(3)




「いや、その顔。絶対当たりだって」




「いえいえ、そんなことありません。女子たちは関係ないですよ」




「じゃあ、なんで、


さっき”ファンの女子たちを応援する”なんて言ってたの?


声デカいから全部聞こえてたよ」




「え…。いや、それは、ただ会話の流れで」




「ふーん。俺、見てたけどな…お前に注がれる女子たちの視線。


これでも敏感な方だからさ」




「気のせいだと思いますよ。あたし自身、全く何もないので」




「じゃあ、単純に俺らのことが嫌いってわけ。


一昨日から知り合ったばっかなのに」




「はい。そうなります」





…金城亜輝、かなり迫ってくる。




あたしも、ハッキリ言ってやるんだ!





「…もの凄く嫌いです。あなたたちのこと」





て、さすがに言い過ぎた?




不安と恐怖のあまり、床を見つめることしか出来ない。




とうとう殴られるかも…。




そう思った次の瞬間、大きな手が肩の上に乗せられた。





「そうなんだな。よく分かった」





高橋敬悟だ。





「少々の不満や文句は、覚悟して来たつもりだ。


昨日の件を今日まで引っ張ってきて、すまねぇと思ってる。


ただ…俺ら四人のことはいいから、来登のことだけ大目に見てほしいんだ」





肩に乗った手が…重い。




大目に見ろって?




それは、つまり…。





「来登と友達になってくれ」





はい…?




顎が外れたみたいになった。




と、友達?





「無理だって言ったじゃないですか」





あたしは即座に言った。





「とても嫌いなので、友達にはなれません」





だんだん返しが大胆になっていく。




幼稚園や小学校で学んだこと、完全に水の泡だ。




本当はこんな風に人を傷つけることを言っちゃダメなんだよ…




良い子のみんなはマネしないでね。





「原口夢果…お前の気持ちは分かってる。


でも、来登の気持ちもあるんだ。


俺は兄として、アイツのことを考えずにはいられねぇんだよ」





高橋敬悟は諦めない。





「昨日、アイツ自身が受け入れたことではあるけどな…


あれは本意じゃなかったんだ。


アイツなりにお前のことを尊重しようとした結果だった」





そんなこと言われても…。




無理なんだってば!




アンタたちのせいで、この後、あたしはシバかれるんだよ?(恐らく)





「…もう一度、考え直してくれ。頼む」





高橋敬悟は、じっとあたしの目を見て言った。




いつも強面のその顔には、切実な表情が浮かんでいる。




…なぜ、そこまで。





「どうして、そんなに言うんですか?


高橋来登には、たくさん友達いるじゃないですか。


それに、友達なら、あたしじゃなくてもなれますよね」





高橋敬悟は首を横に振った。





「アイツは、お前に助けられた礼をしたがってた。


今も、お前に感謝してるんだ。


そして、昨日はいつも以上に楽しそうだった…お前がいたからだ」




「あの…、よく分からないんですが。


どうして、あたしなんかといて楽しいんでしょう?


高橋来登の考えてることが、謎すぎて…」




「それは、俺らにも分からねぇ」




「え?」





何だと?




イケヤンの四人は、揃って首を横に振る。





「来登がお前をどう思ってるのか…それは俺らにも分かんねぇんだよね。


多分、来登本人も自分で分かってねぇんだと思う」





金城亜輝はこう答えた。





「ただ興味があるだけなのか、まさかの恋愛感情なのか。


その真相は、来登にしか分からねぇよ」





れ、恋愛…?




到底信じられないけど、金城亜輝に言われれば説得力があるように聞こえ…




いや、やっぱ気のせいだった。




高橋来登のようなイケメンヤンキーと、




地味で冴えないメガネ女のあたしが、恋に落ちるとか……




ただのギャグでしょ。





「…気持ち悪りぃ」





え、何だって?




素早く見ると、新木純成が不快そうに眉をひそめていた。




また突き刺してくる気だ。





「お前、勘違いするんじゃねぇぞ。


来登はお前のことなんか好いてねぇし、


俺らがずっと黙ってると思ったら大間違いだ。


調子に乗ってんじゃねぇ」





…ほらね。




恋愛感情とか言いだしたのは、アンタの仲間(金城亜輝)ですけど?




あたし、勘違いなんかしてないし!




今さらだけど、やっぱり特に苦手だわ。




この冷たい雰囲気と、ナイフのような言葉の数々……




全部、大嫌い!





「純成、お前は黙ってろ。いいな」





高橋敬悟が注意してくれたけど…。




所詮、この男だって、ヤツ(新木純成)の仲間に変わりない。




ていうか、仲間どころか、この一団の事実上のリーダーである。




まったく、誰も信用できやしないんだから…!





「あーあ、原口夢果がさらに心閉ざしたじゃん。


だから純成は何も言うなっつったのに」





金城亜輝が言い、




新木純成の目が一本線のように細くなった。





「俺には発言権もないと言いてぇのか?


そもそも、お前が気持ち悪りぃことを言いだしたせいだろう」




「純成の発言は、その場の空気を変えるんだよ。


お前ら全員がうといから、俺が代表して言ってやったの。それだけ!」





よくぞ言った、金城亜輝。




まあ、アンタも仲間だから同類だけどね。





「ったく、早く穏便に済ませようぜ。いちいち長いのは嫌いなんだよ」





アンタもね、遠藤虎男。




自分が一番、穏便とは程遠いくせに。




ああ、ほんと、イケヤンといたら疲れる。




もういいかな…、帰りたい。





「さっき、お前は俺らに謝ってたな」





…まだダメみたいね。




高橋敬悟、今度は何を言う気だろう。





「俺らは、お前に謝罪を求めて来たんじゃねぇんだ。


ただ、来登と仲良くしてやってほしい…それだけ伝えに来た。


頼むから、





…ん?




なんだか、雰囲気が変わったような――





「来登のことも、そんなに嫌だってのか?


兄の俺が言うのも何だけどよ……


アイツを本気で憎める奴なんて、どこにもいねぇはずだ。


それでも、お前は断るのか」





え、ただの兄バカ?




なんだか怖いんだけど。




唯一、マシだと思っていた高橋敬悟までもが…





「こうなったら…、後半戦だな」





あたしの頭を鷲掴みにして、囁くように言った。




…怖ッ!!!




この感じ……それこそ高橋来登が倒れた直後以来だわ。




まさか、弟のことになると豹変するっていうの…?




いや、もしかすると、これが本来の姿なのかもしれない。




さきほどまでの穏やかな調子は、一体どこへ…。





「年下だろうと、女だろうと、来登の恩人だろうと…


弟のためなら、手段は選ばねぇ。


お前が受け入れると言うまで、俺は絶対に諦めねぇからな。


腕をへし折るか、目を潰すか、頭を叩き割るか…どれがいい?」





手段、選ばなすぎでしょ!




本気で言ってるの?




だって、これじゃ、ヤンキーじゃなくてサイコパスじゃん。





「……」




「答えろ。どれがいい?」




「…どれも、嫌です」




「んだと…?」





高橋敬悟の手が、素早くあたしの顔を掴んできた。




あたしの顔、デカいけど…




高橋敬悟の手に掛かれば、ガッツリ握られてしまった。





「……」





目の前の鋭い瞳を見つめる。




辺りがシーンと静まり返っている気がする。




この空気…耐えられない。




言うんだ、あたし!





「…ずっと言ってますけど、無理なんです。


あたしは高橋来登の友達にはなれません」





あたしの顔を握る手に、力が入った。




凄い力…潰されそう。





「あたしは、今まで、ずっとあなたたちが嫌いでした。


今もそれは変わりません。


あなたたちのせいで、平和な学校生活が乱れた。


友達になるくらいなら…死ぬ方がマシかもしれません。


それくらい、嫌なんです」





なんとか、言えた。




これが、あたしの意志。




紛れもない真実…本音だ。




友達なんて、くだらない……




ましてやイケヤンの高橋来登となんて、有り得ない。





「……」





高橋敬悟も、他の三人も、何も言わない。




あたしの目には、高橋敬悟の顔だけが映っている。




昨日の―、高橋来登の顔が蘇ってきた。




…また、傷つけてしまったのか。




言葉で傷つけられる痛みなら、あたしが一番分かっているはずなのに。





「ほらな。こうなると分かってたんだ」





不意に、新木純成が言った。





「何度言っても無駄だっつっただろ。


敬悟、もうやめとけ…こんな女のことは放っておけってんだ。


ああ、良かった、良かった。こんな奴、こっちから願い下げだからな」





最後の最後まで、刃物のような男だ。




無視していると、





「ずっと嫌いだったって…、話したこともなかったのに?」





金城亜輝が尋ねてきた。





「一昨日まで、俺らはお前の存在すら知らなかった。


お前に嫌われるようなこと、俺らが何したっていうわけ?」




「……」




「答えろよ。理由もなしに嫌われるとか、個人的に許せねぇから」




「…存在が、迷惑だったんです」




「存在が迷惑?…それ、マジで言ってんの?」




「はい」




「なら、ヤベぇと思うよ。普通に」





金城亜輝のこんな不機嫌な顔、初めて見た。




いつもアイドル扱いされているから、




嫌いと言われたのがよほどショックだったのかもしれない。





「俺、お前のこと恨むわ。


俺のことを好きっていう女子はいても、


存在が迷惑だっていう女子は今までいなかったからな!」





あたしを指差しながら、金城亜輝はそう宣言した。




やっぱり、そういうことだったのね。




その点は納得だ。





「でも、来登はコイツを…」





遠藤虎男が入ってきた。





「おい、原口夢果。


今、来登は家で具合悪く寝てんだぞ。良心が痛まねぇのか?」





懸命な様子で、問いかけてくる。





「怪しむのはやめるって、話したじゃねぇか。


俺らの存在が迷惑ってのは、女たちの騒ぎ声がうるせぇからだろ?


それは俺らも迷惑してんだよ。


もし女たちの嫉妬とか食らってんなら、そんなの無視して俺らと付き合えや。


おい、聞いてんのか?」




「無駄だ、虎男」





新木純成が遮った。





「この女は何言っても聞かねぇよ。言うだけ無駄だ」





沈黙が流れる。




その時、高橋敬悟の手があたしの顔から離れた。




反射的に見上げると、そこには……




軽蔑したような、冷たい眼差しがあった。





「…原口夢果。お前はそんな奴じゃねぇと思ってたのにな」





どこか悲しげな、低い声で言われた。





「いいか…”死ぬ”なんて、簡単に言うな。


でも、そこまで言うなら――、俺らにだってプライドがある。


これ以上、どうしようもねぇと判断した。


もう本当に、二度と、お前とは接点を持たない」





…あ。




あたし、やっちゃった。




高橋敬悟の言う通り……”死ぬ”なんて簡単に言うべきじゃなかった。




アナ、ごめんなさい。




あなたのことを学んでいながら、酷いことを言ってしまった。




あたしって、やっぱり愚かね…。





「今回は、特別に見逃してやる…何の手も出さずにな」





あ、今はアナのことじゃなく、イケヤンのことを考えなきゃいけなかった。




高橋敬悟は、あたしを許してくれるらしい。




ああ、良かった…





「ただ、弟をそこまで避けられるのには、正直納得がいかねぇ。


来登がお前に何をした?


来登のことは大目に見てほしいと頼んだのに、お前は聞く耳も持たない。


けど、もうこれ以上は言わねぇ…話を聞いてくれてありがとな。


学校生活をおびやかして悪かった」





”ありがとう”とか”悪かった”とか言ってるけど……




その顔、絶対、恨み持ってるよね?




新木純成は初めからあたしを嫌悪しているし、




金城亜輝もあたしを恨むとハッキリ宣言…




――「イケヤンに恨まれている」という話が、実現した!!




まさかの、嘘が本当になるという事態。




高橋敬悟、新木純成、金城亜輝の突き刺すような視線が、あたしに集中する。




そんな中、遠藤虎男が口を開いた。





「敬悟、これでいいのかよ?」




「ああ」





高橋敬悟は頷いた。





「不甲斐ねぇけど、手ぇ出したら殺しそうだしな…この辺にしよう」





一応、気遣ってくれたらしい。




最後だし…、お礼を言っておこう。





「すみません、ありがとうございます」





頭を上げようとした時、上から押さえつけられた。





「お前、マジなんだろうな?」





頭上から、遠藤虎男の声。





「こんなに言ったのによ…。


こうなることが、お前の望みだったのか?」





その時だ。





「虎男くん…何してんの?」




「あ?…げっ」





押さえつけられた状態のまま、声がした方を見ると…――




短髪の女性が一人。




その背後に、林田先生と岩倉先生が立っていた。





「の、野中!」





遠藤虎男が叫んだ。





「なんでここにいんだよ。下にいろ、下に!」





すると、短髪の女性――野中のなか先生は、こちらに迫ってきた。




あたしたちの目の前まで来ると、





「誰に向かって言ってんだ!」





そう言って、遠藤虎男の頭をベシッと叩きつけた。




いきなりの攻撃を受けた遠藤虎男は、その瞬間、あたしから手を離した。




野中先生は、フンと鼻を鳴らす。





「朝っぱらから、女子に手出してんじゃねーよ。


分かったか、遠藤虎男!」





遠藤虎男に手を上げる人物(しかも女)がいたなんて…。




この衝撃的な勇者は、野中先生という。




一見、短髪なので男性と見分けがつかないけど、女性の教師であり――




現在は二年八組(特別科)の担任として知られる。




女性でありながら、特別科の担任だなんて……スゴすぎる!




ちなみに、野中先生も体育担当で、




あたしのクラスの女子たちは野中先生の授業を受けている。




野中先生はドッジボールが大好きで、




基本的にあたしたちは授業でドッジボールしかしていない。




野中先生曰く、ドッジボールとは、




敵に攻撃を加える・敵の攻撃を回避するの両方を備えたスポーツなので、




社会に出てからも役に立つ技術が身に付くのだという。




中には「ドッジボール大好き男」と言って批判的な生徒もいるけど、




野中先生は男よりも勇敢な女なので、女子生徒の間では比較的人気者である。




…と、説明が長めになったけど。




今、遠藤虎男と野中先生が激しく言い合っているところだ。





「おい、テメー!男でも俺を叩いたりしねぇぞ、どうなってんだ!!」




「あたしはお前の担任なんだから、しつける義務があんだ。


つべこべ言わずに、さっさと教室に来いよ!」




「クソ!朝が台無しだな、おい」




「お前の朝なんか知ったこっちゃねーよ、早く来るんだ。


ところで、来登はどこだ?」




「来登は休みだ」




「休みー?…なんだよ、また体調悪いのか」





高橋来登の話題になった途端、勢いがダウンする。




野中先生は、高橋敬悟と新木純成と金城亜輝の方を向いた。





「来登の具合、大丈夫そうか?」




「ああ」





高橋敬悟は頷いた。





「念のため、休ませただけだ。どうってことない」




「そうか。じゃあ、虎男だけ連れてくわ。


お前ら今年こそは留年しないように頑張れよ!」




「黙れ」





留年組の三名(高橋敬悟&新木純成&遠藤虎男)が、同時に言い返した瞬間。




野中先生の目が、ふとこちらに向けられた。





「ああ、原口だったのか。大丈夫?」




「あ…はい、大丈夫です」




「うちの虎男が、ごめんな。ちゃんと言って聞かせとくから!」





遠藤虎男を掴みながら、ニッと笑う野中先生。




一瞬、こんなことが頭をよぎった。




”この爽やかな笑顔にも、何かしらの裏があるのだろうか?”




この高校の教師たちのせいで、進真は深い人間不信に陥ってしまったのだ。




どうしても、疑心暗鬼にならずにはいられない。





「オイ、原口夢果!」





うわ、ビックリした。




見ると、遠藤虎男が野中先生に連行されながら歯を剝き出していた。





「俺らがしつこいってのもあるけどよ、


お前には俺らと話そうっていう気が無さすぎんだよ!


結局、自分のことしか考えてねぇんだろうな!


お前は…最悪な奴だ!!」





野中先生が、また遠藤虎男の頭を叩いた。





「黙れ!最悪なのは、お前だろうが!」




「っるせーよ!放せ、自分で歩く!」




「ったく…。


じゃあ、林田先生、岩倉先生、あとよろしくお願いします」





遠藤虎男と野中先生が去っていくと、林田先生と岩倉先生が動き出した。




岩倉先生はニヤニヤしながら、




高橋敬悟と新木純成と金城亜輝の方へ近寄っていく。




すると、高橋敬悟がさっそく反応した。





「何が面白ぇんだよ?ニヤつきやがって」





昨日も思ったけど、岩倉先生に対しては当たり強めだよね。




まあ、当の岩倉先生はダメージ受けてないようだけど。




はがねのハートじゃなきゃ、特別科の担任なんて務まらないもんね!





「何があったか知らないけどな、」





岩倉先生は言った。





「学校の中で、不純異性交遊なんかするんじゃない。


やるなら、どっか見えない場所でしなさい」





…ん?




不純異性交遊?




どういう意味?




高橋敬悟も、意味が分かっていない様子だ。





「不純異性交遊だと?何のことだ」




「お前と原口だよ」





岩倉先生は答えた。





「さっき、原口に無理矢理、キスしようとしてただろ」




「はぁ?」





高橋敬悟の聞き返す声が響いた。




初めて見る、アホ面だ。




きっと、あたしも同じような顔になっているだろう。




高橋敬悟が、あたしにキスを強要?




どこから、そんな誤解が……




あ、さっき、顔を掴まれていたから?




いやいや、あの状況がそんな風に見えるなんておかしい!




勘違いが酷すぎるわ!




昨日も、あたしたちが付き合ってるとか思い込んでいたし…。




岩倉先生の中では、勝手にストーリーが進んでいるってこと?





「付き合いたての時期は一番盛り上がるだろう。


気持ちは分かるけどな、健全な付き合いをしなくちゃダメだ。


敬悟、俺のアドバイスをちゃんと聞い…」




「待て。テメェ、またとんでもない勘違いをしてんだろ。


俺と原口夢果は付き合ってなんかねぇって…――


クソ、コイツの誤解を完全に解決してなかったな」





心から後悔している様子で、「なんて失態だ」などと呟く高橋敬悟。




その横で、新木純成と金城亜輝が口々に言った。





「敬悟、ご愁傷様。取り返しのつかねぇ大失態だな」




「付き合ってるどころか、むしろ亀裂が入ったっていうのに」





この二人、それとなくあたしにも言っているような気が…。




イラついていると、後ろからポンと肩に手を置かれた。




林田先生だ。




この怪しげな笑顔…、一体何を考えているんだろう?




そう思っていると…





「岩倉先生、ダメだよ。


原口さんは、恋愛禁止なんだから」





さっそく、何か言いだした。





「だって、原口さんは地下アイドルになるんだもんね。


今から気合い入れて恋愛禁止にしとかなきゃ」




「…はい?」





思わず聞き返した。




地下アイドルになるなんて、いつ誰が言った?




ほら、岩倉先生とイケヤンの三人も、目を丸くしている。




”え、お前が?”と言いたいんだろう。




ちょっと、さらに変な誤解されたんですけど!




怒りのオーラを漂わせるも、林田先生はキーピング・スマイル(英語合ってる?)。





「ということでね、岩倉先生」





あたしのことなど無視で、林田先生は言った。





「うちの原口を、そっちのワルどもに渡すことは出来ないよ。


それじゃあ、お先に」





岩倉先生もイケヤンの三人も、何も言わない。




…さすがは、見た目の良さで救われているクセ男。




そのクセ男に押されるようにして、あたしはようやく教室へと入っていった。





「チラッと聞いてはいたけど、本当に彼らと知り合いだったんだ?」





教壇のところまで来ると、林田先生は言ってきた。




一瞬、笑って誤魔化そうかと思ったけど……




この人(林田先生)にまで誤解されていたら厄介だろうし、




事実を伝えることにした。





「先生、岩倉先生の言うことは信じないでください。


全部、誤解ですから。


あたしは、ただ単に、あの人たちから恨まれているだけで…」




「岩倉先生は一度思い込んだら、そのまま突っ走る人間だからね。


まあ、好きに言わせてればいいよ」





林田先生は、想像以上にあっさりと返してきた。




この人のことを、クールっていうんだね…やや面倒なクールだけど。




ハア、と心の中で溜め息を吐いた。




林田先生も男だから、あたしの思いなんか想像できないんだろう。




イケヤンを巡る嫉妬が、どれほどのものか…。




きっと、ただじゃ済まされないに決まってるんだ!





「このまま進路について何も決めないなら、


本当に地下アイドルになってもらうからね」





突然、林田先生が言った。





「けっこう人気出ると思うよ。応援するけどねー」




「結構です。アイドルとかなりませんから!


しかも、なぜ、あえてなんですか」




「地上より、地下の方がお似合いかと思ってね。


ほら、早く座って、原口さん。


もうホームルームなんだから」





そう言われ、自分の席へ行こうとすると――




こちらを睨む、たくさんの





「……」





気が付いていないフリをしながら、あたしは席に着いた。




その瞬間、学級長の宇佐美真琴が号令をかけた。





「起立!」





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