとか…』
『それだけじゃない気がするんだよ。
それなりに楽しく話せてたしさ、あんなに強行で言う必要あったのかねぇ』
俺は、一旦、この件を保留にした。
さきほども言ったが、原口夢果との話はもう終わったことであり…
もう一度話し合う意義がイマイチ感じられなかったからだ。
来登本人が(一応)納得したことなのに、俺らがそれを蒸し返す必要があるのか?
それに、正直…
弟のためとはいえ、
よく知りもしない女に、頼み事とも取れる話を持ち掛けるなど気が引けた。
そうだ、これは俺のプライドの一種だった。
しかし、あることがきっかけで、それは崩れ落ちた。
制服のポケットに、二つの鍵が入っていたのだ。
俺のクラス(九組)と、原口夢果のクラス(八組)のもので……
原口夢果が帰った直後のことを思い出した。
八組の鍵は来登が返しに行くと言い張っていたんだが、
原口夢果とのことで意気消沈している弟には任せない方が良いだろう、
と俺は判断した。
そういうわけで、
結局のところ、俺が八組と九組の鍵を職員室へ返すことになったのだが……
見事、忘れていたということに、今さらながら気が付いたのだった。
それを知って、亜輝は満足げに笑いやがった。
『俺がわざわざ言わなくても、明日会うことになってたんだな。
鍵を返すついでに、パパッと話しちまえばいい』
ということで、来登を除いた四人で話し合った。
俺は、自分の中の礼儀上、
直接きちんと鍵を返しに行かねばならないという考えに変わっていた。
つまり、原口夢果と話をすることにしたのだ。
虎男は、意外にも
来登が”何もすんな”と言っていたのを気にしていたからだった。
が、亜輝の言葉によって、気にしなくなった。
『来登は単に強がってるだけさ、心の中ではどうにかしたいと思ってる。
俺たちが、アイツを手助けしてやるんだ。
虎男、お前がちょっと手荒にやれば、原口夢果は言うことを聞くよ』
亜輝には作戦があるようだった。
原口夢果は気難しそうな女なので、
手分けしていろいろな方法を試してみるというものだった。
『俺は、とりあえず、歩み寄りながら話をする。
女は優しさに弱いからな。
でも、もし態度が悪かったりしたら…虎男が懲らしめてやれ。
あんまり聞き分けがない時は、敬悟が威圧的に接する……
これで、さすがに反抗は出来ないだろうよ』
俺と虎男は、わりと素直に聞いていた。
亜輝は、俺らの中で最も知能的だし……
俺ら二人とも、その指示通りに出来る自信があったのだ。
虎男は何といっても”暴力”のシンボルであり、
これまでの経験上、
俺の威圧でビビらせることの出来ない相手など存在しなかったからである。
しかし、不満そうな男が一人。
『…純成は、たぶん逆効果だろうからな。来なくていいよ』
『行きたいわけではねぇが、それも気に入らねぇな』
ひとまず、俺と亜輝と虎男で作戦を実行する予定となった。
そして、当日(今日)――
体調がまだ優れない来登は学校を休むことになり、
作戦に参加しないはずだった純成が土壇場になって言い出した。
『俺も一緒に行く』
じゃあ、仕方ねぇな、ということで…。
来登には何も言わず、
俺らは通常通りに高校へと向かったのだった。
…まずは、詫びを言い、なるべく丁重に話をする。
それでも聞いてくれなきゃ、俺の威厳とプライドで何とかする。
それで上手くいくはずだった、しかし――。
「……」
完全に失敗した。
原口夢果を説得できなかったばかりか、俺のプライドまで粉々になるという、
最悪の結果になっちまった。
これじゃあ、昨日のまま終わっていた方が、よっぽど良かった。
昨日と比べ、さらに溝が深まった気がするし…
俺が自ら言った――
二度と接点を持たない、と。
なぜなら、あの女が…それを望んだからだ。
俺らと関わるくらいなら、死ぬ方がマシなのだと……
そこまで言われて、縋りつく奴がどこにいる?
個人的に、「死」という言葉を使われたことが、どうしても許せなかった。
俺の弟は、毎日を懸命に生きているというのに…。
何があって、あんなことを言ったのか知らねぇが……
俺には理解が出来なかった。
正直、腹が立ったような部分もあったが…来登の顔がちらついた。
だから、プライドを放り投げ、
何の手も出さずに話を終わらせてやったのだ。
「……」
純成と亜輝と虎男も、それぞれ言いたいことがあるようだが……
とりあえず、おとなしく弁当を食っているところだ。
今、俺ら四人は、ある
ここは、元々、美術室として使われていたらしいのだが…
今では俺らの休憩所になっている有り様だ。
俺らの休憩場所といえば、ここの他に、あと一ヵ所だけ存在する。
この高校のあらゆる場所の中で、最も天空に近い…
そう、屋上だ。
昼休みになると、このどちらかの場所へ行き、
飯を食うというのが習慣である。
周りの生徒たちはそれを理解しているのか、
誰一人として、俺らの休憩場所に立ち入ろうとはしない……
もちろん、好都合だ。
なぜなら、俺らは、基本的に周囲との関わりを避けているから。
そのことを考えると――、
今日の俺らの行動は異常としか言いようがない。
普通科の女に対し、自分らの方から話しかけるなど……
「ハア」
考えていた矢先、亜輝が大きな溜め息を吐いた。
手持ちの鏡で自分の顔を映しながら、誰に言うともなく呟く。
「この色男を嫌いだなんて…絶対、おかしいよな。
初めて出会ったわ、あんな女」
俺と純成と虎男は、呆れて目を合わせる。
また始まったぞ、自惚れ発言が。
「ああ、ガチで調子狂う…。
どうすりゃ良かったって言うんだよ?」
「お前、そうしてたら変態と思われるぞ。
ブツブツ言ってねぇで、さっさ鏡なんか仕舞えや」
いつもなら、ここで定番の喧嘩が始まるだろう。
だが、今日だけは例外らしい。
「…マジでやらかしたぁー。
こんなことになって、来登に合わせる顔がねぇわ」
虎男の肩に手を乗せて、亜輝は言う。
「俺の考えが甘かったな…
女なら誰でも簡単に扱えると思い込んでた」
「つくづく、女関連になると嫌な奴だな」
「だって、あんなタイプは初めてなんだよ。
まさか面と向かって言うとはな、”存在が迷惑”とかさ。
俺、フツーに傷ついたわ!」
傷ついた……
恥も外聞も無しに言えば、
そういうところも少しはあったかもしれない。
この高校に入ってからというもの、
俺らは周囲から気を遣われてきた(と、自覚している)。
さまざまな悪評を流されることはあっても、
目の前で非難されたことはなかったのだ。
だから、正直、衝撃的だった。
俺の威圧をもってしても、従わない女がいたとは…。
「でも、俺の計画、そんなに無謀だったか?
優しさ・強引さ・厳しさ、
必要な要素をふんだんに盛り込んだつもりだったんだけど」
俺と同じく、亜輝もプライドが傷ついたのに違いない。
今朝のこと(原口夢果問題)を、今も引きずっている様子だ。
実のところ、俺もそうである……
「うわあぁぁぁぁ!来登ぉぉぉぉぉ!!」
朝からずっと、弟の名を叫んでいる状態なのだから(心の中で)。
悪かったな、来登…
お前のためと思ったのに、逆に最悪なことになっちまった。
お前の言う通りなのかもしれない……
俺は、馬鹿な兄貴だ。
しかし、いつまでも
「亜輝、考えたのはお前だが、その計画に従ったのは俺らだ。
最終的に見切りをつけたのは俺だし、お前が気にすることはねぇよ」
俺は、如何にも長男らしく言った。
「ただ、来登には…何も言わねぇでいてやろう。
言ったところで、無駄に傷つけるだけだろうからな」
純成と亜輝は、迷わず頷いた。
「それがいいだろうな。あの女の件は無かったことにしよう」
「来登には、もっとイイ相手がいるはずだ。俺が見つけてみせる!」
俺は、腕を組んで座っている赤いヤツに注目した。
「虎男、お前も賛成だろ?」
「…んー」
虎男は、頭を掻きながら言った。
「来登、キレねぇかな?
自分だけに秘密にされるのとか嫌いだろ、アイツ」
思わず、笑みがこぼれた。
コイツ、そんなことを考えていたのか。
こう見えて、意外と繊細なヤツなのだ。
「それは大丈夫だ。
もう原口夢果と関わることはねぇし、黙っていれば済む話だろう」
俺が言うと、虎男は不満そうに頷いた。
何が気に食わないというのだろう。
「…俺ら、」
虎男は言った。
「原口夢果に、ちょっと言い過ぎたかもな。
…そりゃあ、あの女だって好き勝手に言ってたけどよ」
純成からの氷のような視線に気が付いたのだろう、
咄嗟に言葉を付け加えた虎男。
案の定、純成が口を開いた。
「虎男、お前、とうとう気が変になったのか?
俺らは、あの女に対して、正当なことを言ってやっただけだろ」
虎男は首を傾げた。
「俺だって、納得いかねーし、ムカつくけどよ…もう少し話し合いたかったんだ。
アイツは女たちに嫉妬されてることを黙ってるのかもしれねぇし、
本気じゃないことも言ったんじゃねぇかと思って。
でも、お前らが否定ばっかするから…」
「俺らのせいだって言いてぇのか?」
純成と亜輝が反応し、虎男は立ち上がった。
「亜輝はいっつもウゼェから慣れてるけどな、純成!
お前は、少々、原口夢果にだけキツすぎるんじゃねぇか?
そのせいで、余計に空気が悪くなっただろうがよ!」
純成も立ち上がった。
「何だと…?」
さらに、亜輝までもが立ち上がった。
純成と虎男の間に入るのかと思いきや…
「そうだ、純成!だから来なくていいっつったろ!」
純成に対し、追い打ちをかけはじめた。
「俺と虎男と敬悟は、計画通りに進めるつもりだったのに……
純成がいたから挫折したんだ!
ということで、この責任は純成に…」
だが、最後まで言わせることなく、
純成は亜輝と虎男に掴みかかった。
「お前ら、俺の仲間だろ?」
純成の言葉に、亜輝と虎男は素早く頷いた。
「当たり前だろ!」
「じゃあ、なぜ俺を否定するんだ?」
その問いに、虎男が答えた。
「お前に変わってほしいからに決まってんだろ。
お前の周りにいた女が悪かっただけで、全ての女が悪いとは限らねぇんだよ。
少しずつでも乗り越えていけよ!」
すると、純成は首を横に振った。
「そんなことを言われる筋合いはねぇ。
それに、俺は、原口夢果という人間が気に入らねぇんだ」
殺伐とした雰囲気。
このままだと、喧嘩になりかねない…
そう判断した俺は、立ち上がり、純成の肩に手を置いた。
「その辺にしねぇか、お前ら。
顔に傷なんて作ったら、来登が何があったのかって聞いてくるだろ。
なるべく平穏に過ごそうと、そう約束したよな?」
俺ら五人の中で、最も平和的なのは来登だ。
俺にだけは常に反抗的だが、
喧嘩っ早い俺ら四人を和ませてくれる存在といえる。
今日みたいに来登がいない時には、
この俺が気を張っていなくちゃならねぇから…
多くの意味で、アイツにはいつも元気でいてほしいと、
そう願っている。
「…次また同じことを言ったら、海に突き落としてやるからな」
純成はそう言って、亜輝と虎男を放した。
やっぱり、コイツは「来登ワード」に弱い。
例えば原口夢果に対してなど、他人にはかなり辛辣な人間なのだが、
実は来登にだけは比較的甘いところがあるのだ。
実の兄から見ても、たまに「甘やかしすぎなのでは」と思うことさえある。
亜輝と虎男も、来登に優しいが…
どちらかというと親友のような存在に近いだろうと思う。
特に虎男は、来登の遊び仲間としても最適だ。
俺と来登の間には、微妙な距離があるが…――
俺ら五人はそれなりに絆が強いのだと思う。
だから、今日、こうして下手なマネをしてやらかしちまったのだ。
溜め息を吐いた瞬間…
「お邪魔しまーす!!!」
バ―――ンという大きな衝撃音と共に、三人の人間が現れた。
…あ、しまった。
俺らの休憩場所には誰も立ち入らないと言ったが、例外がいた…
同じ特別科の奴らだ。
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