1・あたし

あたし




『友達なんかいらない。独りでいる方が、ずっといい』





そう誓ったあの日から、数年が経った現在。




あたしは、高校三年生となり、とうとう高校生活最後の一年のスタートを切った。




今年で高校に入学してきてから三年目を迎えたわけだけど、




あたしは未だに、ずっと同じ問題と向き合っている。




それは……





「”花の高校生”とは、何ですか?」





という問題である。




一体、誰が、そんなことを言いはじめたんだろう。




高校生だったら、誰しも「青春」の日々を過ごしている?




そんな思い違い、一体、誰がしたんだか。




世の中に、百パーセントは存在しない。




それと同じように、




全ての高校生が、「青春」らしい日々を過ごしているとは限らないのだ。




そう、このあたしのように。





あたしの名前は、原口夢果はらぐちゆめか





今年のお誕生日で、十八歳になる予定。




かつて不良校として有名だった、




私立日ノ出ひので学園高等学校――略して、日ノ学ひのがく――に通っている。




さきほども説明したけど、この高校に入学してきてから三年目。




しかし、いつまで経っても、ちっとも愛着が湧かない。




なぜなら、あたし自身、この高校に望んで入学したわけではないからだ。




じゃあ、なぜ入学したのか?




それは、ハッキリ言って、他に「行き先がなかった」から。




これも説明したことだけど、




あたしは、勉強――特に数学が致命的に出来ない。




つまり成績がとても悪かった。




成績が悪いということは、進学できる学校が限られてくることを意味する。




日ノ出学園高校は、私立だし、




かつて不良校として有名だったため、未だに聞こえが悪い部分があるけど、




偏差値が県内でも有数の低さで、




行き場のない生徒たちにとっては最後の砦である学校だ。




というわけで、あたしは必然的に日ノ出学園高校行きだったのである。




とはいっても、三年目を迎えて改めて思うのが、




あたしは典型的な日ノ学生とはかけ離れた生徒だ。




典型的な日ノ学生というのは、例えば女子であれば、




スカートを最大限に短くして、靴下も短くして、




襟元を開け、最低限のメイクくらいはしている。




まあ昔ほどのギャルやヤンキーはいないにしても、




かつて不良だらけの高校として有名だっただけあって、




その名残は十分にあるわけだ。




それに対して、あたしは――




メガネをかけていて、




黒い髪を首のすぐ後ろできちんと結んでいて、




スカート丈も靴下もフル伸ばし、




襟もきちんと上まで留めていて、その上に仕上げのリボン。




決して可愛くはないし、若々しさも全くない。




そんなあたしは、見かけも中身も、日ノ学生の中で浮いている。




まあ、この高校に限って言えることではないけど……




あたしが地味で冴えない浮いた生徒であることは確かだ。




一年生の時も、二年生の時も、




そして、三年生になった今も、あたしは孤独な学校生活を送っている。




教室では、いつも独りで本を読んだりして過ごし、




授業などで教室を移動する時も、トイレへ行く時も、




お昼休みにお弁当を食べる時でさえ。




あたしは、いつも独りだ。




純粋に周囲に馴染めないということも理由にあるけど、




どのみち、あたしには独りが一番都合が良い。




独りだったら、




周りと比べて、自分が変わっているとか思わなくていいし、




誰かに心無い言葉を浴びせられることもないから。




そういうわけで、




例の「花の高校生」らしいことは、何一つ経験できていないけど、




このまま何の問題もなく、静かに卒業ができればそれでいいのだ。





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