第60話 あとひと押し
「第一艦隊と第二艦隊、それに第四艦隊から出撃した攻撃隊はそれぞれ三群ある米機動部隊を攻撃、正規空母四隻ならびに軽空母五隻を撃沈し、巡洋艦二隻と駆逐艦二四隻を撃破。
また、上空にあった敵の新型戦闘機、おそらくはかねてから噂のあったF6Fヘルキャット戦闘機と思しきそれを一四七機撃墜。
さらに、四〇〇機程度と思われる敵攻撃隊を迎え撃った直掩隊はそのほとんどを撃墜。
それと、ミッドウェー基地を攻撃した第三艦隊の攻撃隊は敵戦闘機を六八機撃墜、同時に飛行場ならびに関連施設を徹底破壊、同基地の一両日中の使用は不可能との報告も入ってきております」
冷静に戦果報告を読み上げようと努める航空参謀ではあったが、その声音に興奮の色は隠せない。
一方、小沢長官のほうは表情を変えず、小さく首肯してその先を促す。
「次に我が方の損害ですが、敵機動部隊を攻撃した第一艦隊と第二艦隊、それに第四艦隊の攻撃隊は紫電一七機に天山四四機が未帰還、直掩隊は紫電二五機を失っています。
ですが、その直掩隊の奮闘のおかげで我が艦隊には一隻の被害もありません。
それと、ミッドウェー攻撃を担当した第三艦隊のほうは被害が比較的軽微で、紫電一一機に天山七機の喪失にとどまっています」
航空参謀が読み上げたそれを信じるのであれば、戦果については申し分無かった。
第一艦隊と第二艦隊、それに第四艦隊から発進した一六八機の紫電と二一六機の天山は完璧な仕事を成し遂げ、米艦隊の中核戦力である空母を一隻残らず沈めてくれたのだから。
特に第二艦隊と第四艦隊に比べて二倍の数の天山で敵機動部隊の中央群を叩いた第一艦隊の戦果はめざましく、一〇八機のそれらは正規空母二隻と軽空母一隻のほかに護衛の巡洋艦や駆逐艦をすべて撃破した。
このため、前衛の戦艦部隊は駆逐艦の半数を中央群の溺者救助のために差し向けざるを得なくなった。
だが、多大な戦果が挙がった一方で被害も決して小さくはなかった。
特に敵機動部隊への攻撃を担当した第一艦隊と第二艦隊、それに第四艦隊の天山は完全な制空権下での攻撃だったのにもかかわらず、二割を超える未帰還機を出してしまった。
そのいずれもが、宝石よりも貴重なベテラン搭乗員が駆る機体だ。
「敵艦隊の動きはどうなっている。それと、すぐに使える天山はどれくらいある」
小沢長官の端的な問いかけにまず航海参謀が、次に航空参謀が口を開く。
「四群からなる米艦隊はそのすべてが発見された海域にとどまっています。
おそらく、機動部隊はそのすべての空母が撃沈されたうえに駆逐艦の多くを撃破されましたから、そのことで溺者救助がはかどらないものとみられます」
「すぐに使える天山は第一艦隊が四三機に第二艦隊が二〇機、それに第四艦隊が二一機です。また、ミッドウェー基地攻撃を担当した第三艦隊のほうは六四機が使用可能とのことです」
敵艦隊を攻撃した第一艦隊と第二艦隊、それに第四艦隊の天山はそのいずれもが戦闘開始当初に比べて即時使用可能機が四割以下に激減したのに対し、第三艦隊のそれは六割近くを残している。
それら一四八機の天山というのは一大戦力ではあったが、だがしかし米残存艦隊の数はあまりにも多い。
特に対空火力に優れた米戦艦は、そのいずれもがいまだ無傷を保っている。
これらを確実に始末するには戦力の上積みが必要だった。
そのことで小沢長官は使えるものはすべて攻撃に振り向けることを決断する。
「天山は全機雷装、紫電は各空母に一個小隊を直掩に残し、あとの機体は爆弾を装備させたうえで出撃させろ。紫電は巡洋艦と駆逐艦、天山はもっぱら戦艦のみを狙わせる。
それと、各艦隊の巡洋艦戦隊に一個駆逐隊をつけて敵艦隊に突撃させろ。ここで一気に勝負を決める」
小沢長官の決意の込もった命令に幕僚たちが動き出す。
敵の水上打撃部隊はいまだ強大だ。
「ノースカロライナ」級ならびに「サウスダコタ」級と思しき六隻の新型戦艦はなによりの脅威だ。
仮に戦艦だった頃の「長門」型や「扶桑」型が手元にあったとしても勝利することはおろか、差し違えることすらも無理だろう。
まして、巡洋艦や駆逐艦であれば手も足も出ず、一方的に打ちのめされることは目に見えている。
「だが、もはや戦艦の時代ではない」
小沢長官もその幕僚たちもすでにそのことを確信している。
だからこそ、三六センチ砲から四一センチ砲に換装した「扶桑」型戦艦や、なにより国民に長年にわたって親しまれてきた帝国海軍の象徴ともいえる「長門」や「陸奥」を多大な資材と労力を使ってわざわざ空母に改造したのだ。
そして、その判断が正解だったことはここまでの戦いがそれを証明している。
最終勝利まで、あとひと押しだった。
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