第63話 始末
一〇隻の米巡洋艦と四七隻の米駆逐艦が這うような速度で東へと航行を続けている。
隊列も乱れており、その姿は敗残兵もしくは落ち武者のようだ。
そのうち、駆逐艦のほうは昨日の第二次攻撃終了時点で五二隻が浮いていたはずだった。
おそらく、そのうちの五隻は機関か船体のいずれかに大きな損傷を受けていて、そのことで速度が上がらないかあるいは航行不能となったために撃沈処分されたのだろう。
一方で、いまだに東進を続けている米巡洋艦や米駆逐艦も、そのいずれもが天山や紫電が投じた六番や二五番の直撃弾を浴びており、無傷の艦は一隻も無い。
どの艦も生々しい被弾痕を残しており、中には主砲塔や煙突が吹き飛んでいるものさえある。
そんな満身創痍の彼らではあったが、だがしかし昨日の午前に沈められた九隻の空母とさらに午後遅くに撃沈された六隻の新鋭戦艦に乗り組んでいた友軍将兵をただの一人も見捨てることなく、その救助を成し遂げた。
被弾によって発生した火災や浸水にさらされながらもそれらに果敢に立ち向かい、そのうえ海上に漂う同僚たちを救いあげたのだから、そのことについては敵ながらあっぱれと言ってよかった。
だが、その代償として彼らは一晩経ってなおミッドウェー海域からさほど距離を置くことが出来ないでいた。
そのようなこともあり、小沢長官が追撃に送り出したそれぞれ四隻の「妙高」型重巡と「最上」型重巡、それに一六隻の駆逐艦はすでに米残存艦隊を追い越し、それらに対する阻止線を形成していた。
昨日、米艦隊撃滅に二度の攻撃隊を送り出した第一艦隊と第二艦隊、それに第四艦隊、それとミッドウェー基地と米艦隊の両方を相手取った第三艦隊は夜を徹して行った修理の結果、紫電改が三七一機に天山のほうは一二五機にまでその戦力を回復させていた。
一晩のインターバルを得た搭乗員もかなりの程度疲労を回復しており、人材、機材ともに十分な戦闘力を維持している。
そうであるならば、攻撃をためらう理由は無い。
小沢長官は万一に備え、各空母に一個小隊の直掩機を残す一方で、あとの機体はすべて攻撃に送り出した。
二九九機の紫電と一二五機の天山は必死の逃亡を図る米残存艦隊に容赦することはなかった。
米巡洋艦に対しては一二機乃至一三機の天山が雷撃を敢行、前日の被弾によって速度の上がらない米巡洋艦はそのことごとくが複数の魚雷を浴び、一隻の例外もなくミッドウェー東方沖の海底に叩き込まれた。
二九九機の紫電による緩降下爆撃の猛攻にさらされた四七隻の米駆逐艦は、こちらも巡洋艦と同様に前日の被弾がたたり自在に回避運動が出来る艦はほとんど無かった。
通常であれば、さほど命中率の高くない緩降下爆撃も、的の動きが鈍ければそれなりに戦果も上がる。
紫電からそれぞれ二発ずつ、合わせて六〇〇発近く投下された二五番のうちで命中したのは一五パーセント強の九〇発にしか過ぎなかったが、装甲防御が無に等しい駆逐艦にとって二五〇キロにもおよぶ重量爆弾は至近弾でさえも大きなダメージとなった。
昨日からの被害の累増で、四七隻の駆逐艦のうちの半数あまりがこの攻撃によって回復不能の傷を負った。
一方、致命傷を免れた二〇隻ほどの米駆逐艦に対し、今度は追撃部隊の「妙高」型や「最上」型といった八隻の重巡と一六隻の駆逐艦が襲いかかる。
「待て」の命令によって獲物に飛びかかることを禁じられていた猟犬が解き放たれたかの如く、八隻の重巡と一六隻の駆逐艦は米残存駆逐艦に対して容赦無い攻撃を仕掛ける。
八隻の重巡は傷ついた米駆逐艦に二三センチ砲弾をしたたかに浴びせ、一六隻の駆逐艦は惜しげも無く酸素魚雷を放つ。
ほとんど航跡を残さない一九二本の青白い殺人者が本来の機動力を発揮できずにいる米駆逐艦の脆弱なその横腹を食い破り、直後に膨大な破壊エネルギーを解放する。
駆逐艦であれば一本で戦力喪失、二本食らえばまず浮いていられない。
実際、被雷した艦はこれまでに被っていたダメージもあってそのほとんどがミッドウェーの海に吸い込まれていった。
運よく被雷を免れた艦も「朝潮」型の一二・七センチ砲弾や「陽炎」型が放つ一〇センチ砲弾の洗礼を浴び穴だらけにされていく。
その米駆逐艦には沈みゆく空母や戦艦から救助されたものの、だがしかし艦内に収容しきれなかった将兵の多くが甲板にひしめいていた。
そして、そこに砲弾が飛び込むたびに地獄絵図が展開されていく。
その惨状は、攻撃側の日本の将兵が顔をしかめるほどだった。
一連の攻撃が終わった時、米駆逐艦のそのほとんどは海面下に没し、浮いているものはただの鉄の塊へとその姿を変貌させていた。
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