第7話

 結婚して直ぐに携帯の番号を変えた。夫がそう望んだからだ。

 夫から許しが出た親類や同期の女の子には連絡したけれど、他には誰にも伝えられなかった。

 でも、愛情からの独占欲だと思って受け入れた。


 新しい街で仕事に就き、いつの間にか数年が過ぎていた。

 私達夫婦には、なかなか子供が出来なかった。

 お互い特に問題は無さそうだったけれど、さずからなかったのだ。


 日々の生活に追われ、彼を思い出す事は無かったけれど、不意に夢に見ることがあった。

 夫に不満が有るわけでは無い。

 でも、彼の夢を見た日は一日中嬉しい気持ちになった。


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 そんなある日、夫から記入済みの離婚届を渡された。

 会社の後輩に手を出して、子供が出来たそうだ。


 今まで見ない様にしてきたけれど、本当は結婚直後から、夫の私への態度は冷たかった。

 辻褄つじつまの合わない残業や出張も多かった。

 夫からは散々文句を言われ、私がもっと尽くすべきだったと怒鳴られた。

 でも、言われた事は、身に覚えがない言い掛かりばかりだった。


 夫に対して愛情が無かった訳ではないけれど、それ以上一緒に居るのも嫌になり、離婚に応じる事にした。

 離婚届を出しに行った日は、どんよりとした雨模様の日。

 元夫は私を汚い物でも見るかの様な顔をして、役所の前から足早に立ち去って行った。


 役所の前の歩道に、雨で散った桜の花びらが散乱している。

 雨に打たれたあの日から、私は何も変わっていない。

 一歩も踏み出せないまま、私はまだ冬の中に居る。



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