第8話

 離婚後は実家に戻った。

 仕事には直ぐに就いたけれど、出戻りで肩身の狭い思いをしている。

 あれから元夫の夢は一度も見ないけれど、彼の夢は時々見る。

 彼の夢を見た日は、やはり一日中嬉しい。

 そんな日は、彼と一緒に過ごした遠い日の事を思い出していた。


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 そして、また桜の季節がやって来た頃、同期だった女の子から電話が掛かって来た。久し振りに同期で集まるらしい。

 特に行けない理由は無いので参加する事に。


 参加者は五人。その中には彼の姿が……。

 そもそも、彼が数年振りにこちらに来るというので、集まる事になったそうだ。

 会うのは十年振りだと思う。


 彼は余り変わっていなかった。あの頃と変わらない優しい笑顔。

 時々目が合うと、嬉しそうに微笑んでくれる。

 会社を辞めて地元に帰ると言った時の、苦しそうで悲しい顔はそこには無かった。きっと地元で幸せに過ごしているのだろう。


 お喋りな同期が、またプライベートな事を聞きまくっていたけれど、彼は苦笑いしながら上手にかわしていた。

 私の事も聞かれたけれど、思わず離婚したことは隠してしまった。

 同期は皆結婚していて、何だか幸せそうだったからだ。


 その後、二次会で久し振りにカラオケに行き、あの頃に歌った曲を皆で熱唱した。

 何だか昔に戻った気がして、とても楽しかった。

 時間延長を繰り返して、お店を出たのは終電に近い時間。

 駅前で解散になり、皆と手を振って別れた。


 彼の宿泊先が同じ方面だったので、私の乗り換えの駅まで一緒の電車に。

 当り障りの無い話をしながら乗り換えの駅に着くと、”見送るよ”と言って彼も一緒に降りて来た。

 そう言えば一緒に働いていた頃、同じように電車で帰っていた時に、彼がふざけて私が降りるのを邪魔して、そのまま乗り過ごした事があった。

 怒る私に次の駅まで彼が謝りまくっていた事を思い出し、可笑しくなって来て、思わずひとりで笑ってしまう。

 話して見ると、彼もその事を覚えていて、面目めんもく無さそうな顔をしていた。


 そんな彼を見ていたら、あの頃に彼に抱いていた気持ちを思い出した。

 ホームの外には月明かりに照らされた綺麗な桜が咲いている。

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