第4話

 彼が転勤して来てから半年が経ち、彼は地元で結婚式を挙げ、十日後に新婚旅行のお土産を持って出社してきた。

 仕事も真面目で周囲に好かれていた彼は、大量のマカダミアナッツチョコと共に皆から祝福されていた。


 結婚前は会社からそう遠くないアパートに住んでいたけれど、結婚を期に奥さんと広い部屋に住むために、会社からは遠い場所に引っ越して通勤で苦労している。


 満員電車で通勤してくるので、時々Yシャツに口紅を付けられたり、スーツのボタンが外れそうになった状態で出勤して来たりしていた。

 そんな時は、休憩室でYシャツを脱いで貰い、口紅を落として目立たない様にしてあげたりボタンを付けてあげたりした。

 そんな感じで、彼の結婚後も仲の良い同期として変わることなく一緒に過ごしていたのだ。


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 それから一年経った頃から、いつも直ぐに家に帰っていた彼が、やたらと社内の人達と飲みに行くようになり、私たち同期とも飲食の回数が増えていた。

 変に思った同期の子が理由を聞くと、奥さんが里帰りして家に居ないという事だった。

 そんな事が定期的にあり、彼が”独りだ”と言う期間が長くなっていた。


 その時期から彼に二人で食事に誘われる事が多くなった。

 同じ営業部だから残業で帰りが一緒になる事が多く、彼が”帰っても食事が無い”と言うので、駅の近くで食事に付き合う事が多くなったからだ。

 彼の独りの期間があまりにも長いので、それとなく事情を聴くと、奥さんがこちらの生活が合わないみたいで、実家から帰って来なくて苦労しているという事だった。


 彼は話が上手で一緒にいて楽しかった。

 時々、冗談めかして私に好意がある事を伝えて来たけれど、お互いにそれ以上踏み込む事はなかった。

 私にその気は無いし、彼もいい加減な人では無かったからだ。


 それでも、夕食を食べた後に街を歩いたり喫茶店で話に花を咲かせていると、“彼に奥さんや彼女が居ない時に出会えていたら良かったのに”と思う事はあった。



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