第3話

 社会人になってから二度目の春を迎えた。

 あれから恋に憶病おくびょうになり、誰ともお付合いはしていない。

 友達の紹介や合コンでの出会いはあったけれど、前に進む気持ちにはなれなかったからだ。


 会社の更衣室で制服に着替えると、月に一度の朝礼が始まる時間になっていた。

 同期の女の子と目が合うと、彼女が嬉しそうに部長の横を指さしている。

 視線を向けると、部長の横には同期入社の男の子が立っていた。

 まあ同期と言っても、彼は四年大学を出ているから二歳年上だ。

 そう言えば四月の異動で、今日から出社だと部長から聞いていた気がする。


 彼は地方の支店に配属されてから、わずか二年で本社に異動になったのだ。

 きっと私たち同期の中では一番の出世頭だと思う。

 新入社員研修での彼の溌溂はつらつとした受け答えは、何となくそれを予感させるものがあった。


 新入社員研修で同じ班だった八人は今でも仲が良く、出張で本社に誰かが来ると必ず一緒に飲みに行く。

 今日は彼の歓迎会という事で、本社勤務の同期四人で飲みに行く事になった。

 事務方の女子三人に男は彼一人だけれど、総合職の女の子が出張で来ない限りいつもこんな感じの飲み会になる。


 四人で駅前の居酒屋に入り「取りあえずウーロンハイ」で歓迎会が始まった。

 お酒が進み酔いが回って来たのか、一番お喋りな子が彼のプライベートな事を聞き始めた。


 話を聞いていると、彼は相変わらず学生時代からの彼女と遠距離で付き合っているそうだ。

 本社勤務になり更に距離が遠くなって大丈夫か聞いたら、実は今年の秋頃に結婚すると言い出した。

 余りに急な話に驚いたけれど、彼女の家族の事情で急ぐという事だった。


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 しばらくすると、社内にもこの話は伝わり、まだ二十四歳の彼が結婚する事を知って、彼の事が気になっていたのか事務方の独身女性の多くが落胆していた。


 彼は結婚することに浮かれる事も無く、仕事を的確にこなしていき、本社営業部の戦力として十分に活躍している。

 事務方の私に仕事を渡す時もいい加減な事は絶対にしない人だ。


 彼に婚約者が居る事も分かっているので、特に意識せずに楽しく話せたし、仕事もお互いにサポートし合って上手く行っている。

 とても仲良くしていたけれど、もちろん私に恋愛感情は無く、人として好きだと感じていただけだった。



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