第6話

 それから二年が経ち、私は人の紹介で出会った人と結婚する事になった。

 年齢的にも親を安心させたかったし、優しくて良い人だと思ったからだ。


 結婚前に婚約者の転勤が決まり、結婚後は会社を退職して転勤先に付いて行く事にした。

 仕事は続けたかったから、引越し先で何か職を探そうと考えていた。


 でも、結婚が近づくにつれて、私は彼の事を思い出す様になっていた。

 何故だか分からないけれど、彼と過ごした日々の事を思い出すのだ。


 優しい人だった。

 一緒に居て楽しかった。

 もっと一緒に居たかった。

 私もきっと、彼の事が好きだった……。


 ----


 結婚式の一週間前に、どうしても我慢ができず彼に電話を掛けた。

 もう番号も変わっているかも知れないし、もし彼が出なければ二度と掛けないつもりでいた。

 でも、ワンコールで彼は出た。


「久しぶり。元気にしてた?」


 彼の優しい声が聞こえて来て胸が締め付けられる。


「どうした?」


 私がいつまでも話さないから、彼が戸惑とまどっていた。

 深呼吸をして声を絞り出す。


「うん。あのね、ちょっと報告があって」


「なになに」


「私、結婚するんだ」


 彼が息を吸い込む音が聞こえて、それからしばらく、お互いに無言になってしまった。


「どうしても、この事はあなたに伝えないといけない気がして……」


「お、おめでとう。そっかぁ…………」


 押し黙った彼が”間に合わなかった”って小声でつぶやいたのが聴こえた気がした。


「あ、いや、ごめん。本当におめでとう」


「うん……」


「幸せになってね」


「うん……」




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