第5話
それから二年位経った時に、一緒に食事をしていた彼から翌月で会社を辞めて地元に戻る事を知らされた。
実家から帰って来なくなった奥さんの為らしい。
私は良く分からないショックで、それから殆ど話せなくなってしまった。
落ち込んだ私を励まそうと思ったのか、彼はいつも以上に明るく振舞ってくれた。
彼はそうやって、いつも私に優しくしてくれる。
それまで恋愛感情では無いと思っていたけれど、彼が居なくなると分かった瞬間から、胸が苦しくて悲しくて堪らなかった。
お店を出て駅まで一緒に歩いた。
何とも言えない重たい空気の中、私も彼も一言も話せなかった。
でも、彼が急に手を握って“キスがしたい”と言い出したのだ。
驚いて彼を見ると”君の事がずっと好きだった。本当はこのまま離れたくない。君と一緒になりたい”と言って私を抱きしめた。
嬉しかった。私もそうなりたいと思った……。
それでも、私は自分の気持ちを、芽生えた想いを抑え込んだ。
「ダメだよ。奥さん居るのに。今キスしたら本気になっちゃうよ。そしたら困るでしょ? 止めよう」
悲しみに耐えて、彼の体を押し戻した。
彼は私を困らせた事を謝って、静かに駅に向かって歩き始めた。
翌月、彼は会社を去り、地元へと帰る事になった。
私は同期と三人で彼を見送りに。
彼は独りで小さな荷物を抱えていて、私たちの他には見送りは居ない。
駅のホームで最後にハグをした。
とても優しいハグだった。
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